9 嫉妬と憎しみの末路

お題:悔しいおっさん

必須要素:サスペンス

制限時間:15分



初めて就職した会社。

初めてできた上司。

そして、初めてできた、同性の恋人と呼べる人。

俺は幸せの絶頂で、これからもっともっと仕事に打ち込んで、あの人の横にしっかり並んで恥ずかしくないように、一緒に立てるようになりたい、そう思っていた。

自宅のマンションの階段を登り最上段に足を掛けようとしたところで、俺の視界は反転し、身体は真っ逆さまに登ってきた方へと引き摺り下ろされた。


「君が悪いんだよ。俺の目の前に現れて、あいつをかっ攫うような真似するから」


階段から転げ落ちた時に打った、左半身が酷く痛む。

どうやら頭を打ったらしい。

突き落としただけじゃ駄目だったと分かったそいつは、俺の上半身の上に座り、首を締め上げながら狂ったように笑う。


ああだめだ、目の前が真っ白になってきた。

でも微かに残る意識の中で見たおっさんの顔はすごく悔しさと憎しみに満ちていて、危機的な状況なのに、何故か笑えた。

だってそんな顔、敗けたって認めているような顔だったから。


「…俺を殺したいなら殺しなよ、おっさん」


やっとの息の中で、俺はふっと笑って見せる。


「俺を消したって、どうしたって、あの人の中にいるのは、俺だ」


一層力がこめられた腕に、意識はそう長くは持たないだろうと察する。

ああ、こんなことになるなら、今日は残業で遅くなるというあの人の帰りを待って、俺も何かしていればよかった。

俺に手伝える仕事なら、一緒に終わらせて帰りたかった。


もう指一本も動かすような力は残っていない。


「…ごめんなさい、俺はもっと貴方の隣で生きていたかった」

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