8 海外転勤のその裏で(未完)

過去に書いていたものの再掲。

お題:恋の闇

必須要素:義眼

制限時間:30分



27歳、会社員、男。

会社の中でも中堅と呼ばれる立場になり、まだ独身で恋人もいない。

先日まではそんな普通の生活を送っていたが、学生の頃に趣味で海外を何箇所も旅行し英語もそこそこ得意だという経歴も相まって、海外支店への転勤が決まった。

元々海外の新しい文化に触れることは好きだし、海外支店でしかできないことも山ほどある。

意気揚々と向かったその国は、着いてみると中々いい街だった。

働き始めて1週間、やっと仕事仲間の名前と顔を覚え、仕事にも慣れてきた頃。

俺と、同時期に別の日本支店からやってきた同期と2人、部署内で歓迎会をして貰えるということになり、飲み屋街へとやってきた。


「もうこっちの生活には慣れたかい」


自宅にも靴を脱がずに入るという文化のあるこの国にしては珍しい、大広間の座敷。

入れ替わりながらたくさんの同僚と話をして、やっと部長の隣に来ることができた。

会社単位でも、後日歓送迎会を開くことになっているらしい。


「はい、大分慣れてきました。部長はこちらが長いのでしたっけ…分からないことがあったときはまた教えてください」

「もう移り住んで12年になるかな。じゃあまだここに来て1週間の君に1つ。この国の女には気を付けておくこと」

「…女?」

「ああ。油断していると”こう”なるよ」


部長は眼鏡の奥の右眼を指差して苦笑する。

そこにあるのは義眼…同じ瞳の色で精巧に作ってあるから普段の生活では殆ど目立たないが、じっくり見れば動きで分かる。


「ちょっと部長!まーたその話ですかぁ?」

「いや、いくら当時の俺が若かったとはいえ、同じ目には遭ってほしくないと思ってね」


横から茶化しに入ってきた先輩も、同じ話を聞いたことがあるらしい。

『気をつけろ』というだけあって、この国に来てから義眼になったということだろうか。

確かにこの国の女性は”アジアンビューティー”という言葉がぴったりの黒髪の美人が多く、日本人が好みそうなタイプが多いのだが…確か部長の奥さんは、日本から一緒にこっちに移り住んできた日本人だったはず。

…そんなことを考えながら、部長から聞いた話はこうだ。


12年前。

部長がまだ平社員で、ここの支店に転勤になってすぐの頃の話だ。

部長はとあるバーで知り合った、綺麗な女性と恋におち、付き合い始めたという。

容姿端麗、性格もよく、部長もいい年頃だったことから、数年付き合ったら結婚も考えていたという。

しかし、その知り合ったバーというのが裏社会に繋がる店、そしてその女もその道の人間だったらしい。

寝ている間に襲われる形で右眼をやられ、命からがら逃げだした…


「だから悪いことは言わない、裏道と女には気を付けて」

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