5 その水は

過去に書いていたものの再掲。

お題:奇妙な水

必須要素:コート

制限時間:15分



ここのところ、朝晩は特に冷え込むようになってきた。

いつものように満員電車に詰め込まれなければならないのかと内心溜息を吐きながら、コートを羽織り自宅を出る。


昨夜降り続く雪に嫌な予感がしていたのだが、やはり積もったらしい。

外に1歩出れば一面の雪景色で、歩くと道路に足跡が残る。

今年初めて積もった雪に、きっと子どもだったらはしゃぐところだろうが、大人となった今ではそうそう感動を覚えることもなく。

革靴を履いているためすぐに足が冷えてきて、足元ももう少し厚着をしてくるんだったとただ後悔しただけだった。


程なくして、最寄駅についた。

幸い雪の影響はなく、どの列車も通常通り運航しているようだ。

ホームでは見覚えのある制服を着た高校生が、マフラーに顔を埋めるようにして暖をとっている。

きっとそのスカートの長さでは寒いだろうに…膝上までしかない短いスカートからは、ハイソックスを履いただけの素足が覗いていた。

そんなことを思いながら待っていると、列車がホームに入ってきた。

自分が乗る予定だった、職場の最寄駅に着く急行列車だ。

普段よりまだ人が少ないようで、3両目中央あたりの座席に座ることができた。


「ん…?」


電車が発車し暫くして、ふと隣の4両目に目を向けた時だった。

人が少なく空いているため、隣の様子まで良く見える。

その4両目中央の扉の所に立っている男の足元に、何か奇妙な水のようなものが入ったビニール袋が見える。


正面に向き直れば、「不審物を見つけたら乗務員にお知らせください」の掲示。

まさかな。

あれが不審物だとしたら、知らせた方が良いのだろうか。

どうしようかと迷いもう一度4両目を見た瞬間、俺は息を呑んだ。


「…え、ちょ…っ」


男の手にはライター。

ゆっくりと火をつけ、見つめているのが見える。

その火が落ちていくのを、何も言えずに見つめた。。。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る