3 最後の日

過去に書いていたものの再掲。

お題:灰色のネット

必須要素:靴紐

制限時間:15分



「なぁ、大学でもサッカー続けんの?」


靴紐を結びながら、彼に問う。

彼は少し考えて、まぁ気が向いたらな、と俺に背を向けた。


今日、俺達の最後の試合が終わった。

うちの高校は進学校だ。

課題に追われテストに追われ、トーナメントでは1勝すればいい方で。でもサッカーだけは大好きで、続けていたくて…ただがむしゃらに、放課後に集まった仲間とボールを追いかけ続けた3年間だった。


彼は背を向けたまま何も言わない。

でも分かっていた。

寂しいのだ、

試合で勝ち上がれはしなかったけれど、この3年間の彼等と一緒に過ごした、きらきらと輝いていた日々とは別れ難い。

それは俺も同じで、だから試合が終わった後にこうしていつものグラウンドへと戻ってきてしまった。


買ったばかりの新品の白とは程遠い、使い古されて色褪せ薄汚れた、灰色のゴールネット。

何度あのゴールに向かって、ボールを繋いで走って行っただろう。


「…泣いてんじゃねえよ」

「バーカ、誰が泣くか」

「…そうかよ」


苦笑を零す彼の声も、少しだけ震えているのには気付いていた。


「なぁ」

「あ?」

「受験勉強疲れたらさ、練習付き合ってよ」

「気が向いたらな」


またそれかよ!と笑えば彼も笑って。

でもまぁ、体が鈍るから付き合ってやるよ、と約束を交わした。

きっと彼はサッカーを続けていくだろう。

そして俺も、ずっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る