第39話 ペッ

「次は何を持ち込もうか?」


「武器にしとけよ」


 それもそうか。


「レイピアと棍棒、どうやって持ってたんだろう」


「あれか。うん、俺もわからねー」


 石川さんは武器、レイピアと棍棒が出てきたんだよ。でもね、腰にあったのはレイピアだけだった。どこに持っていたんだろう。

 替えの武器ってのは、ベテランになるとみんな持ってるものなかなー。

 そう思いながら言ってみる。


「でも、掃除機とかもいいと思ったんだけど。武器にもなりそう」


 吸い込むって結構すごい武器だと思うんだけどな。




《なんでそうなる?》




「さ、ご飯も食べたし、戻る?」


 炊飯器が進化したら、なんか満足してしまった。


『え、何言ってるんですか? 魔物を倒してエナジーを集めないと!』


「そだな、今日はゆっくり」


『ダメですよ。エナジーを集めましょう。魔物を呼び寄せます!』


 ん? なんか空気が変わった。


「プーペ」


 わたしが布団叩きに手をかけた時、健ちゃんも短剣に手をかけていた。




《おお、あれがシルバーの布団叩き!》

《本当に布団叩きだ……》



「優梨下がれ!」


 な、何あれ、石でできた人型の魔物?




《小型だけど、ストーンゴーレムか?》




 健ちゃんの短剣じゃリーチが短すぎて懐に入り込まないとだ。

 わたしは布団叩きで突撃をかける。

 大きくて硬そうだけど、思ったより動作が早くなかったので、わたしの一本は決まった。ただし効いてはいないだろう。こちらの手が痺れた。

 健ちゃんがそこに容赦無く短剣を突き立てようとしたけど、奴の方がやっぱり硬いみたい。


「プーペ?」


 奴が健ちゃんに目を向けたところで、横からわたしがもう一度叩いた。

 手にじーんとくる。硬い。

 健ちゃんが蹴りを入れたけど、硬くて奴にはなんでもないことみたいだ。




《これやばいんじゃね?》

《そりゃそうだ。ゴーレムに初心者が叶うわけないじゃん。小型でも》

《それに武器の相性が悪すぎ》




「プーペ!」


 プペが広がって石のそいつを包み込んだ。




《ガースの捕食!》




「プペ、ごめんね、ありがとう」


「優梨、次来た」


「きゃーーーーー」

 



《え?》

《なんで叫んだの?》




 ぞわわわわわっと鳥肌立つ。


「優梨、落ち着け。虫のでかいのだ」


「だから、いやなんじゃない!」


 ムカデみたいに足がいっぱいある。硬い殻に覆われている虫みたいな奴。ただし、大きさは大型犬ぐらい。


「無理、無理。わたし、無理」


「期待してねーから、下がっとけ」





《アリスは虫系がダメ、と》

《いや、ストーンゴーレムの方がやばいだろ》

《ゴーレムが平気で、虫がダメ……》




『なにこんなのに手間取っているんです! こんな浅いところじゃエナジーの取れるやつは出せないじゃないですか。もっと深いところに行かないと。慣れてください!』


「きゃーーーーーーーー」


「優梨、うるさい!」


「だって!」




《湧きか?》

《これはアリスじゃなくても叫ぶかも》

《虫で埋め尽くされてる。地獄じゃん》




 そりゃ、魔物は全部怖いし、気持ち悪いけど……。

 虫系はイヤ!

 あの硬そうに見えるのに、中は実は柔らかいところがイヤなのよ。

 どこ見てるんだか、なに考えているんだかわからないし、それなのに向かってくるところがイヤなのよ!(多分あっちもそう思ってる)

 わたしは武器を振り回した。



『しょうがないですね、ちょっと優梨に甘すぎる気がしますが』


 ん? 今布団叩き光った?

 え? えええええええ?

 な、なんで布団叩きで叩いたのに、切れてんの?




《布団叩きで切ってる?》

《……武器が進化した?》




 健ちゃんが驚愕の表情でわたしを見る。

 わたしは首を左右に振った。

 あ、頭の中でメロディーみたいのが微かに鳴った気がしたけど。あれ、やっぱり気のせい?


 きゃーー、また来た!

 いやーーーーーと布団叩きを振り回す!

 いやー、いやー、いやー、いやーーーーーーー!


「優梨、お疲れ。お前が全部退治したぞ」


 え?

 目を開けると、わたしの周りに切れた虫たちの残骸が。


「いやーーーー」


「だから、うるさい!」


「よし、消えたぞ」


 ギュッと目を瞑っていると、健ちゃんに肩を叩かれる。

 消えた?

 あ、本当だ。わたしの周りには魔石とドロップ品が。

 虫のドロップ品なのに、鉱石みたいのとか、糸みたいのが多い。


「……健ちゃん、次はやっぱり掃除機にしよう」


「はぁ?」


「嬉しいけど、こんなに魔石とドロップ品拾うの面倒だもん。掃除機で吸い込めばいいんだよ」


「これ全部吸い込める掃除機っつったらどんだけ大きいのになると思ってんだよ? そんな大きかったら重たいだろうし」


「それはそうだけど」


「それにさ。やっぱり、アイテムボックスみたいのがないとドロップ品は吟味しないとだな」




《あの魔物をやったのもすごいけど、なんでこんなドロップ?》

《だから、この動画みたがる人が多いんだよ》




「アイテムボックス欲しいね」


「確かにな」


『アイテムボックスですか……そうですね、下の階に行けたら差し上げてもいいですよ。っていうか、早く進みましょう』


「プペ!」


 プペが声を上げたのでそちらを見ると、今までより大きな虫がこちらにやってくるところだった。

 プペが広がり、大きな虫を包み込む。

 溶かし切ったようで、またサイズダウンした。


「プペ、食べたの?」


「プーペ」


「虫はダメよ、ペッしなさい」


「プペ?」


「ペッて捨てるの。お腹壊すわよ」


 プペはペッと動かない虫を吐き出した。煙となって魔石を残して消える。


「お利口ね。虫はこれからも吐き出すのよ。絶対よ。わかった?」


「プーペ」




《ガウスにペッしろって》

《従わせてるし》

 

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