第40話 真由の配信

「真由ちゃんの初配信だって」


「見なくちゃ!」


 ざわざわしていると思ったら、真由のレンジャー配信1回目が今日だそうで、生徒たちが興奮していた。

 健ちゃんは調べられていたケータイを返せると連絡があったそうで、帰りにアキバに行くそうだ。わたしはどうするか言われて、わたしは今日は帰ることにした。

 食品の買い出しに行きたかったし、家のことをゆっくりやろう。

 健ちゃんには真由の配信を見るのに、家にお邪魔する約束を取り付けた。




 真由にどうしても尋ねられなかったことがある。


「ねぇ、わたし、おじゃま虫?」


 小学校の時から聞こえてきたことはあったけど、直に言われたわけではないから放っておいた。だって、そんなわけないと思っていたから。

 中学生になって、女子の団体に囲まれた。

 真由が可哀想だと。いつもわたしがひっついているから、健ちゃんと一緒にいられないんだと。

 真由と健ちゃんは誰がみても両思いで、わたしが邪魔をしているのだと。


 わたし、邪魔? 違うよね?

 聞きたくて聞けなかった。

 もし頷かれてしまったら、わたしはどうすればいいかわからなかったから。


 ふたりが言ってきたら、ちゃんとする。付き合いだしたら、離れる。わたしはそう決めた。自分ファーストで、情けなかったけど、真由と健ちゃんの隣にいられなかったら、わたしの場所はどこにもなくなってしまう。


 それからわたしは恋系の話は極力避けた。

 真由たちにもわたしがその話を避けているのは、わかっていたかもしれない。

 そのうち健ちゃんが男の子同士でつるむようになり、真由とわたしの親密度が上がった。振り返って考えてみれば、わたしはおじゃま虫だったのかもしれない。健ちゃんと真由がふたりでいると、すっごくしっくりくるんだ。かわいい子とかっこいい組み合わせでもある。でもふたりがわたしに優しいのをいいことに、わたしは甘え続けた。

 真由はそこに嫌気がさして、わたしから離れていったのかもしれない。



 そして今、気づいたことがある。

 わたしは邪魔者だと言われるのも確かに怖かったけど、実のところ、健ちゃんと真由が付き合うことが怖かったのだと。

 ふたりの1番がそれぞれ、真由と健ちゃんだってことが、怖かったのだと。


 それはつまり。そう、わたしはずいぶん前から健ちゃんが好きだったんだ。

 今、健ちゃんはわたしのそばにいてくれている。相棒だと言ってくれる。

 健ちゃんは優しいから、生活費をなくし、家にダンジョンができてパニクっているわたしを放っておけなかったんだと思う。

 一緒にレンジャーとなり、相棒とみなしてくれている。

 わたしが弱かったり、わたしの想いに気づいて重たいと感じたら、また中学の時と同じように離れていってしまうかもしれない。それは嫌だ。

 ……わたし強くならなくちゃ。健ちゃんに頼らなくても魔物を倒せるように。

 そして想いを隠さなくちゃ。



「プーペ」


 静かな台所でプペが話しかけてくる。


「健ちゃん家でご飯だよ。いつももらってばかりで悪いから、サラダぐらい作っていこうと思ってね。プペはこっちで先に食べておこうね」


「プーペ!」


 一人きりじゃなくてよかったと思った。



 ウチダンジョンはパワーがみなぎっている不思議なダンジョンだ。武器やら何やら進化する。わたしたちが初心者にも関わらず、魔物を倒せたりしているのは、ウチダンジョンでの経験値が関係しているんじゃないかと思う。

 昨日は帰ろうとすると魔物が次々と現れて、長い時間ダンジョンにいることになった。でも倒すごとに……なんかね武器が強くなっていく気がして。武器とかって使うと消耗していくんじゃないかと思うんだけど。布団叩きは剣のように切れるようになった。最初は力がいった。そして、そのまま布団叩きを使ううちにわたしは気づいた。切り込む前、布団叩きを魔物に向けたところで、魔物がもう切れていることに。

 健ちゃんの短剣も様子がおかしい。一度魔物に弾かれて短剣を落とした。そしたら短剣がくるくる回って、健ちゃんの手に戻ってきたのだ。ブーメランさながらに回りながら魔物を切って。

 武器が意思を持ったように思えた。……ただ持ち主には従順なので、助かると言えば助かるんだけど。これ外で使ったら、ひとりでに動くとかやっぱり変だよねということで、ウチダンジョン、そして外では使う武器は分けることにした。




 時間になったので健ちゃん家にお邪魔する。

 アボカドとトマトのディップサラダ、ワッカモーレを持っていくと喜んでもらい、あっという間に売れた。

 おばちゃんの美味しいご飯をいただき、食後は和兄のパソコンで配信を見せてもらう。

 20時ちょうど、画面いっぱいに真由が映って、ニコッっと微笑んだ。


「初めまして、新人レンジャーのマユです。今日は初配信です。これから皆さんとダンジョンの不思議に挑んでいきたいと思います。よろしくお願いします!」


 ぴょこんと頭を下げる。

 アイドルの制服みたいな服を着ている。それが似合っていて、とてもかわいい。

 真由の目が画面の左下を追う。


「さっそく、フォローありがとうございます!」


 しっかりカメラ目線になり笑顔を作る。また目が動き


「え? もうペイ? ありがとう。まだ何もしてないのに、後悔しない?」


 軽快にトークを挟む。


「今日は、ここからアキバダンジョンの1階に入ったものを配信します! 最後まで見てね!」


 画面にバイバイをして画面が黒くなる。

 再び真由が現れた時、わたしたちは揃って口を開け、和兄はお茶を吹いた。


 

 知っている人が、その、そこまでじゃないけどさ、セクシーな格好をしているとビビる。わたしは健ちゃんを盗み見た。

 健ちゃんが真由を好きだったら、こういうの怒るかも。

 だって、配信者はみんなこの姿を見るわけだからさ。

 真由は長い髪をポニテにしていた。

 襟ぐりの大きくあいたインナー。胸の谷間を強調する服だ。網タイツを履いたショートパンツ姿だ。真由はかわいい系の顔なので、セクシー路線の格好はどこかアンバラスではあったが、惹きつけるものがあった。

 でも内容は真面目だった。

 初心者の思うダンジョンの不思議に向き合って、ひとつずつ解決していっている。格好で少し驚いたけど、まともだったのでほっとした。

 格好が格好だけに、ちょっと怖かった。


「真由、かわいかったね」


「ったく、あんな格好させられて。どう自分が見られるかわかってんのか、あいつ?」


 あ。やっぱり、健ちゃん、真由を好きなんだなーと思った。


「お前、あんな格好しろって言われても絶対断れよ?」


 誰にいわれることがあるんだろう?と思いながらうんと頷く。

 だって、迫力がありすぎる。健ちゃん、怖いんだもん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る