第37話 調査⑥ 特別なダンジョン

 彼は舞台を作ることにした。

 WLROを世間の笑い者にする舞台だ。

 地下5階の広場で湧きを作り出す。

 本部の奴らが鎮めにきたら、変異種を次々に送り出す。

 奴らは湧きだ、活性化だと慌てふためくことだろう。

 なんてったって、彼がテイムし変異種に変えてきた魔物は130匹を超えていた。

 彼は魔力量は普通だった。ではなんでそんなにテイムできたかというと。テイムするのに使用する魔力量が、彼の場合少なくてすむというスキルの特性があったからだ。


 本部の人の半分以上はレンジャーを辞めてからなる人が多い。だから腕っぷしはあると思った方がいい。それで変異種が簡単にやられてしまうことを恐れ、魔物たちに頻繁に魔石を与え続けた。

 魔物は強さにより服従する。テイムという契約をしたわけだから魔物はテイマーに従うが、苦しみながら魔石を取り込み、そして強くなり、テイマーを見限る魔物が出てきた。

 反乱分子になった魔物は契約主の命を欲した。健気に契約主を守ろうとした魔物たちもいた。その戦いとなった。

 反乱分子は少なかったこともあり、粛正が下されたが、テイマーは深い傷を負った。

 本部が調査に来ることがわかっていたので、この好機を逃すわけにはと、彼は地下5階に残った。

 傷は悪化し、彼は意識が混濁した。

 魔物たちは、彼のここに誰も入れるなという言葉を守っていた。

 最初は広場にいたのだろうが、契約者の意識がないことから、絆が弱まって、離れていく魔物もいて、それが5階の各地で現れた変異種だろうということだった。


 そこからは見知った通りだ。




「あの人、どうなるんですか?」

 健ちゃんが尋ねる。

 わたしはレンジャーの資格を剥奪されるのかなと思った。

 でもそんな軽いものではなかった。


 彼はレンジャーの規定を破った。魔物ではなく人に対して魔物を放った。それも無差別に。危険思想の持ち主とみなされた。彼には海外のダンジョンでの1年の労働が科された。そこでどう自分を省みるか、そして今後どう生きたいかによって、未来は変わるらしい。

 彼をそ唆した〝ホンダ〟については、残っているDMやペイの支払い先から特定しようとしたそうだが、小賢しく身バレしない方法をとっていたことがわかった。それ以外の方向からも今後も調べていくそうだ。

 ただ、身元がわかっても、レンジャーでない場合、レンジャーの法では裁けない。現状の法で訴えても軽い罰しか当てはまらないのではないかという見通しらしい。

 本部はこの騒動を唆したものがいると、DMも開示して文章のクセなどを公開し、注意喚起するという。


 報告はそこまでで、わたしたちは決して少なくない報酬をいただいた。

 最後の最後に石川さんが、例のテイマーが「あのテイマーは、何匹テイムしてるんだ?」って聞いてたぞと言われた時、何もかもバレていると思った。

 でも石川さんはそれ以上何も言わなかったので、わたしも何も言わなかった。





「最後に石川さんと何話してたんだ?」


「ああ」


 帰り道で尋ねられたので、健ちゃんに一連のことを話すと固まっている。


「芋づる式にバレてくな」


 やっぱり、そう思う?

 しばらくアキバに行くのはやめておこう。お金もかなり貯まったし。


「お前、本当にテイマーじゃないのか?」


「ステータスボード見たでしょ?」


「んー、でもプペは懐いてるし」


「プペが特別なんだよ」


 ケータイが振動したので、慌てて見る。


「あ、お母さんからメールだ」


 わたしは素早くメールに目を走らせた。


「健ちゃん……」


 わたしは画面を健ちゃんに突き出す。

 読んでから健ちゃんは言った。


「つまり、あのダンジョンには何かあるってことだな」


「うん。プペもそうだけど、あのダンジョンが特別、なんか力があるのかも」


 お母さんからのメールは、送ったポーションをおばあちゃんに飲んでもらった結果が書かれてあった。

 第2段で送ったものは、アキバで買ったポーションだ。ただ買ったものと、わたしがしばらく持ち歩いたものと、ウチダンジョンに少しの間入れたもの。

 結果はウチダンジョンに入れたものだけ、おばあちゃんの意識がはっきりしていた。もれなく。


 わたしたちは知識は多くないけれど、なんとなく感じていた。

 ウチのダンジョンは何かが違う、と。


 もし、何かあるなら、それこそWLROの詳しい人に調べてもらえたらいいと思うが、調べている間、ちゃんとした結果が出るまで封鎖されるような気がする。

 それが1時間とか2、3日ならいいけど、結果がわかって危険とかなって入れなくなってしまったら、せっかくおばあちゃんの意識をはっきりさせるものが手に入れられたのに、おじゃんになってしまう。それは困る。


「実はさ。この間ダンジョンに短剣持って入ったじゃん?」


「うん」


「なんかさー、武器に、んなこというのはおかしいってのはわかってるけどさ、強くなった気がすんだよな」


「強度が?」


「いや、そうじゃなくて」


「ウソ。ごめん。なんとなくわかる。わたしの布団叩きはプペが強くしてくれたけど、そんな感じでしょ?」


「ちょっと違うような……」


「いろいろ持ち込んで試してみようか? 武器とか限定かな?」


「あ?」


「炊飯器持ち込んだら、超早炊きできるようになったりして」


 なんで目を逸らすの?

 ダンジョンが喋ったりするわけじゃないから、何かアクションを起こして、結果で学び取っていくしかない。



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