第36話 調査⑤格上証明

 ダンジョンの帰り道が一番辛かった。足がすっごく痛い。腕も怠くて辛いけど。今日のご飯は出来合いのものを買って帰ろう。お風呂に入って食べて、すぐ眠ってしまいたい。


 上のフロアにつけば、ここからの調査は他の人たちに任せることになり、わたしと健ちゃんはステータスチェックを強制的に受けさせられた。

 ふたりともレベルは4まで上がっていたけれど、他は全部〝普通〟だったので、みなさん首を傾げている。

 ポーション類はもらうことができた。ドロップポーションゲットだ!


 ドロップ品は換金した。皆さん、ドロップ品の多さに口を開けていたけれど、今日はわたしたちを思ったより危険なことに巻き込むことになったし、自分たちは元々報酬だけのつもりだったからと、全てわたしたちの懐に入った。

 ってことで、健ちゃんへ借りたお金もきれいに返すことができた!


 その日はコンビニで出来合いのものを買って帰った。

 予定通り、お風呂に入り、食事をして、すぐに眠った。


 それから2日後、アキバダンジョンから呼び出しを受ける。調査の結果報告をしてくれるという。





 学校帰りに行くと、もう皆さん、揃っていた。


 テイムしている魔物を変異種にしまくったテイマーは、爆裂丸さんと言った。

 人と一緒に行動するのが苦手で、ソロで活動していたレンジャーだ。自身がそこまで強くないので、テイムできる魔物もスライムや弱い魔物ばかり。

 テイマーがテイムできるのは、自分より弱い魔物だけらしい。聞いて驚いた。まぁ、強い魔物がよほどテイマーを気に入って、自分から契約してくれと懐いてくることもあるそうだ。それを格上テイムと呼ぶ。

 アイテムで自分を強くみせて、その隙に契約しちゃうという方法もあるようだが、そのアイテムは高額で、けれど絶対にうまく行くとは限らないそうだ。100%ではない。

 テイマーというのは、自分より弱い魔物をテイムして、その魔物を戦わせるなどして強く育てていくというのが、本来の姿なのだとか。奥が深い。


 彼はレンジャー配信で稼いで生きていくつもりだったが、テイムの瞬間など配信したものは見てもらえたが、弱い魔物ばかりだとか、新しくないと見向きされなくなっていった。

 ある日彼は、パーティーのレンジャーたちの戦いで、魔石を食べた魔物が変異種となり強くなるところをみた。

 これだと思った。

 彼は魔石を集め、自分のテイムした魔物に食べさせた。


 食べる時、そして変異するとき、魔物は辛そうに見えるのだが、そこがいいと視聴者がつき始めた。

 彼は入ったお金でまた魔石を買い、魔物をどんどん変異種にした。

 そしてそれを配信。魔石をもっと買って魔物に与えろとペイしてくれる人も増えて、言われるままに魔物に魔石を与え、配信してきた。


 ある日、どれだけ魔物たちが強くなったか試してみればというDMがきた。いつもペイをくれる人だった。初期の頃から見てくれていたそのホンダと名乗る人は、そういえば君はWLROに落ちたって言っていたよね?と前置きした。

 そして、変異種たちが急にいっぱい現れたら、奴ら活性化と間違えるんじゃないかな? そしたら活性化の見分けもつかないバカの集まりだって知らしめることができる。どう?という提案だった。


 最初の頃、彼はプライベートも織り交ぜて語っていた。

 WLROに落ちたことが悔しくもあったので、悪口を散々言ったという。

 職員となる試験には一般常識、レンジャー筆記試験、適正テスト、それから体力面の試験があった。筆記試験や体力面のテストで落とされたなら納得がいく。

 でも彼が落とされたのは適性があっていないからというものだった。

 自分が向いていないと誰が決めるんだ。誰が決められることなんだと、彼は憤った。


 実際彼がどうして試験に落ちたのか調べたそうだが、適性テストで向いていないと数値にしっかり出ていたそうだ。

 でもわたしも適性テストで落とされたとしたら納得いかない気がするとちょっと思った。


 石川さんはそれを見越したように言った。

 こういう仕事には一番適性が合ってるかどうかが大事なんだと。

 それじゃなくても心が病む人が多い職場なので、合っていなければ心を病む可能性が跳ね上がるそうだ。

 その人を守るために適性はとても大切な指針。

 そう聞けば、それは正しいんだろうと思うけれど、そこを伝えてあげていないのが問題じゃないかと、少し思った。



 テイマーの彼は提案に乗ることにした。

 彼は弱めの変異種を1階に送り込んだ。

 変異種は往々にして攻撃的だそうだ。目につくものを、自分の行きたい方向にある邪魔なものを攻撃していく。


 これは本部も知らなかったことだそうだが、変異種が数多くの魔物を攻撃してその死骸や魔石をダンジョンに還っていくと、湧きのようなことが起こるという。減った魔物を生み出して均衡を取ろうとするように。

 1階に送り込んだ変異種はレンジャーに倒された。けれど湧きか活性化かとレンジャーたちが調べたとあって、ホンダさんとDMにて大成功だと、WLROは湧きと活性化もわからないバカの集まりだと盛り上がった。

 ホンダさんは言った。もう一度同じことをやって、本部の奴らがバカな証拠を撮影して、配信したらどうかと。


 テイマーさんは、それは面白そうだと思った。自分を落とした人たちが、自分の仕掛けに気づかず活性化かと慌てふためく様子を世界にばら撒いてやれば、自分の方が格上だと証明できる気がした。そして世界中から笑われるのだ、WLROは。

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