第33話 調査②普通と普通じゃない

 プペが壁から離れ、ハンマーの重みが全てわたしの手に戻ってくる。

 ペッとプペは吐き出し、白蛇の皮と大きく透明がかった魔石が落ちた。


「ジャイアントコブラスネークを一撃……」


 みんなの視線がわたしの背中に集まっている。


「凄いよ、優梨。目にも止まらないハンマー捌きだった」


「その上、一撃」


「ジャイアントコブラスネークはレベル5だって苦労するのに」


 いや、わたしじゃない。全てはハンマーの面に張り付いたプペがやってくれたことなんだけど……。


「ビギナーズラック、ですね?」


 わたしはくるりと振り返って、愛想笑いを浮かべた。

 マイケルさんだけならやぶさかではないが、熟練のレンジャーたちばかりだ。話して魔物のプペが退治されちゃったら、どーしよ。

 ホエミさんが魔石と皮を拾い上げる。


「見てよ、この魔石。透明度が高いわ」


「優梨の幸運値、本当に〝普通〟だったのか?」


 綺羅さんがマイケルさんに聞いた。


「ああ、ステータス、ふたりとも全部〝普通〟だったんだ」



「そのデカ蛇、ここいらのボスか? 魔物が集まってきてる」


 石川さんが静かな落ち着いた声で言った。

 みなさんがなんとなく円陣を作っていって、互いに背中を預けるような体系を組んだ。

 一角ウサギの変異種が飛びかかってきたのを皮切りに、集まってきた魔物がわたしたちに攻撃してきた。わたしたちは石川さんに守られていたけれど、邪魔にならないよう戦いに参加した。


 っていうか、プペ大活躍。

 わたしは魔物の動きについていけなかったけど、プペが誰かの仕損じたのをもれなくハンマーで潰していった。

 健ちゃんは、わたしに負けちゃなんねーと思ったのか、積極的に戦っていた。

 どれくらい倒しただろう。周りに見えた魔物がいなくなった時は、みんな荒い息をしていた。

 魔石もドロップも地下5階だから、大きかったり良さげなものな気がする。


「ふたりとも、動画で見たより、確実に腕が上がっているね、凄いよ」


「仕損じたのを、全部倒してくれたもんな」


「素早いし」


「初心者と思えない。レベルも。帰りにまたステータス見た方がいい。絶対に上がってるよ」


 みんなから絶賛される。

 魔石やらドロップ品を拾い集めた。さらに深いところへと移動する。

 原因がこの階にありそうと、ベテランレンジャーたちがこぞって思ったみたいだ。


 健ちゃんと並ぶと、変な顔をしている。


「お前、あんなにハンマー動かして、疲れてねーのかよ?」


 わたしは周りを見て、誰もこちらを気にしている様子はなかったので、健ちゃんに耳打ちした。

 プペがハンマーの面についているの、と。

 健ちゃんの目が、ハンマーへと注がれる。

 納得したみたいだ。



 それからしばらくは、徒党を組んで魔物が押し寄せてくることはなかった。

 時々魔物は出たけれど、単体ならベテランレンジャーたちが仕留めていく。


「魔物って種族が違ってもボスがいたりするんですね」


 魔物同士で絆があるのは知らなかった。


「そうだね、強いやつらの方がその傾向が強いかな。ま、群れをなす習性のあるやつ以外は1匹狼が普通だけどね」


「初心者って、面白いこと思うんやなぁ」


 無知すぎた?と思ってホエミさんを見上げると、彼女は手を左右に降った。


「ちやうよ。視点が違うって思って言ったんよ?」


「でも、そういえば、やけに結託していたな、さっきの魔物たち。5階でそんなことあるか?」


「そういえば……」


「どうかしたんですか?」


 健ちゃんが尋ねる。


「普通と違うってことは、そこに原因があるかもしれない」


「5階じゃ外に連絡取れないか……」


 石川さんが呟く。

 ん?


「ケータイ使います?」


 わたしがバックを漁るより早く、健ちゃんが石川さんにケータイを差し出した。

 石川さんは無言で受け取り、画面をマジマジと見ている。


「……借りていいかい?」


 そういうとみんなが息を飲む。

 どうしたんだろう?


「石川だ。至急調べてもらいたいことがある。サイバーだ。我々に敵意を持ってるやつ。配信で……湧きか活性化もわからない、そういった馬鹿にするようなワードで配信してるの、かたっぱしから見てくれ」


「もしかして、優梨もケータイ生きてる?」


 わたしはボタンを押して画面を出す。


「アンテナ4本ですね。マイケルさんのダメなんですか?」


 電話している石川さん以外が顔を見合わせる。


「3階までしか普通は電波が届かない」


 え。それって、通じてるわたしと健ちゃんのケータイは怪奇現象ってこと?


「配信ってもっと深いところでも撮れてますし、ライブでやりますよね?」


 健ちゃんが尋ねる。

 そうだ、そうだ。

 配信ができるなら、電波通ってないとだよね?


「撮影や配信の技術は、撮影するドローンに組み込まれているんだ、過去の遺物を使ってね」


 そうニアさんが教えてくれたけど、それだけでは意味がわからなかった。

 でも、なんかそれ以上聞くと、ものすごく長く深く、ダンジョンの地下5階で話すことではないような気がした。

 よくわからないけど、ケータイの電波と配信の電波は違うものを経由するらしい。

 ドローンは携帯のアプリで操作できるっていうから、てっきりケータイ経由なんだと思っていた。


「何かわかったらこの番号に頼む。ん、ああ。……地下5階だ。……そうだ。切るぞ」


 石川さんは地上に戻ったらケータイを少し調べさせてくれないかと言った。

 健ちゃんは調べてもらうのはいいけれど、ケータイがないと困るので代替機を借りれるとありがたいんですという。すると、手配すると、石川さん。


「優梨のもいいかい? 代替機は用意する」


「あの……父がうるさいんです。父から連絡が来たときに出ないとまずいし、誰に通話したとか、何を見たとかチェックをされるので、すみませんが困ります」


「そうか。それなら仕方ないな、諦めよう」


「ご協力できなくて、すみません」


 わたしは謝った。石川さんはこっちの勝手な要求なんだから、優梨が謝ることじゃないよと笑ってくれた。

 健ちゃんのケータイが鳴る。


 「いたか。どの辺だ? 5階だろ? そんなにか? 何やってんだ……ああ。奥か。わかった。こっちは初心者がふたりいる。至急、応援呼んでくれ。ああ」


 石川さんは電話を切って、お礼を言いながらケータイを健ちゃんに返す。


「テイマーが変異種を次々と生み出しているらしい。それを配信して稼いでいるみたいだ」


 それを聞いて、皆さん、ものすごく不愉快そうな顔をした。

 わたしもそう聞いただけで、よくわかっていないのに、なんとも嫌な気持ちになった。



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