第32話 調査①多い変異種

 さぁ、今日はドロップポーションをゲットしなくては!

 

「健太、優梨!」


 待ち合わせ時間の5分前にアキバダンジョンへ到着すると、すでにマイケルさんがスタンバっていた。

 今日、わたしたちの他に4人の調査員と、わたしたちを守ってくれる護衛の人がひとりいるという。


「それ、魔物インナーか?」


 わたしたちは元気にそうだと答えた。

 やっぱり有名なのかなと思っていると、近頃配信界隈を騒がせているレンジャー配信でオススメされたらしく、魔物インナーがとてもいいと見直されているそうだ。それで一気にこのインナーが有名になり、初心者がこぞって着ているとか。


 わたしたちもそれを見てか?と聞かれたので、健ちゃんのお兄ちゃんの知り合いのレンジャーマニアに何がいいか聞いたんだと告げると、そのマニアさんがその配信を見たのかもなと言っていた。

 そういうことか。


 時間ギリギリに調査員たちが集まった。

 メンバーはマイケルさん、ニアさん、ボルダーさん、綺羅さん、ホエミさん、わたしたちを守ってくれる石川さん。

 ニアさんが今回の調査団の代表で、20代後半の背の高いほっそりした人。

 ボルダーさんは30代だそうだ。お子さんがふたりいるそうで、かわいらしい話し方をするたくましい人。

 綺羅さんは年齢不詳。落ち着いても見えるけど、若くも見える。しなやかな肢体で、歩いたりしても音を全く立てない。

 ホエミさんは関西出身の若い女性。ムードメーカーって感じだ。

 石川さんはイケオジ。癖のある髪を一つに、結んでいるのも、顎にちょっとひげがあるのもなんかかっこよく見えた。

 それから頼もしい、ムッキムキのマイケルさん。


 わたしたちは挨拶をして、自己紹介を簡単に終え、目当ての5階まで最短ルートで行くから、ついてきてくれと言われた。

 ヒカルチャンネルの配信を見て、わたしたちの戦い方を見たという。

 だからわたしたちの実力はわかっていて、かなり強力なスケットの石川さんが選ばれたそうだ。

 調査なのでもちろん報酬は出るが、それ以外に何か望みがあるかを聞かれ、健ちゃんが言った。


「ポーションがドロップしたら、少しでもいいから分けてもらえませんか?」


 健ちゃん……。わたしはじーんとした。


「ドロップ?」


 綺羅さんが変な顔をする。


「え、……それはいいけど、ドロップなんてそんなしないよ?」


「まぁ、したらってことやよねー?」


 ニアさんが忠告してくれたけど、ホエミさんがとりなすように言ってくれた。


「はい、ドロップしたらで、もちろん構いません」


 そんな話をしながらダンジョンの中に入った。

 早足でどんどん歩いていく。

 襲い掛かってこなければ、魔物を無視した。


 地下3階に降りると魔物を無視できなくなってくる。

 でも大体先頭のニアさんとマイケルさんが武器を振るうと一撃で魔物が動かなくなり煙となった。


 地下4階では、ベテランレンジャーでも一撃で倒すのは難しくなる。

 わたしも一度ハンマーを振り下ろした。

 ホエミさんの一撃で沈まなかったのを追撃した。すると、景気のいい音をさせて魔石とお肉がドロップした。


「え? ドロップ?」


 みんなが顔を見合わせる中、マイケルさんだけが、ね、だから言ったでしょうと鼻高々でいる。


 いよいよ5階だ。

 腕時計を見れば、2時間経っている。

 セーフティースペースに入り、休憩を入れることにした。


 地下3階からは、誰得?なこういうスペースがあるんだって。魔物が絶対に入ってこないエリア。

 そこで休憩を入れたり、深く潜る時は、テントを張って泊まったりするそうだ。


 各々、飲み物で喉を潤す。

 わたしはジップロックに入れてきたおかきを、いかがですか?と聞いて回る。

 みんな一つずつ摘んで美味しいと言ってくれた。

 足元の色が違くなったように見えたので、落としたふりをしておかきをプペにもお裾分けする。


「みんな油断するなよ?」


 ニアさんが声がけをした。

 さて、これからが本番だ。

 ハンマーを握りなおす。


「来た!」


「一角ウサギの変異種だ」


 ニアさんとホエミさん、ボルダーさんと綺羅さんのコンビで順調に沈めていく。手際がいい。動きが素早いのはもちろんだけど、魔物だけじゃなくて味方の動きの予想もついていて、対応しているのだと思う。

 わたしたちにまで魔物は溢れてくることはなかった。


 と、5階は岩壁の洞窟のような作りだったんだけど、その石が動いたみたいに見えて、あ、と思った時それは蛇のような、けれど大きさが尋常ないやつで、こちらに首をもたげていた。

 息を飲むと、石川さんがレイピアで蛇を串刺しにしていた。


 わたしは頭を下げる。

 胸を撫で下ろした。

 この階の魔物は素早い。目でさえ追えない。



「変異種が多いな」


 石川さんがポツリと呟く。


「やっぱり、活性化ぽいな」


「5階に何かあるんですかね?」


「うん、5階が特に変異種が多そうだもんなー」


 とそれぞれに感想を言っている。


「優梨はサバンナロックに気づいたのか?」


 石川さんに尋ねられた。


「岩が動いたように見えた時はロックオンされてました」


 間に合ってないし、動けなかったことを告白する。


「いや、気づいていたなら大したもんだ」


 褒められて、気分がよくなった。

 そう気分が良くなって……わたしは自分で気がついていなかったのだが、気分が良くなると、踊るまではいかないけど、ウキウキした動きをするそうで……。

 わたしは持っていたハンマーを振っていたみたいなのだ。

 それが岩壁にぶつかって、同時にグワっという魔物の呻き声みたいのが聞こえて、え?とその壁を見ると、コブラに似た形の蛇が大きな口を開けていて、わたしは叫び声をあげた。


 と。わたしは目を瞑ったのに、ハンマーが自分で意思を持ったように動き出し、すっごい速さで岩壁を叩いた。

 あ。ハンマーの面にプペがくっついていて、蛇を取り込んだ。


 ええっ??


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