第29話 ダンジョンの半分は優しさでできています(中編)

 でも……自身の中に取り込んで溶かすことができそうなのに、わたしたちに攻撃を仕掛けてはこない。


「な、なんなんだ?」


 健ちゃんと顔を見合わせるが、判断は下せない。

 わたしたちはそいつを避けて、奥に進むことにした。




《襲われないのはいいんだが、なんでアリスとクマはそれに動じてないんだ

? ガースだぞ?》

《攻撃されないからいっか、とか思ってそう》




 お、普通のスライム。こっちは水まんじゅうのような形のぽよぽよだ。

 透き通った感じではあるけど、さっきのとは違う。


「健ちゃん、あいつ、ついて来る」




《ガースがついて行ってる。でも襲わない、なんで?》




 健ちゃんも振り返り、石を投げた。

 今度は自身で取り込んだ。




《石投げられたのに、攻撃されたのに、ガースが襲わない、なんで?》





「健ちゃん、ネズミ!」


 向こうにいたネズミは、わたしたちに気づき走ってくる。


「でかいな」


 健ちゃんが石を投げた。


 そいつはスッと避けてこっちに向かってきた。

 やばっ、武器がない!


「優梨!」


 健ちゃんの焦った声。

 と、わたしの前に立ちはだかったのは水たまり!

 向かってきたネズミをくるんと巻き込んでシュワシュワ自身の中に取り込んで溶かしている。


 ええ?

 これってもしかして……。


「た、助けてくれたの?」





《ガースが人を助けた?》

《それも自分を攻撃してきたのに……》





「ありがと」


「プペ」


 ほんのりピンクに染まる。


「あなた、言葉わかるの?」


「プペぺ」




《ガースとコンタクト取ってる》

《あ、アリス、テイマー?》

《あ、スキルがあるのか!》




「なんかこいつ優梨に懐いてないか?」


「え?」


 水たまりに目を移すと、水たまりが身をよじる。

 な、なんか出てきた!

 え? これさっき取り込んだ布団叩き?




《嘘だろ! 物質、再構築》

《本当にいるんだな、こんな魔物……》

《ガースにこんな能力があるなんて……この報告だけで、アリスたち、スッゲー稼げるじゃん》

《でも、なにも気づいてないよ、恐らく》




 でも、わたしのじゃない。わたしのは木材で作られた普通のやつ。

 水たまりが出してきたのは、銀色の布団叩きだ。


「これ、わたしのじゃないよ」


 なんかわたしに向かって差し出してくるので、さっきのとは違うと告げてみる。

 これ、シルバーかプラチナなんじゃない? 硬そうなんですけど。





《再構築されてるのわかってない》

《なんなんだ、このふたり》

《だからさー、マジで〝初心者〟なんじゃん?》

《もったいねー》

《誰か教えてやれよ》

《向こうがこっちのコメントに気づけばなんでも教えてやってるって》





「プペー」


「お礼言ってるみたいだな?」


「お礼? いや、助けてもらってお礼を言うのはわたしの方なんだけど」



 水たまりの中から何か出てきた。

 ビニール? あ、ジップロック!

 あ、おかき。

 前回入ったとき落としてきたおかき、中身がないからあれを食べたのかもしれない。


「おかき、食べたの?」


「プーぺ」


 なんか美味しいって言っている気がする。


「もっと食べたいの?」


 ビョンビョンと弾んだ。


「あ、ごめん、今は持ってないんだ。助けてもらったお礼に今度作ってくるね」


 嬉しそうにもっと弾んだ。





《テイマーじゃないのかよ、でも会話が成立してる、なにもんだ、アリス》

《溶かして摂取するだけじゃなくて、〝おかき〟を気に入ったって、好みがあるってこと?》

《それっぽいですねー》





「健ちゃん、着心地どう?」


「お前は?」


「厚手は身体を守るのにはいいけど暑いんじゃないかって心配だったんだ。けどさー、ダンジョンの中が地上よりは涼しいからかもしれないけど、動いてもあまり暑くならない」


「そうだよな? 魔物の革でできてるから、汗とか通すのかもな。それでいて温度調節できる、みたいな」


「これは買いだったね」


「だな、魔物インナーシリーズ、正解!」





《え、いきなり宣伝?》

《でも、こういうの着心地とか配信はありじゃね?》

《スポンサー絡んでる配信者はやるもんなー》

《アリスとクマはどーなんだろ?》

《謎だ》

《謎すぎるー》




 銀色の布団叩きで一角ウサギを簡単に倒せた。硬くなったけど、重さは前の布団叩きそのままで、あんまり強く振ってないのに。


「これ、なんだかすごい武器になっちゃってるんだけど、本当にもらっていいの?」


「プペ!」


 水たまりは嬉しそうな返事をした。


「これから、君のこと〝プペ〟って呼んでいい?」


「おい、優梨」


 健ちゃんに肩を引っ張られたとき、プペが発光した。





《テイムの瞬間?》






「プッぺぺー!」


 びっくりしたのと眩しいので、手をかざしてた。

 あ、眩しいのがなくなった……。

 プペを見ればさっきまでの半透明の水たまり。ちまっと地面におさまっている。

 あれ? 見間違い?


「光らなかった?」


「光った」


 なんだったんだろう?


「で、健ちゃん何?」


「え?」


「今、呼んだでしょ」


「あ、いや。……ほら、小説とかでさ、魔物に名前つけるとテイムしたりするからさ、よく考えろって思って」


「あはは、それ小説でしょ? それにわたしテイマーじゃないし」





《テイマーじゃないって》

《いや、テイムの発光だろ、あれ》

《テイムだとしたら、格上かくうえテイムだぞ》

《すみません、格上テイムってなんですか?》

《テイムってさ、最初は魔物を従わせることなんだよ。魔物は強さに服従するから。だから自分より弱い魔物を服従させて、魔物を強く育てるんだ》

《アイテム使って格上もできるらしいけど、アイテムは希少だし、バカ高いはず》

《でも新人レンジャーのアリスより、明らかにガースの方がレベル上だろ?》

《おかきで餌付けした?》

《そんなとこかもな》

《魔物って餌付けできるの?》


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