第27話 姿勢

『お、幸先がいい。入ってすぐなのに、ちょっと色薄いけどスライム君きました。ふたりの実力を見せてもらおうかな。健太、倒してくれる?』


 スライムにズームイン。

 どのドローンさんも、勝手にいいカメラワークをしてくれるんだね。

 健ちゃんはすっと屈む。ごつい石を拾ったかと思うと、それをスライム目掛けて投げた。見事命中し、スライムは煙となった。


『おーー、あっという間。パワーの勝利かな。石で……とは考えたね? あれ、入るの2回目だよね? レベルいくつ?』


『2』


 おすまし健ちゃん。


『お、また、スライムだ。優梨、行ける?』


 画面の中のわたしはハンマーを振り上げ、振り下ろし、そしてハンマーを落とした。


 和兄が爆笑してる。

 落下によりスライムは潰れて魔石となっている。

 う、わたし姿勢が最悪。ハンマーの振り方云々より、みっともない!


「やだー、わたし姿勢悪い!」


 すっごい変。


『優梨、……ハンマーは石と違って投げなくていいんだよ』


 ヒカル君に言われて、画面の中のわたしが憤慨している。


『……手が滑ったの!』


『グローブしてるのに?』


 うんうん、とヒカル君に頷いている。


 ハンマーと魔石を拾っていると、カメラはヒカル君のそわそわしている様子を捉えていた。


『今日は1階の魔物が騒がしいな、モノモノ草が群生してるよ。来るぞ!』


 途中からヒカル君の声が真面目になる。

 モノモノ草が伸ばしてきたツルを、ヒカル君は剣で切った。

 健ちゃんは引っこ抜いたり、ショートソードで切ったりした。

 わたしも根本をハンマーで叩きまくっている。

 ふたりは戦闘しているところがかっこいい。

 でもわたしは姿勢が最悪だ。猫背だし、ハンマーに振り回されている感がある。本気でみっともない。

 叩くうちに、そこからスライムが大発生だ。


「なんだこりゃ?」


 和兄が声をあげる。


「スライムが湧いたんだ」


「おい。いや、今お前たちがここにいるってことは大丈夫だったんだろうけど……

こりゃ湧きすぎだろ。スライムといっても」


 結構長い時間だからだろう。和兄が前のめりになってる。


「この時、周りの人たちがヘルプに入ってくれて」


 あの時は夢中だったので、こんなふうになってるとは思ってなかったけど、わたしなんてふらふらだ。

 画面の中でヘルプが入ってきて、過去のことだというのに、ほっとする。


『これは湧きかもしれません。報告などしないといけないので、ここまでとします。次回、結果をお知らせしますね』


 あの騒ぎの中でヒカル君はしっかりと配信者の役目を果たしていた。


「へー、すごいな。ふたりともなかなかやるじゃんか」


「でも、わたし姿勢悪い。健ちゃんなんでサマになってるの?」


「部活で運動やってきたしな。体育で剣道もやったことあるし」


 ああ、中学の体育の授業で男子は剣道、女子は舞踊が含まれていた。


「でもその前に、あのハンマー、優梨には重たいんじゃないか? 少しの間なら戦えても、持久力がついていかなくなりそうじゃね?」


 和兄に、わたしも不安に思っていたことを言われてしまった。



 

「あ、LINEだ!」


 りっちゃんと芽衣からそれぞれメッセージが送られてきた。


「あ、りっちゃんと芽衣が、健ちゃんがかっこよく見えただって」


「かっこよく見えたんじゃなくて、俺はかっこいいんだよ!」


 健ちゃんがそんなことをいうと


「顔にスタンプあるのにか?」


 と和兄が逆襲する。

 唸る健ちゃん。

 わたしも頑張ってたとふたりは褒めてくれた。あれからどうなったのと書かれていて、わたしは湧きじゃないかと判断されている旨と、見てくれてありがとうとメッセージを送った。


 健ちゃんにはヒカル君から、反応がいいからまた出演してくれとLINEが入ったようだ。


「あ、健太、これ頼まれたやつ」


 和兄がぎっしりメモ書きされた紙を健ちゃんに渡した。

 目を走らせてお礼を言っている。


「サンキュー」


「なになに?」


「優梨の防具だよ。レンジャーマニアに、どんなのがいいかちょっとアドバイスもらおうとしたら、怒涛の回答がきてなー」


 和兄が遠くを見る。


「わたしの?」


「そーだよ、明日防具買いに行くって言ったろ?」


 そうだけど。和兄に声をかけて、調べてくれたんだ……。

 健ちゃんはその紙をパシャっと携帯で写真をとり、紙の方をわたしにくれた。


「優梨も目を通しておけ。好みもあるだろうしな」


「あ、ありがと。和兄もありがと」


「どういたしまして」


 明日も平日なので、帰ることにする。

 近所だからいいと言ったのに、健ちゃんが送ってくれた。



 家に帰り、お風呂を沸かしながら、夜だけど掃除機をかけちゃう。お風呂に入って、洗濯機を回した。明日ギリギリまで寝ていたいから。お弁当のおかずを詰めるところまで作っておいて、朝ご飯が炊けるように炊飯器をセットする。

 たっぷり目におかずを用意した。お父さんのお弁当箱で健ちゃんのも作って行こう。かなりお世話になってるからね。


 さてさて、防具ってどんなのがあるんだろう。

 盾なんて重たくてわたし持てないと思うんだけど。

 お布団の中に転がって、メモを上から見ていく。



 一押しは、ビキニアーマーだそうだ。

 ビキニアーマー?

 ビキニアーマーってビキニアーマーよね?

 嘘、本当にそんな装備あるわけ?

 って言うか、寒いし、肌を出すところが多い分、防御力低いんじゃないの?

 ……冗談じゃなくて、本気なのかな、これ?


 次は、女性用のアーマーか。

 東雲さんはビスチェタイプだったな。それにスキルで強化していると。

 女性用のアーマーは軽量化されて、柔らかい素材で作られていることが多いみたいだ。

 ズバリ、おすすめはウォータードラゴンの革を滑して作られた、アーマーだそうだ。20万。無理じゃん!


 グローブはあるからいいとして。

 それから服の下に防御力を高めたインナーを着るのがいいという。

 それはテトロンという魔物の革で作られたものだそうだ。

 半袖、長袖、ハイネックと、タイツといろいろある。

 魔物の皮でタイツが作れるの?? どういうこと?

 そういえばチラッと見たレンジャー配信の女性は、スカート履いてたな。

 あれで、ダンジョン入るってことはよっぽど強いんだーと思ったんだけど。

 中の防御力をあげて、配信するから見栄えをかわいくしているのか。

 なんて考えながら見ているうちに、いつの間にか眠ってしまった。

 

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