相棒

第26話 ベテランからのお誘い

「健太、行った!」


 マイケルさんが言って、健ちゃんは即座に対応。大きな青い蛇みたいのは煙になり、魔石を落とした。

 もう短剣を使いこなしているよ。マイケルさんのアドバイスを物凄い早さで吸収し、次の時にはその通り以上にやってのける。健ちゃんはやっぱり只者ではない。


「優梨、そっち行った!」


「きゃーーーー」


 慌てふためき、騒いでハンマーで攻撃する。

 茶色い生き物は、お肉と魔石を残して消えた。


「……またドロップしてやがる」


「優梨、気持ちはわかるけど、声は出さないようにしないと、音で魔物が集まってくるぞ」


 マイケルさんに窘められ、頷く。

 気をつけるようにはしているんだけど、どうしても向かってこられると声が出ちゃう。


「それにしても優梨も一撃で仕留めてるな、2階の奴らを。……本当にお前たち、ダンジョンに入るの3回目か?」


 健ちゃんと顔を見合わせる。

 うちダンジョンを入れると5回目になるけれど、ウチダンジョンは、ねぇ、カウントするのは……。


「2階でこんな会話をしてられる初心者も凄いよ。やっぱ、適任なんだよな」


 ぼそっとマイケルさんが言った。

 それから、うって変わった明るい声で尋ねてくる。

 魔物が来る前の会話に戻る。


「で、ばあちゃんのとこにポーション置いてきたのか」


「そうです」


「そんな事例、聞いたことあります?」


 マイケルさんは首を横に振った。


「悪いけど、聞いたことないな」


 だよなー。ちょっと期待していたようでため息が漏れる。


「それで、エリクサーか」


「無茶なのはわかってます」


「いや、目標を持つのはいいと思うよ」


 マイケルさんはニッと笑った。




「あの、話ってのは?」


 健ちゃんが切り出す。


「ああ実はな、先週のアレ、湧きって判断で普通に営業してるけど。活性化じゃないかって意見もあってさ、それを調査するために、少し深いところに入ることになったんだ」


 一角ウサギが出たので、普段一角ウサギが出やすい5階を調べるそうだ。


「健太と優梨は、スタータスでは〝普通〟だったけど、俺には運が良く思えてしょうがないんだ。それに〝湧き〟に合ってるし。そこで、相談なんだが、その調査に一緒に行ってくれないか?

 エリクサーは無理だと思うが、5階なら中級ポーションぐらい出るかもしれないぞ」


「あの、俺たち初心者です。その初心者が潜って大丈夫なところなんですか? 怪我するとか絶対、嫌なんですけど」


 健ちゃんが割と真面目に言った。

 誰でも怪我するのは嫌だろうけど、健ちゃんがそう宣言したのは不思議な気がする。


「こうして2階を一緒にまわってみて、ふたりなら大丈夫だと思った。それと……幸運値を高い者を連れていくときは、その者に守護をつけるんだ。レベルに関係なく潜ってもらうわけだからね。幸運値が高いわけではない君たちに、守護をつけるのはどうなんだって話もあるんだけど、俺は健太と優梨と行きたくて、ふたりにひとりの守護とイレギュラーにはなるけど、守護をつけて一緒に調査に行って欲しいと思っている」


 マイケルさんが真摯にこちらを見る。

 わたしと健ちゃんは顔を見合わせた。


「健ちゃん、行ってみない? ナマのレベルの高いレンジャーの人たちの戦いを見られるってことだよね? いい勉強になるんじゃないかと思うんだ」


「一角ウサギにビビってたお前が言うのか? もっと怖い魔物がうじゃうじゃいるようなところに潜るんだぞ、いいのか?」


 怖い魔物がうじゃうじゃ……。


「守護の人がついてくれるんですよね?」


 思わずマイケルさんに確かめてしまう。


「ああ、ふたりにひとり、だけどな」


 わたしは健ちゃんに頷く。


「エリクサーいつか取るんだもん。深いところも行けるようにならなくちゃ」


 健ちゃんが手で顔を押さえている。


「怪我したらどーすんだよ」


「……しないように気をつけるよ」


 健ちゃんはため息をつく。


「防具、もっとちゃんとしたものにしよう」


「う、うん」


 お金はできたから大丈夫だろう。


「マイケルさん、俺は守護いらないです。優梨だけしっかり守ってください」


「え?」


「嫁入り前が怪我したらどーすんだよ?」


 え、健ちゃんはわたしの怪我を心配してくれてたのか。

 胸がギューっとする。


「じゃあ、参加してくれるんだな、ありがとう、優梨、健太!」


 マイケルさんはすこぶる笑顔だった。


 それからまた魔物を狩りながら、引き上げた。

 ドロップ品と魔石がけっこうある。

 魔石を全部、換金して、にんまりしてしまう。

 健ちゃんが、明日は防具を買おうと言った。





「ヒカルからLINEだ」


 おもむろに携帯を出したと思ったら、健ちゃんが呟く。


「ヒカル君から?」


「今日の20時からこの前の配信するって」


「わー、本当? りっちゃんと芽衣にLINEしなくちゃ」


 わたしも携帯を取り出して、ふたりにメッセージを書き込む。

 ふたりからすぐに、見るよーとスタンプが送られてきた。


 わたしたちは健ちゃんのお家で一緒に配信を見ることにした。

 ドロップしたお肉をおばちゃんに焼いてもらおうと思っていたので、ちょうどいい。これをお土産にすることにする。

 

 案の定、ご飯食べていきなと言ってもらった。

 そしてお肉が角煮みたいになって出てきた。

 味がすっごく良くて、おじちゃんも和兄も夢中になって食べた。

 もちろん、わたしと健ちゃんもだ。

 お料理上手の人が調理すると、なんで脂身までおいしいんだろう?

 わたしが料理すると、同じ塊だったら、重たすぎてちょっと辛くなるもんなー。

 あー、プルプルでプリプリで、甘しょっぱくて後をひく。

 ご飯と一緒にあむりといただく。

 おいしーーー。

 みんな美味しいを連発したので、おばちゃんもニコニコだ。




 8時から配信を見させてもらう。

 和兄のパソコンでヒカルチャンネルをセットしてもらって、時間になるのを待つ。

 時間ちょうどに、画面が明るくなった。

 オープニングみたいなものらしく、ダンジョンのいろんなところが映し出され、文字が浮かび上がってくる。

 黒縁の黄色い文字でヒカルチャンネルと一瞬浮かび上がり消えた。

 ヒカル君が登場。

「今回は、同世代のレンジャーと一緒にアキバダンジョン探索をします。

 ふたりが本日2回目のダンジョンなので、入るのは1階までです。では、お楽しみください」


 画面が一瞬暗くなり、アキバダンジョンの入り口あたりが映し出された。

 ヒカル君が映る。ニコッと笑う。


「ヒカルチャンネルのヒカルです。今日もよろしく!

 今日はアキバダンジョンに来ています。同い年の、健太と優梨。新人レンジャー。今日はふたりを交えて、ダンジョンを探索します。

 気にいったら、チャンネル登録よろしくね!

 さて。健太」


 ヒカル君が片手で健ちゃんを示す。


「こんにちは、健太です。よろしく」


 健ちゃんが頭を下げている。顔には真面目顔の顔文字スタンプが張り付いている。

 なんで? 顔にスタンプあるのに、なんかかっこよく見えるんですけど。

 絶対かっこいいとか騒がれそうだ。顔見えないけど。


「はい、お次は優梨」


「優梨です。よろしくお願いします」


 緊張したようなわたしが頭を下げた。

 なんで八の字眉の不安顔スタンプ?





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