第12話 換金
次はお待ちかねの換金だ。
基本、窓口に持ち込めばいいらしい。
窓口のお姉さんに、換金したい旨を伝えた。
こちらに出してくださいと言われたので、ナップザックをおろし、魔石やらを出していく。健ちゃんもやり始めるとストップがかかる。
「まだ、あります?」
「これで3分の1ぐらいです」
お姉さんは笑顔のまま、ちょっとお待ちくださいませ。と言った。
「本当は、地下何階まで行ったんですか?」
「地下2階までですよ」
「……そんな」
「ステータスの〝普通〟で首を傾げた俺らの気持ちわかるでしょ?」
後ろではマイケルさんと紺谷さんがこそこそ話していて、紺谷さんは眉を寄せていた。
少ししてお姉さんが戻ってきて、裏の査定をする部屋に直接持っていって欲しいと言われる。
窓口から少し歩き、脇にあるドアから入って、奥の部屋へと移動する。
マイケルさんにも荷物を預けているので、一緒に来てくれた。
あ、紺谷さんも東雲さんもだ。
奥の部屋は、教室2つ分ぐらいの広さだ。いくつかの作業用机の塊が2×4の8箇所に並んでいた。机に向かい椅子に座って何やらしている人もいたが、ヘッドライトを頭につけたおじさんたちがわらわらいて、驚いた。
「なんだ、マイケルの持ち込みだったのか?」
おじさんのうちひとりが顔を上げていった。
「いや、俺は荷物持ち。新人レンジャーの優梨と健太の持ち込みだ」
わたしたちは、なんとなく頭を下げた。
「ほう。大猟って聞いたけど、何階まで?」
「2階」
おじさんたちが一斉に顔をあげる。
な、なんだろう。
「この魔石が2階で出たのか?」
「スライムだ」
「スライム? 幸運値が?」
「〝普通〟だった」
なんかぎょっとしてる。
「で、これ全部、売るでいいのか?」
一番年配の方が、落ち着いた声音で、わたしたちに尋ねた。
マイケルさんを見上げると、
「売ってもいいし、買うと高いものは、売らずに自分で持っている方がいいだろう? 特に気に入ったものを記念に取っておいたり、それは自分たちで好きに決めるといいよ」
健ちゃんと軽く話して決めた。
ポーションをそれぞれ3つずつと記念の魔石以外は換金してもらった。
そしたらなんと74500円になったのだ!
秋葉原ダンジョンのものではないんだけどと、ピンクの魔石を買い取ってもらえるか聞いてみた。
年配のおじさんは魔石を手に取ってから、おでこにつけていたライトを目のところに移動させた。あ、ライトじゃなくてルーペみたいなものかな?
「これは、なかなか……」
魔石をよーく見ている。
「これは、15000だ」
「15000円? 1000円じゃなく?」
大きな声をあげたのは東雲さんだ。今までで一番ハイテンションだ。
おじさんは笑う。
「まあ、普通に見れば透明度のある5センチ以内の魔石だ。1000円だな。だけど、これはサシが入ってる」
「サシが?」
「高圧エネルギー体ってこと?」
おじさんが頷いた。
「スッゲーな、よかったな、優梨」
マイケルさんに肩を叩かれた。
「売っていただけるんで?」
健ちゃんを見れば頷いたので、買い取ってもらうことにした。
ってことは合計89500円だ!
ふたりの入館料と往復の電車賃で6360円だから、83140円。半分にしても41570円だ!
今日の放課後、ほんの2、3時間で。
すごい、ダンジョン、すごい!
そんなに?
現金にするか、カードに入れるかを聞かれて、健ちゃんと相談。カードにいれてもらうことにした。次は取り分のことだ。確実に健ちゃんの方が倒した数は多いけれど、健ちゃんは折半でいいという。
いいのかな?とも思ったけど、ありがたいし、計算が面倒なのも辛いので、今日の取り分を半分こにした。
窓口に戻って、カードを渡した。
コンビニでもATMに行って、〝レンジャーカード〟を選ぶとこの画面になると、説明を受ける。その後の操作は、画面のタッチパネルでやりたいことを選んでいくのだと教えてもらった。不安そうな顔をしてたのか、預け入れ、引き下ろし、残高照会、わたしたちが使うのはそのどれかを選べますと、続けて丁寧に細かく教えてくれた。
カードには89500円の半分、44750円が残高が提示されている。
うわーーー、本当にカードにお金が入った!
「よかったな」
マイケルさんがウインクした。
拾った魔石って交番に届けるものなのかとかよく知らないし、どこで拾ったとか突っ込まれたらどうしようと思ったけど、何も言われず換金してもらえてよかった。でも、透明度のあるものは、わたしたちレベルで手にするのは難しいみたい。ウチダンジョンから出た魔石をこれからも売ったら、目立っちゃいそうだ。
でもウチダンジョンでなくても、2階まで潜るだけで、これだけ稼げるなら……。
わたしたちはおじさんたち、それから紺谷さん、マイケルさんと東雲さんにお礼を言った。
また、会おうと言われ、気持ちよくお別れした。
とりあえず、これだけあれば、次の仕送りまで暮らしていける。
気持ちが大きくなったのと、なりゆきではあるけどレンジャーになったお祝いも込めて、駅ビルのファミレスで外食しちゃうことにした。
生活費ゼロで毎日の食事を心配してたのに、外食なんて贅沢! ありがたい〜。
わたしはネギトロ丼定食で、健ちゃんは生姜焼き定食だ。
「優梨はこれからどうするんだ?」
「どうするって?」
「レンジャーの活動」
「ああ、今のとこ、1階とか2階でこんなふうに稼げたらなって思ってる。健ちゃんは?」
「同じだな。無理せず、やれる範囲で、危険なことはせずに。それで小金稼げたらいいよな?」
うんうんと、わたしは頷いた。
「お前さ、ひとりでは絶対行くなよ?」
「……本当に一緒に行ってくれるの?」
「ったりめーだろ。お前に何かあったら、目覚め悪いじゃねーか」
じゃあ次はいつ行く?と、明後日行くことに決めた。明日はわたしが行くところがあるからだ。交通費ができたので、行くことができる。
「そういえば、真由、大丈夫かな?」
まさかダンジョンで会うとは思わなかったし、同じ日にレンジャーになっただろうから、わたしたちの絆ってすごいと感じる。
健ちゃんは急に不機嫌になった。
「自分で決めたんだ、平気だろ」
「内気な真由がね。配信者か、すごい……」
「…………真由が内気って、いつの話してんだよ?」
「え?」
ご飯は自分で払うって言ったんだけど、お金が入ったとはいえ、生活費ゼロのヤツが何言ってんだと健ちゃんが奢ってくれた。
帰り道、明日はどこに行くんだと聞かれて、答える。
メールやLINEに返信がなかったら、だけど。
交通費ができたので、お姉ちゃんの大学に行こうと思う。
家まで送ってくれて、戸締りをするのを見届けてから、健ちゃんは帰っていった。
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