第11話 レンジャー誕生
「邪魔なら口でそう言えば済むことだ。女の子の持ち物いきなり触るとかナシに決まってんだろ?」
マイケルさんが一歩前に出て凄むと、おじさんは顔を強張らせた。
「女性レンジャーから、プロダクションの人に絡まれると苦情が来ているんですが、お宅はどちらのプロダクションですか?」
紺谷さんも進み出た。
「中本、どうした?」
「いえ、ちょっと彼女の武器触ったら、彼氏が怒っちゃって」
「そういう話じゃねーだろ?」
健ちゃんが怒りの声をあげた。わりと大きな声でフロアに響いたからか、パラパラといた周りの人たちが、こちらに目を向ける。
そんな中、凛とした声が響いた。
「こちらはモラルが良くないプロダクションのようですね。あたしは女性だからって特別に扱うのは好きではありませんが、初めてダンジョンを訪れた女子高生相手に武器を笑うなんて、品性を疑います」
パチパチと、真由の発言が聞こえた人たちから、拍手がおこった。
「ま、真由ちゃん」
おじさんたちが顔を引きつらせている。
「お話はなかったことに」
「なっ」
さっき健ちゃんに振られ、舌打ちしたおじさんの顔がみるみる赤くなった。
そんな真由の前に立ったのは紺谷さんだ。
「節度ある行動をお願いします。次何かあったら、〝出禁〟にしますからね」
さらに拍手がおこったので、おじさんたちは小走りに退場していった。
けれど、それを見ていてまた寄ってくる人たちもいて、真由に名刺を渡している。真由、凄いな。真由は内気で、発言をポンポンする娘じゃないけれど、ここぞという時に言うことがカッコイイのだ。
わたしの幼なじみは二人ともカッコイイ。
「真由、ありがと」
真由は目を伏せた。照れた時の顔。
真由はレンジャー事務所に所属する気なのだろう、真剣に話を聞いている。
「健ちゃん、ごめんね。それと、ありがとう」
健ちゃんに向き直ってお礼を言う。
「武器は考える必要があるけど、さっきのはお前が謝ることじゃない。あれはあのおっさんが無理矢理、絡んできたんだ」
「健太がいてよかった。本当に若い女性に絡んでいく残念な大人もいるから、優梨は本当、気をつけてね」
うわー、あるんだ、そういうの……。
「気をつけます、ありがとうございます」
テンションダウンだ。ああいうの、すぐ怖くなっちゃう。
2階の魔物と戦うより怖いかもしれない。
「君なら、絶対売れっ子になる!」
「学業優先で構わないから」
聞こえてくる勧誘が必死だ。盛り上がっている。
真由なら、ビジュアルがいいからね。気持ちはわかるけど。
真由がふと健ちゃんに視線を定める。
「健ちゃんたちは、レンジャーになるの?」
健ちゃんはわたしを見た。
真由もわたしを見る。
「もうちょっとやってみて、続けるか決めると思う」
2階は怖いけど、1階ならわたしでも戦えると思う。
今日みたいには稼げないだろうけど、マイナスにはならない気がした。
「俺も同じだ」
「ふたりは一緒に、ダンジョンへ通うの?」
「そうなるだろうな、こんなトロいの、ひとりじゃ危ないから」
健ちゃん、知ってたけど、いい奴!
「本当に? 健ちゃん、いいの? ありがとう!」
思わず健ちゃんの手を取ってギュッと握る。
「ば、ばか、ヤメロ!」
「あ、ごめん、思わず」
「……あたし、レンジャーになって登録します」
真由が通る声で告げた。
「高田さん、よくお考えになってから……」
「紺谷さん、営業妨害だよ。本人がやるって言ってんだから。高田真由さん、歓迎します。ようこそ、トレッドレンジャープロダクションへ」
マイケルさんがヒューっと口笛を吹いた。
大手中の大手だそうだ。あそこなら変なことは起こらないよと、こっそり教えてくれた。
真由はもうひとりでなんでも決められて、ひとりでできるんだね。
「優梨ちゃん、どうしよう?」
「優梨ちゃん、どうする?」
「優梨ちゃんと同じにする!」
いつもわたしの背中に張り付くようにしていた真由は、もうどこにもいないんだ。淋しく感じるけど……。
「あ、魔石を換金したいんですけど」
健ちゃんがマイケルさんに言った。
ああ、そうだ、それはとても大切なことだ!
「ああ、魔石ですね、こちらですよ」
紺谷さんが先導してくれた。
銀行の窓口みたいなのが5箇所ある。
「レンジャーになるなら、レンジャーカードを作って、そこに金を入れることもできる。金の出し入れはコンビニのATMでできるから楽だぞ」
「カードを作るには、親の承諾がいるんでしょうか?」
恐る恐る聞いてみる。
「いや、一滴血がいるだけ。13歳以上で、レンジャーに所属すれば誰でも作れる」
「所属って、どこかに所属しないとなんですか?」
健ちゃんが鋭く聞いた。
「ああ、在籍の国な。日本在籍の〝JAPAN〟に属してるレンジャーってことだ。カードはレンジャーの証明書だな。ふた月に1回はダンジョンに入ってないと、レンジャーとみなされないから気をつけること。カードを無くした場合の再発行は高い」
血を使って個人を特定するカードって、ちょっと怖いけど、わたししか使えないってことだもんね。でもこれにお金を入れられるなら、コンビニがあればいつでも出し入れできるってこと……。
ここから引き出せば、友達とお茶に行くのに、そのためにお金を使ったって申告しなくても済む!
買い物の合計が高すぎるって、おかしなものまで買ったんじゃないかってレシート提出しないで済む!
買い物は好きなのに、多く使っていると感じると、いろいろ言われるから、そうならないように調整するのが面倒だった。ふふ、ケーキホール買いしたいな。おばあちゃんのところのお土産も、金額の上限なく決めて……。
肩を叩かれて、ハッとする。楽しいこと考えていて意識が飛んでた。
「おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫! わたしカード作りたいです。どうすればいいですか?」
勢い込んでいうと、
「レンジャーとしてのお名前をいただければ作れます。さっきマイケルが言ったように2ヶ月ダンジョンに入らなければ、レンジャーとはみなされなくなります。資金が残っている場合は、国所有ダンジョンの窓口に来ていただければ精算できます。レンジャーを辞めると、こちらの窓口に言っていただくのでも大丈夫です。カードの再発行、レンジャーの再所属、こちらは料金が高くなっているので、お気をつけてください」
ふむふむ。いつでも辞めれるのなら、自由度は高い。
「本名でなくていいんですか?」
健ちゃんが尋ねた。
「はい、レンジャーとして呼ばれたい名前でいいですよ」
健ちゃんが身元確認はしないのかと尋ねると、13歳の見極めは慎重になるが、それ以外は緩いらしい。〝国〟はレンジャーになって欲しいから、そこは緩いんだ。ちょっと笑える。
「では、優梨で!」
「健太はどうすんだ?」
「健太で作りたいです」
レンジャー申請の窓口に行く。
申請書に名前を記入する。
漢字で書いて、平仮名、カタカナ、アルファベットでも書かされる。なんで?
それから生年月日。
鈍い金色のカードを手渡される。
カードの表記はアルファベットだった。
Ranger:Yuri
左下にそれだけ小さく刻まれているのが、かっこよく見えた。
表記に間違いがないかを確かめるように言われる。
あっているというと、カードとわたしを同期すると言った。
同期??
使い捨ての指サックみたいので、血液をとるみたい。
渡された指サックを嵌める。
針でチクッとしますとお姉さんの声とともに、指をギュッと握られる。確かにちょっとだけチクッとして。すると一瞬カードが黄金に輝いた。ほへー、ファンタジーだ!
すごーい!
これで、このカードはわたし専用のものになり、ここにレンジャーが誕生した!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます