第10話 スカウト
ゲートをくぐると、人だかりが見えた。
その中央にいるのは見覚えのある……うちの高校の制服で、横顔が超絶美少女……え?
「真由?」
思わず呟く。
健ちゃんも、同じタイミングで気づいたみたい。
「知ってる子?」
「幼なじみです」
マイケルさんが、健ちゃんの横腹を肘で突っついている。
「あれ、スカウトだわ」
「スカウト?」
「レンジャープロダクションの。レンジャー配信者に力を入れてるところよ」
東雲さんが教えてくれた。
でもひとりに対して、5人が囲むって、真由、大丈夫かな?
「お帰りなさい。どうでしたか、初めてのダンジョンは?」
わたしたちに声をかけてくれたのは、送り出してくれた紺谷さんだ。
「ただいま戻りました。スライムより大きいのを討伐するのは少し怖かったですが、レンジャーのお二人と一緒だったので、落ち着いてできました!」
「レベルが低くても魔物が素早くて驚きました。でも、また来てみたいと思いました」
報告したわたしと健ちゃんに、紺谷さんは優しい笑顔で頷く。
「逸材、です」
「レンジャーになって欲しいですね」
東雲さんとマイケルさんが嬉しいコメントを紺谷さんに言ってくれた。
わたしは健ちゃんと目があって、ニヤニヤしてしまった。
「健ちゃん!」
真由が健ちゃんに気づいたようで、声がかかった。
周りの人たちも、一斉にこっちを見る。
「あれ? 真由ちゃんの彼氏?」
名前を教えたのか、周りのおじさんたちが〝真由ちゃん〟と親しげに呼んでいる。
「幼なじみです」
真由が訂正する。
「真由も来てたんだ? ひとり?」
わたしが尋ねると、控えめに頷く。
「ふたりで来たの?」
「うん」
尋ねられたので頷くと、一瞬、無表情になった。
あれは真由の機嫌が悪くなる前兆だ。
誘わなかったからかな?
「君、〝健ちゃん〟もかっこいいね! レンジャー志望? ウチのプロダクションに入らないかい?」
おお、健ちゃんにもスカウトが。
健ちゃんはチロっとわたしを見た。
「俺、自分勝手なんで、遠慮します」
場がシーンとする。健ちゃん、言い方……怒らせたんじゃ?
おじさんはチッと舌打ちする。うわぁ、なんか嫌な雰囲気だ。
「ステータスボードの見方を教えようか」
ナイスなタイミングでマイケルさんが言う。救世主!
「お願いします」
健ちゃんがビシッと言った。わたしも頭を下げる。
お店などが並ぶ方と反対方向にあるみたいだ。
「わたしたち、あっち行くね」
声をかけると、真由は頷く。
真由に対してなのに、愛想笑いになってる自分が……憂鬱だ。
どんな機械なのかなと思っていたが、見ただけで〝怖っ〟となる、口を開けたドラゴンの顔だけが壁に生えていた。
その口に手を入れると、ステータスボードが見られるらしい。
何その、『真実の口』的な……。
どちらからやる?と言われて、わたしは手をあげて立候補した。
わたしは祈る。
神様、お願いします。
わたしも健ちゃんも目立った結果が出ませんように。
これから、そっとダンジョンに入って生活費を稼ぐことができますように。
間違っても幸運値が良くて目をつけられたりしませんように。
唐突に頭に声が響く。
『スキル・____発動』
ん? 耳をいじったけど、変化はない。
家のダンジョンの中で聞いたのと、同じだったような……。
ドラゴンの口に手を入れると、すぐに指の先が壁に当たった。凹凸があって……手の形に凹んでいるみたいだ。ここに合わせるのか。少しだけ掌が熱くなったように感じた。
目の前に透明のアイパッドみたいのが現れた。
レベル:2
生命力:普通
魔力:普通
力:普通
敏捷性:普通
攻撃力:普通
防御力:普通
回避率:普通
幸運値:普通
スキル:なし
「優梨、見てもいい?」
「あ、はい」
全部、普通だ。
「全部、普通?」
マイケルさんと東雲さんが、眉を寄せ首を傾げている。
「レベルは2だ。初回で2、すごいな」
「1と2に上がった? まさか、狼を討伐されたんですか?」
紺谷さんに言われる。
「いや、スライム、モノモノ草、大ねずみ、斜めラビット、硬毛猪でしたけど、討伐において、俺たち一度も手を出してないんです。すべて二人で仕留めました」
マイケルさんが真面目な顔で紺谷さんに報告した。
「それは、素晴らしいですね」
「おまけに……、あとは換金の時に」
マイケルさんが声を小さくした。なんだ?と思ってみると、真由たちご一行がドラゴンの口に並ぼうとしていた。
わたしは健ちゃんとバトンタッチした。
健ちゃんもステータスを見ていいと言ったので、わたしも覗き込む。
レベル:2
生命力:普通
魔力:普通
力:普通
敏捷性:普通
攻撃力:普通
防御力:普通
回避率:普通
幸運値:普通
スキル:なし
健ちゃんは悔しそうな顔をしている。
「君たち、仲良いね。全部一緒じゃないか。まあ、良い、普通、少ないの3通りしかないけどね」
「さ、どいたどいた」
さっきのおじさんに言われて、健ちゃんは軽く頭を下げ、場所をあけた。
真由が不安そうにドラゴンの口に手を入れる。
ビクッとしたから、目の前にボードが現れたんだろう。
おじさんたちが群がる。
「うわー、魔力が多いね。防御力と回避率も高いじゃないか!」
「レベル0で、高いのが3つもあるなんて、真由ちゃん凄いよ」
真由はレベルは0だけど、良いが3つもあったみたいだ。
反してわたしたちは、ダンジョンに入ったのは初めてなのに、なぜかレベルは2。パラメーターは全部普通だった。
全部〝普通〟なことを、それは絶対おかしいとマイケルさんも東雲さんも言ってくれたが、わたしは大満足だ。
健ちゃんは何もかも普通でガッカリしていたけれど。
「ステータスは予想外だったけど、健太も優梨もレンジャーになるといいよ、向いてる」
マイケルさんに認めてもらえるようなことを言われて、少なからずわたしは盛り上がった。
「うわぁ」
急にナップザックが持ち上がる感覚があって、わたしは声をあげた。
隣の健ちゃんがそれを受けて、わたしの後ろに回る。
「何だよ?」
おじさんの声が上がった。
健ちゃんがおじさんの手首をつかんでる。
「こっちが聞きたい。おっさん、こいつに何すんだよ?」
「な、何って、リュックから飛び出てるから、つかんだだけだろ?」
「上に引っ張ったろ?」
「飛び出てんのが邪魔なんだよ。ラケットかよ、これが武器か? 笑えるな」
「邪魔してねーだろ? あんたわざわざ、こいつの後ろきただろ? こっちは見てんだぞ?」
わたしはおっかないから、健ちゃんの服の端を引っ張った。
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