第8話 幸運値

「スキルがあったって、どうやってわかったんですか?」


 話しながらも、わたしたちは色つきスライムを倒して、魔石を拾っていった。

 白いのが多いけど、色とりどりで、そこはかとなく楽しい。


「ああ、帰りに教えてあげるよ、ステータスボードの見方」


「ステータスボード?」


「ああ、物語のように〝ステータス・オープン〟と言っても見られないけど、可視化できる魔道具があるんだ。国所有のダンジョンには設置されているから、そこで見るといいよ。俺も何度かダンジョンに通って、魔道具で見ていた時にスキルが覚醒していることに気づいたんだ」


「ステータスボードって、ゲームみたいに能力値がわかるんですか?」


「あー、ゲームや物語のようなものは期待しない方がいいよ。例えば〝魔力〟。これは〝スキル〟を使うのに必要なエネルギーという定義。それが、多いか、普通か、少ない、で示される。そうだなわかって嬉しいのはスキル名ぐらいかな。もっと知りたい時は、有料だけどもっと詳しくわかる魔具で調べることもできる。基準より能力が高そうな場合は、否応なしに調べられることになるけどね」



「モノモノ草」


 東雲さんが鋭く言った。

 マイケルさんが、見た目〝ニラ〟を指差す。


「あれはモノモノ草。植物系の魔物だ。近くに行くと蔓を伸ばしてくる。地上に出しているのは膝下ぐらいの背丈だけど、あれを叩いても意味はない、根っこに核があるからそこを突かないとなんだ。火も有効」


 そう言ってポケットからライターを出した。

 なるほど。


「ふたりの武器だと根っこは難しいかな?」


「わたしやってみます」


 わたしはラケットで草を叩いた。されるままぺしゃっとしたけど、草が起き上がったと思ったら、〝蔓〟が生えて伸びてきた!


 ヒョエーーーと叫び声をあげると、健ちゃんが根元を蹴り、ニラをむんずと掴んで地面からひき抜いた。

 下には小さめのキャベツぐらいの大きさの球根みたいのをつけていた。地面に放り投げそれを足でギュギュギュッと踏みつける。……煙となった。


 明るい黄緑色の魔石がコロンと転がる。ちょっと透明度があるような?

 パチパチとふたりは手を叩き


「お見事」


 と言った。


「健ちゃん、ありがと!」


「ちゃん、ヤメロ」


「ごめんっ」


「ふたりは、幼なじみってところかしら?」


「あ、はい、そうです」


 答えながら魔石を拾う。やっぱり透明度がある。

 東雲さんに見せてと言われた。


「強い魔物だったんですかね?」


 東雲さんは答えずにマイケルさんに魔石を渡した。

 ふたりは少し考え込んだ。


「どうしたんですか?」


「んー、確かではないけど。優梨は幸運値が高いのかも」


「幸運値、ですか?」


「この魔石、低層で、しかもモノモノ草の魔石とは思えない透明度だ。ドロップや魔石がレベルアップする恩恵を受ける人がいて、そういう人は軒並み幸運値が高い」


「あ、だったら健ちゃんじゃなかった、健太じゃないですかね? モノモノ草倒したの、健ちゃんですもん」


「いいえ、さっきの水色のスライムを倒したのは優梨よ。水色のスライムがいたのも驚いたんだけど、あの魔石も透明度があった」


「それって、わたしが触ったり倒したりすると、魔石がレベルアップして、高く買い取ってもらえるものを、ゲットできるってことですか?」


「まぁ、そうなるね」


 マイケルさんも東雲さんも苦笑いしていて、健ちゃんも呆れ顔だ。

 あまりに〝現金〟なこと言っちゃったからな。


「ただ……ステータスボードを見て、優梨の幸運値が高かったら、国からスカウトがくるかもしれない」


「スカウト?」


「聞こえはいいけど、管理のひとつね。幸運値の高い人を深層に潜るパーティにつけると生還率が高くなるし、ドロップ品もいいものになる。国に守ってもらえるのは利点だけど、深層に潜るのはリスクでしかない」


 東雲さんは真面目な表情を緩めた。


「ごめんなさいね。ちょっと心配だったから。怖がらせようと思ったわけじゃなくて、よく考えて答えを出して欲しいと思ったから言ったの。あなたの人生なんだから。ボードを見てみないと幸運値が高いのかも、スカウトがくるかもわからないけどね」


「ステータスを見た場合、数値が高いと絶対に国に連絡行くんですか?」


 ふたりはそういうことと頷いた。正しくいうと〝高い〟結果が出た場合、もう少し詳しく分かる魔道具でステータスを調べ、飛び抜けて高いことがわかると、スカウトがくるとのことだ。わたしは健ちゃんと顔を見合わせた。


「魔石とかを売るところは、国のダンジョン施設にしかないんですか?」


「いいえ、民間でも探せばあるし、ネットで売買しているとも聞くわ。けれど、ネットや民間は相手が危険な思想を持っているのもいるから、特に成人するまでは国所有の施設の中でした方がいいと思う」


 東雲さんに言われて頷く。

 そっか。あのダンジョンで取れた魔石も、売るの難しいってことか……。

 金欠が、突然生えたダンジョンで解決できるなんて、夢のまた夢か。


「それにしても、君たち筋がいいよ」


「ええ。悪いけど、最初はそんなふざけた武器だから、ダンジョンを舐めていると思ったわ。けれど、スライムとはいえ、私たちの助けなく全部自分たちで討伐してるもの、凄いわ」


 あ、舐めてるって思われたか……。


「一般的には危険がないところだと印象づけるために、ダンジョンやレンジャーのことは、興味を持って探ろうとした人だけしかわからないように情報が出されているの。低層だからと軽く考える人が出てくるのは、仕方ないのよ。だから国はこうして、最初にレンジャーを同行させるの」


 そう言ってもらっても、大して調べずに来てしまったことが恥ずかしくなる。


「でも、本当に、君たち初心者には思えないよ。レベル3ぐらいの力がありそうだ」


 健ちゃんと目が合う。

 あのレベルアップって聞こえたやつ、本当だったりして。


「東雲さんはスキルお持ちなんですか?」


「私は強化系なんだ」


「強化系?」


「例えば剣を振るう時に、力を強化したり、防御力を高めたりできる。今も身体強化しているから、寒くないし。動きを妨げない格好ができるから助かっているわ」


 そっか、そういう理由だったのか!


「うわぁ、すごいですね」


「まぁね、スキルにはずいぶん助けられているよ」


 ふたりは無知なわたしたちに惜しみなく、レンジャーやダンジョンのことを教えてくれた。


 わたしが面白いと思ったのは、あるダンジョン考察の書籍についての話だった。ダンジョンの第一人者であるジャック・ブラウン氏が書いた本で、レンジャーはみんな読んでるそうだ。

 それを読むと、実際ダンジョンに潜っているレンジャーたちが感じていることが、納得できたらしい。

 彼が言うには、この世界にあるのは全てロストダンジョンではないかと。そりゃあ中に生き物はいるし、鉱物など高エネルギーの宝庫だけれど。もう異界で役目の終えた、本来の姿ではないダンジョンではないかと。

 そう思う理由も教えてもらったけど、複雑だし、いくつもあって、大人しく聞いていたけど、実は意味がよくわからなかった。

 健ちゃんも口がちょっと開いていたから、わかってないと思う。

 ロストダンジョンに手こずっているんだから、本来のダンジョンがあったら、パニックだけどなとマイケルさんは笑った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る