第17話 砂漠ととっとこ歩くよ機械さん Ⅳ
「土蜘蛛、牛鬼、其方は?」
『問題は無いよ。マスターが救けたかった子も無事に保護済み』
『その子に関しての事やったら、やけどな。それ以外の事に関してなら大問題や。あのカス蜥蜴共が秘密兵器を起動させるのを押してな』
なるほどねえ。通りで何故か嫌な予感が全開になって反応していた訳だ。初代竜王と二代目竜王が力を合わせて造り上げた合作。コードネームというか、二竜がこの機械に名付けたのは【罪禍を貪りし亡霊】。
態々そんな呼びにくいor名前が長いのを呼ぶ訳が無く、僕や眷属の夜天誅は"秘密兵器"と呼んでいる。この秘密兵器の名前は遊びで付けたのか、と思ってしまう程の、泥に塗れたセンスなのだが、その実力は名前に比例しない程、大きい。
「ちょっと、面倒くさいなあ」
砂嵐が周囲を埋め尽くす。秘密兵器が光線乱射をしたり、巨体で暴れたりしていたからだろうか。僕が高き空まで至っている秘密兵器に目を向ければ、熱を感知する熱源感知機。魔力や天力を感知する魔力感知機、天力感知機が搭載されている赤き瞳が僕を貫く。
僕と秘密兵器のみの世界。その世界は沈黙で、静寂で埋まっていく。そんな世界が何秒か。嵐の前の日を彷彿とさせる不自然な時。滅多に降る事が無い雷が一閃、地に猛烈が降臨を果たした。
雷が地面に着弾したタイミング、強烈な雷音を背景として動き出す。
神としては小柄な僕の体と様々な世界でも、此処までの巨体は中々存在しない秘密兵器の巨体が衝突する。
天に降臨せし強者と地に封印されし強者の衝突。此の世界では一番の激突。久しぶりの手の痺れに体が震えていれば、僕の拳と同じくして攻撃していた秘密兵器の拳が変形をし、膨大な魔力と天力を混ぜた暴力の光線。
脳裏には天式を使用して光線を打ち消すという作戦も出現したのだが……瞬時に切り捨てる。鍛え上げた発動速度ですら敵わないのに秘密兵器の強さを改めて実感しつつ、防御を強化する魔式を簡略化で展開し、受け止める。
「マジか……」
つい、僕の口から言葉が洩れた。先程の手の痺れの比にならない痺れが腕を襲う。最近、僕の世界で普通では考えられない強者が生まれてくる。ゲームで言うバグ、のような物だ。シュンに関してもそう。
これは僕だけでは無い。日本神話の世界でも、ギリシャ神話の世界でも。クトゥルフ神話でも。どの神話の世界でも異常事態が起き過ぎているのだ。本格的に対策をした方が良い……此の状況で思考をするのは、相当不味いね。
上空から発射される光線に走り回りながら避ける。でも、思うように動けない。主に活動しているのは、足を絡め取る砂などが無い海や地であるからだと思うのだけど。
砂漠に慣れた方が良いよねえ、と呟き、ため息を吐いていれば、僕の上には魔力と天力の反応が存在していた。眼を目の前から少し外し、上を映す。
其処には迫ってくる光線が15個程。あはは、少しミスをしちゃった。
「でも、想定内かな」
手が、秘密兵器の歯車が集結している部分、人で言う腑に触れる。魔力も、天力も、纏われていない。それは神としての力、神力も。あるのは一つ、権能。神を神たらしめる要因。神が世界の絶対者として降臨が可能な所以。
後天的に獲得をした三つ目の権能では無い。あれは
残りの二つの権能の一つは海。海の欠片の要素も無い
二つの権能が除外された今、手に付与をしている権能の選択肢は一となる。それは僕が【水堕とし】と共に【地上の沈黙者】と何故呼ばれているのかを表す権能。
【地震】。地上を、全大陸を支える事が可能な権能。ギリシャ神話の神々が創り上げた世界を保たせる必須な権能。
地震の権能を発動した途端、特大の振動が秘密兵器の腑を貫通する。歯車が地面に落ちるのを目視で確認しながら口を開く。
「どうかな?僕の地震の権能は。これでも身内からは【世界を支えし大神】と呼ばれてるんだよ?
そんな僕の権能、特段のダメージだと思うんだよね。だって世界を数京年掛けて揺らし続ける地震の振動を瞬間に纏めたんだから」
そんな僕の言葉に秘密兵器は何も言葉を発する事は無い。焦ったような『ギギギ』という音も、攻撃をしようとする『ギギギ』という音もしない。まだ余裕がありそうな感情が伝わってくる。
君、歯車が集結している部位を吹き飛ばされて何でそんな感情が浮かぶのかな。何か僕の予想を飛び越えるのがあるのかな。跳び箱の一段跳びの如く、余裕綽々で飛び越えれるのが。
僕は今、この秘密兵器、【罪禍を貪りし亡霊】に対して高揚をしているのだろう。強さを持ってしまう大神だからこそ、こう感じてしまうのかもしれない。こう思ってしまうのかもしれない。
何とも不気味な感覚だ。自分が自分では無くなるような気がして、微量の嫌悪感が湧いてしまう。
「ふっ、良いぜ。ソレ、乗ってやろうじゃねえか」
けど、高揚に身を任せるのも、悪くは無い。
海神と現代ダンジョン 鋼音 鉄@高校生 @HAGANENOKOKORONINARITAI
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