第16話 砂漠ととっとこ歩くよ機械さん Ⅲ

「ホンマに怒っとるやん。其処までなんて、何があったん」

「ただ一つ言える事としては、あの竜共がポセイドン様の逆鱗に触れてしまった、という事です」

「なるほどね。まあ、予想通りかな。代を重ねる毎にマスターが嫌悪する性格になってきてるし」


それから少しの会話を終えた夜天誅と僕は夜の砂漠を歩き出す。









砂漠にある街の中で一際目立つ宮殿が今、灼熱の怒りで燃えていた。


竜達にとっての問題はそれだけでは無く、同胞である竜の死体が広がっていた。


「ポセイドン様!?何故我等に攻撃をするのでしょうか!?貴方様の気分を害しましたか…?」


現竜王が僕に対してそう問い掛けるが、僕は答えるつもりなど無い。


殺気が、威圧が、僕の愚かな竜に対する激怒が周囲を覆い、支配をする。この世界の者達では、ロスト以外見せた事が無い鋭い眼光を瞳に表す。


竜王は恐怖から一歩下がる。しかし、絶対に逃してなるものか。神として、海神として、オリュンポス十二神としての力を全開フルに活用して逃さない為の間合いを取る。


数十秒間の沈黙の間、冷や汗をかいている竜王。緊張感、恐怖が限界まで昇ったのか、竜としての翼を人のまま生やして空は飛ぼうとしていた。


「逃すつもり、ある訳無いでしょ」


そう口にした僕は竜王の背後に回っていた。もし顔を向けたとしたら、驚愕の顔に染まっている事間違い無しだ。けど、僕はそれを与えない。赤黒い翼をハンドルとして、背中に両足の蹴りを叩き込む。


声にならない悲鳴を、激痛の声をあげる竜王。でも終わらない。苦しく痛い、それがお前への罪の天誅だ。


背中へ攻撃をした右脚を高く上げ、首元に打撃を直撃させる。並大抵の竜ならば首の骨が折れている所ではあるが、流石竜王。僕の攻撃を受けても骨は一切折れず、体に激痛が走るのみ。


激痛を堪えながら僕の足を掴もうとするが、足の力を強める事で地面へと叩き落とす……が、瞬時に受け身を取り、僕への敵意の感情を体に浸して向かう。


真っ直ぐな拳の筋。視線に関しても狙っている場所ばかり見ているので、着弾点は頭の中に入りやすい。


「なっ……!?」

「お前等さ、甘く見過ぎなんだよ。僕達神々の事をね。確かにお前達、下を生きる者には才能がある。神を殺す事が可能かもしれない才能が。だけど、驕りが過ぎるんだよ。可能性があるというだけ。努力をしていないお前達テメェらが僕に勝てるなんて理想抱いてんじゃねえよ!そう簡単に殺されたら世界の管理者が神である必要はねえだろ!」


完全に怒りという猛毒が全身を回った事により、口が激しくなり、封印していた力が開放され、一段階パワーのステージが上がる。


普段は穏やかであり、その僕ばかりを見てきた竜王にとっては初めての面。それに恐怖をし、殴った手の力が弱まる。


僕は力が増え、竜王は力が弱まる。完成した式のイコールとなる事実。


「ぁ、え…?ァァアアァア!て゛が!」


手の骨が砕けた竜王は体が揺らぎ、叫び声を出す。けれど、僕はそんな叫び声を気にしないと言わんばかりの容赦無しの攻撃。足が竜王の顔に衝突し、吹き飛ばす。


そして、砲弾程の大きさを持った塊を放つ天式を放とうとしていたのだが、背後から魔式が飛んできた。若き竜が、恐怖を瞳に宿して僕に立ち向かう。……気に入らないね。何故理不尽を振るわれたような顔をしているんだ。


この戦の火蓋が切られる原因は何だ。僕達の怒りに火が付いたのは誰のせいだと思っているのだ。


「お、お待ちください!ポセイドン様。私達の為

した事は分かっています。それは罪も。ですが、

チャンスをいただけませんか!?」

「話にならないね」


命乞いをしてきた若き竜に向かって攻撃を放とうとする。心から鳴る痛みを我慢しながら。泣きそうになっている若き竜の顔を見ながら。


……ふざけないでよ。何でそんな顔をするのか、何でそんな顔ができるのか。あの子を迫害したのは君達でしょ。大切な姫を失ったから、その姫の忘れ形見である子を虐げる。そんなバカな事をした癖に、止めなかった癖に何でそんな顔を…!


「私達竜は、意思があります!思考があります!

だから反省ができて、贖罪ができるのです。だからどうか、再起する機会を」

「確かに、意思ある者、思考ある者は反省が、贖罪が可能かもね。けど、それを無下にしたのは誰だと思っているの?君達でしょ。僕は何度も、何度も、贖罪の、反省の機会を送ったよ」


何代も前から、僕はやり直す機会をあげた。竜を温厚で、秩序を重んじる種族にするから、と言われたから。


けど、変わらない。変わる訳では無かった。愚かな種族が、更なる愚かな種族に変化しただけだった。


これ以上信じるのは、信じてしまうのは、神としては大間違いだ。


その道を進んでしまうのは駄目だ。僕も、世界も、竜達も滅びでしか無い。大事な眷属を、大事な息子や娘を、妻を、失ってしまう。


もう僕は何度も、失っているのだから。


『マス、ター…申し訳、ありません。めいれいに、背いて、しまいました。アモンの事は、たのみ、ます』


「僕は二度と、歩くのを失敗する訳には行かないんだ」


竜王と若き竜をこの世から塵残さず消し飛ばした後、ボソリと呟いた。

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