第12話 精霊の客人代理 Ⅱ

口から垂れて来ている血を腕で拭った後、僕は精霊を見る。これだけのダメージしか与えられていない事実に驚愕しているのか、体が震えていた。しかし、当の本人である僕からしてみれば予想以上のダメージを受けた。


僕はギリシャ神話にてオリュンポス十二神だ。ゼウス兄様やクロノスお父様には劣るが、最高位の神なのだ。これ、では無い。これ、のダメージを受けた事のだ。


海に神器の剣『神水』を刺した後、神としての身体能力を利用して超スピードで近づく。精霊は三メートル程の高さがある火球を作り出し、放出する。スピードは中々、熱量はある。先程の攻撃には劣るものの、強力な魔法であり、魔式である。威力は脅威となるが、それ以上に脅威となるのが認識。


両方が混ざられているモノに対策がある者は少ない。確かに、それは神であっても対策が難しい技だ。神力を魔式、魔法、何方に当てれば良いか分からないから。まあ、それを今の僕に当てるのは間違いだけど。


此処は海神のフィールド。同じ大きさ、同じ威力、同じ性質の水を作り出す事など造作もない。火球と水球が衝突し、爆発する。視界を煙で全て埋まるが、僕は迷いなく進む。進んで、近づいて、精霊の顔を手で掴む。


力が強く込められて掴まれた精霊は抗う意思を見せているが、抗えない。海面に叩き落とされた精霊は海中へと入って行く。突然の衝撃で揺れた海面と同時に。


精霊は海から出ようとする。当たり前だ、相手にしているのは海神である僕であり、海の中に居れば居る程不利になっていく。それは正解の選択肢と褒めてあげたい所だ。しかし、誤算を一つ。そんな直線の動きで出れると思っている事。


先刻の態と受けた攻撃。もう一度あのチャンスが訪れるとでも思っているのか。あれは僕の、神としての我儘だ。神の我儘は理不尽と同意である。そんな理不尽が、短い間に二度起きるとでも?理不尽が、二度も君の味方をするとでも?


両手で親指、中指、薬指、小指を高く立て、当てる。人差し指は親指の腹の辺りで小さく当てる。神々の中で語り継がれている手印の、神印の発動する方法である。神力を混ぜた天式や極式を使用する際に威力を底上げする方法である。今回使用したのは極式。


この極式事態には殺傷能力は無い。これは発生し終えた後に攻撃力が、殺傷力が生じる。


極式『威鮫神遣いざめかみつかい


咆哮が惑星を揺らす。永劫の海惑星である地を地震に堕とす。海が荒く揺れ、津波が発生する。一撃、精霊に向かって強烈な一撃が向かい、与える。その時、精霊は見た。僕が極式によって召喚した鮫の眷属を確認した。


僕が生まれながらに持っている三叉槍の神器、『トリアイナ』が体に刻まれている。名をプリミラ、僕の眷属である。プリミラは僕がゼロから創った眷属だ。強さは僕とアムには劣るといえども、強者であるのは確か。


海の中で棘が迫る。精霊は棘に気づき、回避をしようとするが、避けれなかった。海の上に居た時ならば避けれた攻撃が直撃した。


痛みを我慢するかのように歯を食いしばる。反撃する為に移動をしようとするが、海の中だからだろうか、上手く動けていない。それは大きな隙。海に慣れている……いや、海が、水がフィールドである海神に、その眷属にとっては。


「精霊くん、少し僕と勝負をしようか。僕の三叉槍、『トリアイナ』と君の得物で、ね?」


魔式で収納していた神器『トリアイナ』を取り出せば、精霊もこの神器の異常さに気づいたらしく、急いで武器を取り出す。その武器は薙刀。この精霊が恩あると認識している夢幻の精霊王が持ち主である者の実力に合わせて効果も上昇する極めて特殊な武器である。


息子に武器を送りたいと言ってたから一緒に準備してたんだけど……まさか、造った武器が牙を剥くなんて思っていなかった。あのバカ精霊め、と心の中で溜息を吐きながら向かってきている薙刀の刃をトリアイナの三叉に分かれている金属部分にて防ぐ。


流石精霊と言ったところか、中々に強い力を薙刀に込めている。これが神器であるトリアイナでなければ、武器ごと切り裂かれていた。彼奴は一体どんな教育をしたんだか……そんな疑問を抱きながら薙刀の刃を弾き、トリアイナの持ち手で精霊の腹に一撃を与える。


魔式、天式でトリアイナの攻撃力を大幅に上昇させた一撃。腹を貫通しないように調整をしたとは言え、通ったダメージは並大抵なものではない。痛みで動けていない精霊の隙を突き、真正面に吹き飛ばす。


吹き飛ばされながら吹き飛ばした僕に攻撃を与える為、薙刀の柄を持つが、僕は余裕な表情を崩さない。精霊はそれに理解できない、と言わんばかりの困惑の表情を見せる。そんな顔、してて良いの?僕ばっかりに集中して、本当に良いのか!


精霊は背後に居るプリミラからの攻撃で体が大きく震える。プリミラの頭突きで「ぁ……ぁ、あ」という細い声を出した後、意識が闇に堕ちる。


「大丈夫、じゃないね。背骨が殆ど破壊されてる。魔力による骨格だから人間よりも早く治るだろうけど……今回は、ね」


独り言を口にした後、神力を混ぜた天式で治療をする。元々の背骨の形に。骨折をしたなんて考えられないくらい完璧に。

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