第11話 精霊の客人代理

「美味しいねえ、これ」

「そうですね。自然豊かな街であるフォーネスだから果物が此処まで美味しいのでしょうか」

「かもねえ……懐かしいよね、アム。昔は沢山冒険とかをして、美味しい物沢山食べて。あとアムが初々しくて可愛くて」


初々しい、という所にアムは「それ関係あります?」と言葉を入れてくる。眼光が鋭いのは初々しくて可愛くての部分だと思う。其方の方が可愛かった、という誤解を与えてしまったのかもしれない。


僕には昔のアムと今のアムの可愛さは優劣が付けれない。どの時代のアムであっても、伴侶である僕の為に尽くそうとしてくれている。僕の為に在りたいと考えている。そんな昔から考えが変わらない伴侶に昔と今、などの優劣が付けられるだろうか。まあ、居るには居るだろう。けれど、僕にはそれを付ける事はできない。


そうアムに伝えたら、アムは誰が見ても照れていると分かる赤面を見せた。この赤面がアムの顔に登った途端、他には見せたくないという独占欲が発揮され、空間隠蔽の魔式を使ってしまったのは仕方ないだろう。








「むぅ……ポセイドン様の、ばかぁ」

「ごめん、つい、ね?アムが可愛過ぎて」

「うぅ、そんな事言われたら許したくなります。反則ですよ、それは。……客人みたいですよ、ポセイドン様の」

「みたいだね」


あの精霊の事だから、挨拶がわりに戦闘に来るとは思っていた。まあ、まさか別の精霊に来させるとは。それに加えて、僕と彼奴が友なのは言ってない。敵意があるのが分かる。本当に人の混乱好きだよねえ。それに付き合ってあげる道理は無い。けど、付き合ってあげようかな。


此の街ではやらないけど。エルフや人間、獣人の多数の生命があるからね。神と精霊の身勝手で命を絶たせる訳にはいかない。あまり僕は空間移動系の式は得意じゃ無いんだけどな。心の中でそう愚痴をこぼしながら発動させる。最初は短距離転移の魔式。


魔式『飛水空』


敵意を飛ばしている精霊の目の前に転移をした後、長距離移動の天式を発動させようとするが、それは精霊の正拳突きによって阻まれた。けど、それは1回目だ。海神である僕が此の程度で諦める?その考えはナンセンスも良いところだ。それにね、天式の発動を成功しやすくしてるのは理解できてるのかな?これは発動者と対象者が近ければ近い程発動しやすい天式だよ。


天式『神羅廻天』


天式が発動した途端、僕と精霊を中心として白い光に包まれる。転移した先は惑星、僕が生み出した惑星だ。最初に生み出した、全面海の、永劫変化する事が無い惑星だ。海の上に立つのは一柱の神と一柱の精霊。


この戦いで最初に動いたのは精霊。炎が海神である僕を襲う。あらゆる方角から炎の棘が向かって来た。僕が海神なのは彼方は分かっているのだろう。これで命を奪えると感じてはいないだろう。小手調べ、と言った所だろう。ハハ、中々に生意気な事をしてくれるじゃないか。


思い知らせてあげるよ、精霊。小手調べなんてしている暇など無いと。相手として立っている者は最高位の海神なのだと。何故高位存在から【水墜とし】として言われたのかを。


「君は神を舐め過ぎだ。『水武器召喚・神水』」


右手に小さな水玉が発生する。


水玉を強く握り締め、破裂する。


破裂した水玉は変化をし、神刀へと成る。


この三工程に加え、炎の棘を切り裂くのにコンマ一秒も掛かっていない。さあ、覚悟をするのだ、死を。決意を固めろ、強者に抗う決意を。


瞳が精霊の瞳と合う。揺らいで、揺らいで、揺らいで、揺らぐ。恐怖と覚悟が半々、と言ったところだろうか。


手を強く握りしめている。強硬な精霊の肉体なのにも関わらず血が流れているどれだけの強い力で爪を食い込ませているのか。そんな疑問が頭を巡らせていれば、精霊と瞳が再度合った。恐怖は完全に消えていない。けれど、戦うという決意を示した瞳をしていた。


嗚呼、嗚呼、それで良いのだ。それで良いのだよ、精霊。意思を抱く者は恐怖を捨ててはいけない。恐怖は身を守る手段であり、意思ある者が抱える闇の醜い姿であり、一歩を進ませる階段である。それが意思ある者の美しさだよ。


「魅せてみるが良い。新たな時代を巻き起こす者」


それに応えるが如く、精霊は動き出す。炎が身を包み、焦がしている。炎の精霊とは言え、体験した事の無い高温。地獄の炎を思わせてしまう程の熱量。体からは激痛が来ているだろう。体は悲鳴を上げているのだろう。


一直線の攻撃。今回の一撃、僕は避けるつもりは無い。情けでは無い。慈悲では無い。これは海神としての我儘。


精霊は動かない僕に驚愕する。しかし、その驚愕は瞬時に収まり、真剣な顔になる。攻撃を通す為に集中をしている。


熱く燃え盛っている炎を纏った拳が直撃する。打撃による衝撃感、太陽に負けない熱量、体に襲いかかる激痛。体全体にそれが覆い尽くしていく。しかし、伊達にオリュンポス十二神をしていない。立場に甘えたりなどしていない。


空中で体勢を整え、海に着地をする。強烈な攻撃に内心驚愕していれば、海にポタッ、ポタッ、と水滴が落ちる音がした。赤き水滴が青い海を穢そうと落ちていた。発生源は僕の口から。口を触れてみれば赤い血が付着した。


「少し、分かった気するよ。武の神達がどんな気持ちで戦っているのかが」

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