008 青の街 マリィーヌ

 エタンセルには、王都を中心に7つ都市があり、それぞれの領主が治めていた。そしてその周りにはさらに、3つの国があり獣人などの他の種族が暮らしていた。


 7つの都市のひとつ、ミウのいるマリィーヌは、別名青の街と呼ばれる人間の街で、入り江の美しい海に面した場所だった。山へ沿って立ち並ぶ白い家と、太陽の光を十分に浴びた木々。降り注ぐ太陽のきらめきを捉えた白い波が、きらきらと輝いている。その美しい景色の中を、昼間は海からの風が吹き、夕方になると街から海へと風が吹く。その風が入れ替わるほんの一瞬の”凪”、風が無く穏やかな時間をこの街の人々はことのほか大切にしていた。

「あ、風がやんだ」

なにかの合図でもあるかのように、街の人々は、そっと海へ感謝の祈りをささげるのであった。


 ミウが目を覚まし、ミウであると自覚してから2週間。心配した家族やメイド達から外出の許可が下りず、屋敷にこもっていた。抱き上げられて窓から外を見ると、美しい海と街が見える。まるで世界遺産を見ているような、海外へ旅行に来たような気持になる。抱き上げられたまま視線を空へ向けると、強い太陽の光で、青白くなった月が2つとそれと取り囲む小さな星が見える。海や空の青さは同じでも、月が全く違うので、やはりここは元いた世界ではないんだな、と少し寂しく感じる。


 海産資源も豊富で美しいこの街の地下には古代の遺跡があちらこちらにあった。古(いにしえ)の奇跡なのか、信心深い街の人々の感謝の恩恵なのかは分からないが、ゆったりとした時間と平和が続いていた。

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 丁度、ミウが生まれる直前、マリィーヌに伝染病が蔓延した。海から来る船がもたらした新しい病気という噂で、獣人や混血は軽い症状だけで済んだのだけど、人間は深刻な被害を受けた。それまでのマリィーヌは、ゼロではないものの他の国と比較するとずっと差別がなかった。


 しかし、いったん原因不明の病気が流行った途端、その均衡は簡単に崩れた。


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