10 喧騒が絶えない冒険者協会
前回のあらすじ
めちゃくちゃ恰好いいロングコートを――――購入。
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『妾の見立て通り似合っておるぞ。丈も丁度良い。店で見た時は丈が長すぎる気がしたが、おぬしの足が長いからむしろ丁度いいくらいじゃなァ』
「そりゃどうも」
無事服一式買いそろえる事に成功し、本来の目的である冒険者協会へ向かった。
「「「「……………」」」」
協会の扉を開けた途端、そこにいる冒険者が一斉にこちらを向き、値踏みするような目つきになる。
見知らぬ人間が入り込んできた時、協会はいつもこういう雰囲気になる。
ひそひそ……ひそひそ……
「見ねぇ面だな」
「あの髪……シカイ族か」
「奴隷が1人で何してんだ?」
「よく見ろ。首輪がない。自由身分のシカイ族だ、珍しい奴だ」
ひそひそ……ひそひそ……
『相変わらず嫌われておるのゥ』
「(とっくに慣れたさ)」
彼らには目もくれず、受付カウンターへ一直線に進む。
しばらくすると俺を見ていた冒険者は再び談笑や食事を再開した。
協会には酒場も併設されているので、いつも喧騒が絶えない。
「すみません、魔石の買い取りをお願いします」
ドン――とさっきの服屋で買った新品の背嚢をカウンターに置く。
背嚢の傷み具合で、シルヴァン達勇者パーティの持ち物だと足がつく可能性があったので背嚢も買い直した。
「はーい、ただいまー! あら、初めての方ですか?」
「……まぁ、そうですね」
いつも荒くれどもに対しても笑顔で対応する、若い受付嬢が笑顔で挨拶する。
彼女の名前はエミリー。
俺とも顔なじみだったが、やはり俺だと気付いていないらしい。
「それでは冒険者登録からお願いします。公用語は書けますか?」
「ええ、問題なく」
エミリーさんが出す用紙にサラサラと文字を書いていく。
「えっ……シド・ラノルス?」
「なにか?」
「いえっ! 私の知り合い……っていうか冒険者の方に、同じ名前のシカイ族の人がいたので、ついビックリして」
「シカイ族は少数部族です。苗字の種類はそんなに多くないし、シドという名前もシカイ族の間でよくつけられるものです。同じ名前のシカイ族がいても不自然ではないでしょう」
「あらっ! そうなんですね。存じ上げませんでした」
勿論嘘だ。
むしろ集落の人間とは全員顔なじみだから、紛らわしくなるから同じ名前なんかつけない。
苗字は全員同じだったけど。
『いっそ偽名で活動しても良かったのではないかのゥ?』
「(ボロが出ても困る。いつまでこの街で活動するか分からないんだから、付く嘘は選んだ方がいい)」
『地頭は悪くないようじゃな』
教養はねぇけどな。
「それではお預かりした魔石、ただいま査定に出しますので、しばらくお待ちください」
「お願いします」
そのタイミングで――協会の扉が荒々しく開く。
「はァァァァ~~~~やっと戻ってこれたぜェ」
「あんたが道覚えてないからこんなに時間かかったじゃないのッ!」
「はァ!? オレのせいじゃねェだろッ! あのクズが荷物全部持ってったからだろッ!」
「そうだな、地図だけでも回収しておくべきだった。ボクのミスだ」
「どれもこれのあの無能のせいだろうがッ!」
「…………」
重騎士ガーレン。
魔術師リリアム。
アサシンルゥルゥ。
そして――勇者シルヴァン。
俺を捨て駒にした勇者パーティ一行。
俺の方が先に帰還していたのか。
俺を使いつぶし、置き去りしたクズども。
俺の復讐対象。
いつか必ず復讐してやる。
こいつらよりも圧倒的な力をつけてな。
『それなら奴らのステータスを確認しておくと良いじゃろう』
影の下からエカルラートが助言する。
『理を見通す目は他人のステータスも見ることが可能じゃ。やってみよ』
言われた通り、自分のステータスを確認するようにシルヴァン達に集中すると複数の板が出現した。
名前:シルヴァン・レングナード
クラス:勇者
レベル:55
HP:320/1045
MP:210/935
筋力:165
防御:160
速力:155
器用:145
魔力:160
運値:170
名前:ガーレン・ヴォルフ
クラス:重騎士
レベル:56
HP:128/1340
MP:100/440
筋力:175
防御:225
速力:105
器用:110
魔力:78
運値:135
名前:リリアム・モース
クラス:魔術師
レベル:30
HP:290/360
MP:50/840
筋力:42
防御:40
速力:45
器用:70
魔力:120
運値:95
名前:ルゥルゥ・ジンジャー
クラス:アサシン
レベル:45
HP:810/810
MP:590/720
筋力:135
防御:90
速力:185
器用:175
魔力:68
運値:135
やはりA級冒険者なだけあり、皆レベルが高い。
だがルゥルゥ以外HPとMPを消耗しており、帰り道に随分と苦労させられたのが見て取れる。
「あッ! シルヴァン様御一行! おかえりなさい! あれ……? シド君の姿が見えないのですが?」
受付嬢のエミリーさんは、勇者パーティの荷物持ちである俺がいないことを
彼女は奴隷でシカイ族である俺に対しても、他の冒険者と同じように笑顔で接してくれた数少ない人物だ。
俺の不在を心配してくれる姿を見て、彼女を騙していることが申し訳なくなってくる。
だが――「俺がそのシド君」ですよ、と言う訳にはいかない。
「彼は死んだよ」
「えッ!? シド君がですかッ!?」
「元はと言えばあの無能が邪魔ばっかすっから――」
「――ガーレン、民草の前だ、口を閉ざせ」
重騎士ガーレンの言葉を遮り、勇者シルヴァンがエミリーさんに答える。
「ボクらは今日、S級ダンジョン【
「きゃー❤ シルヴァンかっこいい~❤」
『あの青髪、随分と調子の良いこと言っておるなァ。惨敗して敗走してきた癖に、ものは言いようじゃな』
「そうですか、シド君が……本当に残念です」
エミリーさんは俺の死を聞き、瞳を潤わせる。
冒険者協会の受付嬢をしていれば、冒険者の訃報なんて頻繁に聞くはずだ。
にも関わらず彼女は俺の為に泣いてくれている。
そのことが嬉しくて……そして申し訳ない。
「そんでエミリーちゃん、悪りィけどポーションくれねぇか?」
シルヴァン達をよく見ると随分とボロボロな姿だった。
ミノタウロスから逃げ地上へ戻る間、結構な戦闘があった模様。
それだけ道に迷っていたのだろう。
ダンジョンのマッピングはいつも俺がやっていたので、あいつらは地図をつけるのに慣れていないのだ。
いつミノタウロスが追いついてくるのかという恐怖も手伝い、精神的にも消耗しているだろう。
「ポーションですね、1つ3000Gです」
「財布も全部落としてきて持ち合わせがねェんだ。ツケにしといてくれ」
「申し訳ないですが、そういったことは許可されておりません。冒険者の方1人1人にツケの管理をしていては、協会のリソースがいくらあっても足りませんので」
「勇者パーティのオレが言ってんだぞッ! そンくらいの融通は効かせろな! 気が利かねェ女だな!」
「無理なものは無理です!」
日頃荒くれものを相手しているだけあって、エミリーさんは一歩も引かない。
しかしガーレンはかなり気が立っているようで、エミリーさんに向かって拳を振り上げた。
「きゃッ!?」
エミリーさんの綺麗な顔めがけて、ガーレンの拳が接近し、そして――――
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あとがき
・冒険者協会について
冒険者協会は類似作品でいうギルドとも呼ばれている場所です。
ただ大規模な冒険者パーティのことをギルドと呼ぶ作品もあるので、本作品では冒険者協会と呼んでいます。
クエストの仲介や、魔石の買い取りなど、その他冒険者のサポートを行う国営機関です。
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