09 吸血姫はロングコートがお気に入り
まえがき
今回の話は短めですが、個人的に凄い好きな回です。
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日が沈むギリギリの時間帯になんとか王都に帰還した。
『ほほう。ここが人間の巣か。賢眼で覗き見することがあるが、実際にこの目で見るのは久々じゃのゥ』
「影越しだけどな」
『次はどうするんじゃ?』
「ダンジョンで集めた魔石を冒険者協会に売りにいく。全ては復讐のためだ」
エクストラクラス【
だが――ただ復讐するだけではつまらない。
もっとレベルを上げて強くなり、圧倒的な実力差を見せつけて、深い屈辱を味合わせてから――殺す。
そのためには冒険者として金を稼ぎながら強くなるのが手っ取り早い。
「この恰好でシルヴァン達と鉢合わせするのはまずいな」
冒険者協会には王都中の冒険者が集まる場所。
当然シルヴァン達と顔を合わせる可能性があるだろう。
今の恰好は背嚢に入っていた勇者シルヴァンの予備の外套姿。
背丈や体格が変わり、シルヴァン達に俺の正体がバレる可能性は低いが、背嚢と外套でバレる可能性がある。
そんな訳で、王都に到着してからまず服屋に寄ることにした。
奴隷時代、消耗品の管理も俺がしていたので、服一式買う程度の余裕はある。
『外套の下のシャツはそろそろ限界のようだしのゥ』
「おい、影から顔を出すな。股の下から覗き込むな」
『ふぎゃ――――美女の顔面を踏んづけるバカがおるか。妾の高い鼻が折れたらどうするつもりじゃ!』
「不死なんだから折れても再生するだろ」
『最強の吸血姫にこの仕打ち……恐れ知らずなやつじゃ、クフフ』
「なんでちょっと楽しそうなんだよ」
パツパツのズボンはもう股の所が破けそうになっていて、このままだと俺の息子がコンニチハしてしまう。
外套をめくった瞬間裸体が出現する変質者スタイルになる前に服屋に入る。
「いらっしゃいま――――ちッ」
店主は俺の顔を見てにこやかに一礼――しかけるも、俺の髪色を見て不機嫌そうに舌打ちしてくる。
『なんじゃこやつ。失礼なやつじゃ』
「シカイ族の扱いなんかこんなもんだ」
追い出されないのを見るに、客として扱ってはくれるらしい。
どこの店に行っても扱いは同じなので、この店で買い物を続ける。
とはいえ、思ったよりランクの高そうな店だ。
今の手持ちで足りるだろうか。
「あとエカルラート、人がいる場所で喋りかけるのはやめてくれ」
『気にする必要はない、影の中にいるとき、妾の声はシドにしか聞こえん』
「返事する俺の身になれ。俺は延々と独り言するやべー奴だと思われるだろうが」
『では頭の中で言葉を念じよ。それでも妾には通じる』
「(マジ?)」
『マジじゃ』
本当だ。
脳内思考までエカルラートに全部だだ洩れって事か。
奴隷時代よりプライベート保護されてないじゃん。
『シド、これにせよ。なかなかにハイカラじゃ』
エカルラートが勧めるのは黒のロングコートだった。
随所に飾られたチャームやボタンは銀色で、サイズも今の俺に丁度よさそうだ。
「(少しキザ過ぎるな)」
脳内思考でエカルラートに返答する。
『キザ過ぎるくらいが丁度良い。それに今のシドの体格と顔面なら、服に着られることもなかろう』
丁度鏡を見つけたので覗き込む。
そこには精悍な顔立ちをした黒髪黒目の青年が映っていた。
年は20歳前後といった所か。
「(本当に俺の顔か……?)」
『随分と男前じゃろう。クフフ』
奴隷時代の慢性的な栄養失調でガリガリだった少年の面影は殆ど残っていない。
始祖の吸血鬼の血で不死になった者は、全盛期の姿で固定されると言ってたな。
もし俺が幼少期から適切な栄養を摂取し、運動やトレーニングを続けていれば、こんな感じに成長していたのかもしれない。
『そういう訳じゃ。これにせよ。シャツと下履き、あと靴も妾が見繕ってやる。妾はお洒落マスター吸血姫の名も持っておるからのゥ』
「(それは絶対今考えただろ)」
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あとがき
ウェブ小説の主人公、なんですぐロングコート着ちゃうの……?
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