08 地上へ帰還

前回のあらすじ

真紅の吸血姫、エカルラートの血を吸ったことで不死の肉体を得て、シャドウネクロマンサーに覚醒したシドは、勇者パーティに復讐を誓うのであった。

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 俺とエカルラートは地上目指してダンジョンを逆行する。

 道中、ミノタウロスから逃げる際に捨てた背嚢を回収。

 中に勇者シルヴァン用の外套が入っていたのでそれを纏う。


 丁度いいサイズだ。

 今着てる服はパツパツだし、ボロいから今にも千切れそうだし。



 無事地上に戻ってこれたと思ったら、服がビリビリに破けて街中で裸体を晒してしまう危険性がある。


「てゆーかエカルラート、ダンジョンボスなのに地上に出ていいのかよ」


「既にわらわは【死霊操術ネクロマンス】で使役されている身。最奥の玄室から出ることの出来ない縛りからは解放されておる。始祖の吸血鬼故に太陽光で死ぬこともない」


「それって俺も?」


「案ずるな。シドも太陽の光を浴びても問題ないぞ」


『グオオオオッッ!!』


「魔物か……ッ!」


 回廊を進むとオークが現れる。


「早速【影霊術師シャドウネクロマンサー】の能力を試してみるか――出てこい、ミノタウロス」





『ブルガアアアアアアアアッッッッッ!!!!』





 影の中からミノタウロスの影霊シャドウが顕現する。


「あいつを殺せ」


 オークの身の丈は2メートル弱。

 対するミノタウロスは3メートル強ある。

 戦斧のリーチもあって、一方的にオークを斬殺する。







――レベルがあがりました。





――レベル 34 → 35







影霊操術シャドウネクロマンス】にクラスチェンジしてから見えるようになった板が、レベルが上がったことを告げる。

 冒険者はレベルが上がっても、ステータスを計測する魔道具を使わなければ確認できないのだが、これは便利だ。

 レベルが上がれば即座に分かる。


「ミノタウロス、魔石を回収しろ」


『ブルルッ』


 ミノタウロスがオークの死体から魔石を回収する。

 命がけの鬼ごっこをしていた時とは大違いだ。

 まあ、今はごっこではなく実際に吸血みたいなモンになっちまったみたいだが。


「こいつも影にするか――【影霊操術ジャドウネクロマンス】」


 オークの死体に触れる。

 オークの影が抽出され、生前と同じシルエットになる。

 大剣も再現されている。


「よし、荷物はオークが持て。ミノタウロスは先頭を歩け」


『グルルッ!』


『ブルルッ!』


 もう俺は奴隷じゃない。

 危険な先頭を歩く必要もなければ、重い荷物を持つ必要もないのだから。


「どうじゃ、使役する側の気分は」


「悪い気分じゃない」


「フハハ。新しい人生じゃ。楽しめ楽しめ」


「あんたは使役される側になったっていうのに楽しそうだな」


「いかんせんダンジョンの縛りで最奥から出ることが出来ずに退屈しておったからのゥ」


 S級ダンジョンの下層だと言うのに、のんきな雑談をしながら歩を進める。

 ダンジョンボスであるエカルラートが味方となったこの状況下、もはや恐れるものはない。





『ゴギャギャギャギャッッ!!』


「また魔物か!」


 次に現れたのは石の皮膚を纏う獣型の魔物――ガーゴイル。

 物理攻撃に強い耐性があるため、重騎士ガーレンはタンクに徹し、魔術師リリアムが魔法で倒していたのを思い出す。


 とはいえ回廊に出現するモブ魔物。

 中ボスのミノタウロスの敵ではないだろう。


「ミノタウロス、いけるか?」


『ブルガアアアアアアアアッッ!!』


 ミノタウロスは戦斧を振り上げ突進する。

 ガーゴイルは口から炎を噴いて迎撃する――が、炎を食らってもなおミノタウロスは止まらない。

 戦斧がガーゴイルの石の肉体を粉々に粉砕し、魔石が飛び出す。


 物理攻撃耐性などお構いなくぶっ壊しやがった……。

 もし俺が覚醒する前に直撃を食らっていたら、一撃で死んでたな……。


「ミノタウロス平気か? 炎直撃だったが」







――ミノタウロス(影霊)

――HP2800/3000





 ミノタウロスの身を案じていると、また板が出てきてミノタウロスのHPを表示する。





――スキル【影霊操術シャドウネクロマンス

――【説明】死体から影霊を抽出して使役するスキル。HPが0になった場合、魔物のレベルに応じたMPを消費することで復活させることが出来る。


――ミノタウロス再顕現に必要なMP【500】







「ご丁寧にどうも」


 この板、スキルの説明までしてくれるようだ。

 

「【影霊操術シャドウネクロマンス】」


 オークがガーゴイルの砕けた死体から魔石を回収し、ガーゴイルの影霊も抽出する。

 これで3匹目。


死霊操術ネクロマンス】は操り人形みたいに術者である俺が直接操作する必要があった。

 けれども【影霊操術シャドウネクロマンス】は、生前と同等の知性があるようで、口頭で指示をするだけで勝手に動いてくれるときたものだ。


 学のない俺でもわかる……このスキル、とんでもなく強い。

 まさか聖教会はシカイ族が【影霊術師シャドウネクロマンサー】に覚醒するのを恐れて異教徒認定して迫害を決行したのか……?


「ま、難しいことは地上に出てから考えるか。ガーゴイルは炎魔法が使える。物理攻撃のミノタウロスと魔法攻撃のガーゴイル……良い感じに戦力が整ってきたな」


 そうしてダンジョンを登っていくと、20階層まで戻ってくる。

 ここまで来れば道は分かる。

 勇者パーティの荷物持ちをしていた時、ダンジョン内のマッピングも俺の仕事だったからな。


 そこからはスムーズ15階層まで登り、そこの中ボスを倒した際に出現したワープ装置を使って地上まで帰還する。


「戻ってこれたッ!」


「外の空気を吸うのは久しぶりだのゥ」


 日は既に傾いており、日没も近い。


「ここから王都まで徒歩1時間。日が完全に沈む前に帰れそうだ」


影霊シャドウ共は影の中にしまった方がよいかもな。わらわも歩くのに疲れた」


 エカルラートもまた、俺の影の中に入り込んで見えなくなる。


「ここからは1人か」


『影の中からでも声は聞こえるし会話は出来るがな』


「もしかして……お前がいる以上俺ってプライベートもう存在しない感じ?」


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あとがき


・エカルラートは影霊ではないけど、吸血鬼の能力でシドの影に入ってます。


・エカルラートは【死霊操術(ネクロマンス)】の方で使役しているので本来であれば肉体は腐っていきますが、吸血鬼なので死後も肉体が劣化することはありません。意識を保っているのも始祖の吸血鬼だからです。


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