07 真名――エカルラート・ドレッド
「どういう事か説明してくれるか?」
「よかろう。妾は賢眼の吸血姫の名も持っておる。小童の質問に答えてやろう。今は妾の
真紅の吸血姫は玉座から立ち上がり俺に近づいてくる。
「【
クラスチェンジの意味は知っている。
戦士クラスの冒険者がレベルをあげ、タンク的なスキルを鍛えると重騎士にクラスチェンジする。
逆に攻撃的なスキルを鍛えれば狂戦士にクラスチェンジする。
あとは魔術師が攻撃系魔法と回復系魔法の両方をベテランクラスにまで鍛えると賢者になったりとか。
マイナークラスである俺のネクロマンサーもまた、特定の条件下でクラスチェンジするものだったのか……。
「その条件は、自分自身に【
「不死の肉体……?」
「妾の血をすすったじゃろう? 始祖の吸血鬼の血を飲んだ人間は不死になる。有名なおとぎ話よ――まぁ、おとぎ話ではなく、まぎれもない事実じゃがのゥ」
「不死の肉体……俺が……?」
改めて自分の手足を見る。
全身にあった痣、傷跡、生傷、その他肉体の損傷が全てなくなっている。
それだけじゃない。
栄養失調でガリガリだった腕は適度な筋肉がついているし、手足も伸びているみたいでボロい服がパツパツになっている。
視界も高い。
俺の前に立つ真紅の吸血姫と目線がほぼ同じだ。
目測で175センチちょいって所か……?
「不死になった者の肉体は全盛期の姿に若返り固定される。小童の場合、不死になるのが若すぎたせいで、逆に年を取ったようだがのゥ。ふむ、さっきは貧相なガキだと思ったが、これはなかなか男前じゃなァ」
そう言われると声も低くなってる気がする。
文字通り、生まれ変わった気分だ。
「レベルとステータスも随分上がってるみたいだが……?」
「先ほど妾がミノタウロスを屠ったからのゥ。使役する魔物が魔物を倒した場合、その経験値は主の元へいく。それはシカイ族であれば常識だと思うがの?」
「俺はガキん時に異端狩りで一族全員殺されてろくな教育受けてねェし、ろくに冒険者らしいこともしていないから知らなかった」
記憶をたどり、最後に計測したステータスを思い出し、現在のステータスと見比べる。
頭の中でステータスのことを思い浮かべるだけで板が出てくる。
名前:シド・ラノルス
クラス:
過去→現在
レベル:8→34
HP:80→680/680
MP:100→750/750
筋力:6→120
防御:7→105
速力:10→130
器用:11→135
魔力:5→85
運値:3→71
スキル:【
状態:【不死】
「めちゃくちゃ強くなってんな……」
俺を置き去りにしたシルヴァン達――A級冒険者4人がかりでも倒せなかったミノタウロスが持っていた経験値は、相当な量だった模様。
道中に倒したオーク5匹分の経験値も入っているとはいえ、一気にレベル8から34、B級冒険者クラスのステータスになっている。
「もしかして、今ならマジでシルヴァン達に復讐出来るんじゃないか?」
「復讐? 面白そうな話よな……聞かせてみよ。ホレホレ」
真紅の吸血姫にこれまでの経緯を説明する。
勇者パーティの奴隷として生きてきたこと。
ミノタウロスの囮役として置き去りにされたこと。
自分自身に【
ミノタウロスから逃げている間にラスボス部屋までたどり着いていたこと。
そして――真紅の吸血姫に【
「ワハハ、これは愉快爽快じゃ。しかし愉快なのはこれから――そうじゃろう? 復讐、良い響きじゃ。
「そんじゃあ小童って呼ぶのやめてくれ。俺にはシドという名前がある」
「では妾のことはエカルラートと呼ぶがよい。エカルラート・ドレッド――それが妾の真名じゃ」
「魔物の癖に名前とかついてるんだな」
「失礼なガキじゃ」
悪いな。教養がないもんでな。
「では無学なシドに、賢眼の吸血姫でもある妾が【
「以前までの【
「使えば分かる」
エカルラートの言う通り、真っ二つになっているミノタウロスの死体に触れ――
「【
――ミノタウロスから黒いもやが出現する。
影が抽出されているようにも見える。
ミノタウロスから飛び出した影は、やがてミノタウロスのシルエットを形作る。
目の部分は赤色に光っているが、全身を黒く塗りつぶしたミノタウロスが出現した!
生前得物としていた戦斧まで影で再現されている。
『ブルガアアアアアアアアッッ!!!!』
「うおッ!?」
「驚くな。身構えなくともコレは既にシドのしもべじゃ」
「これが【
「通常の【
「これでもう死体臭いと言われなくて済むぞ!」
ミノタウロスの
今度は出てこいと命じると俺の影がぐにゃりと歪み、ミノタウロスの影霊が飛び出してくる。
「ははッ! これはいい。以前は魔物の死体を使役してたら街の中に入れなかったからな」
死体を操るシカイ族は迫害されていた過去を持っており差別意識も根強く残っていて、死体を操っている姿を他人に見られたら良い顔はされない。
「それじゃあ始めるか――――復讐を」
首に巻かれた奴隷の首輪に指をかけ、力いっぱい引っ張る。
――バキンッ!
脳のリミッターが外れ、更にB級冒険者クラスのステータスを得た俺の膂力の前に、金属の首輪はあっけなく壊れた。
俺の肉体は既に死んでいる。
思った通り、首輪に刻まれた【奴隷は自分の意思で首輪を外すことが出来ない】という誓約もなくなっている。
これで晴れて自由の身という訳だ。
「待ってろよ……くそ野郎ども……」
決意と殺意を漲らせた純黒の目を見て、エカルラートは愉快そうに「フハハ」と笑っていた。
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あとがき
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