11 人類最強アルムガルド・エルドラド

前回のあらすじ

 激高した勇者パーティの重騎士ガーレンが、受付嬢のエミリーに暴力を振るおうとしてピンチ。

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「勇者パーティの癖にポーション1つ買えないんだな、王宮がバックについていると聞いたが、中身はチンピラと同じか?」


 エミリーさんに振り下ろされた拳を、間に入った俺が受け止める。

 以前の俺では受け止めきれずに吹き飛ばされていたが、レベルをあげ不死になった状態では随分と軽い拳に感じた。


「なんだァ……てめェ? シカイ族じゃねぇか。奴隷がオレ様に口効いてんじゃねェぞゴラ!」


「ちゃんと目は見えてるのか? 誰が奴隷だって?」


 こいつら全員、やはり俺がシド・ラノルスだと気付いていないらしい。

 かなり印象が変わったとはいえ、誰1人俺のことを疑わないことが少し滑稽だった。


「さっきからなんだよそのウゼェ喋り方はよォ! いきがってんじゃねェぞッッ!!」






『なんじゃこの木偶でく――癪に障る奴じゃ』






 ガーレンは再び拳を振り上げるも――――影の中にいるエカルラートがガーレンへ向かって殺気を飛ばした!







「おひッ!?!?」


 ガーレンは驚き、不格好に尻もちをついた。

 はたから見れば、俺の眼力に怖気づいて尻もちをついたように見えたのだろう。


 周囲の冒険者から「クスクス」という声が漏れ聞こえてくる。


『愉快じゃな――にしても『おひッ!?』とは――小物臭い声で倒れおったわ』


「ち、畜生……シカイ族の分際でよォ! よくもオレに恥かかせやがったなああああッッッッ!!!!」


 ガーレンは協会の中だと言うのに、背負った大剣を引き抜こうとする。


 だがガーレンが剣を全て引き抜く前に、この一幕を見ていた冒険者の1人が止めた。


「黙って見ていたが、流石に剣を抜くのはやりすぎだろう。そういう事ならワタシが相手になってやろう」


 俺とガーレンの仲介に入ったのは背丈2メートルを超す、黒檀色のフルメイルで全身を武装した冒険者だった。


「S級冒険者――アルムガルド」


「おや、ワタシのことを知っているのか。随分と名前が売れたものだ」


 アルムガルド・エルドラド。

 存命している唯一のS級冒険者だ。

 誰ともパーティと組まずにソロで活動し、シルヴァン達勇者パーティでも到達出来ていないS級に上り詰めた、文字通りの――人類最強。


 常に全身フルメイルで武装しているため、その正体を知るものは誰もいないと言われている。


「チッ! 気分が悪ィ! もう帰るぜ!」


 血気盛んなガーレンも人類最強相手に噛みつく度胸はなく、逃げるように協会を後にしていった。


 人類最強か、ステータスの方はどうなってんだ?









名前:アルムガルド・エルドラド

クラス:剣聖

レベル:179

HP:5370/5370

MP:3810/4480

筋力:805

防御:700

速力:715

器用:660

魔力:350

運値:590







 うん……今の俺では勝てる気が全くしない。

 レベルって100超えるんだ。

 初めて知った。





「おかげで助かった」


「気にすることはない。静かに酒が飲みたくてワタシが勝手にやったことだ。貴殿の方から一切手を出していないことは知っている」


 アルムガルドはそういうと酒場の席に戻り、甲冑を被ったまま酒を飲み始めた。

 あれ、ちゃんと飲めてるのかな。


「シド君……じゃなかった、シドさん、ありがとうございました! えへへ、同じ名前だからシド君と間違えちゃいました」


 エミリーさんが深々と頭を下げてくる。


「気にしないでください。実際場を納めたのは彼ですから」


 親指でアルムガルドを指差す。


「ですが、ガーレンさんに殴られそうになったとき、真っ先に守ってくれたのはシドさんですので」


 彼女の頬は赤くなっていて、肩も震えている。

 まだ恐怖が残っているのかもしれない。

 冒険者でもない女性に手をあげるとは、本当にクソ野郎だな……。







「シドさん、魔石の査定が終わったようです。締めて600万Gとのことです」





 600万G――一般的な冒険者の稼ぎの約3年分だ。





「特にこのひときわ大きな魔石が500万買い取りとのことです。私もこの仕事長いですが、こんな大きな魔石見たことないですよ!」


「ああ――これはミノタウロスの魔石だと思います」


「ミノタウロスの!? 先ほどシルヴァン様達が敵わずに逃げてきたというあの!?」


「そういうことになりますね」


「す、凄いです……!」


 エミリーさんから尊敬の眼差しを受ける。

 実際ミノタウロスを屠ったのは、影の中で愉快そうに笑っているエカルラートなのだけれども。


「君――シドと言ったかい? なかなか腕が立つようだね。どうかな、ボクのパーティに入らないか? 新しい荷物持ちを探していたんだ」


 ことの顛末を見ていた勇者シルヴァンが声をかけてくる。


「ただ勘違いしない方がいい。そのミノタウロスの魔石だけど、多分ボク達が相手した魔物のことだろう。あと少しの所まで追い詰めたからかなり弱っていたんだろう。ミノタウロスを討伐したのは実質ボクらだということを忘れないで欲しい」


 嘘つけあいつノーダメだったぞ。

 むしろ片目潰した分俺の方がダメージ与えてるまである。


「悪いがあんたと組む気はサラサラない。シカイ族を囮に使うような奴とは特にな」


「口の利き方には気をつけた方がいい。ボクはこの国の第二王子だ。その気になれば君を奴隷に落とすことも不可能ではないんだぞ」


「だったら冒険者なんかしてないで王族らしくお城の中でお勉強でもしてな――お・う・じ・さ・ま」


「…………ふん、やはり教養のない下民とは会話が成り立たないな。さっきの話はお互い聞かなかったことにしよう」


 シルヴァンもまた協会を後にし、「あっ! まってよ~❤」と魔術師リリアムもそれに続く。


 残ったアサシンのルゥルゥはどうするのかと思えば、酒場の方へ行きエールを注文していた。

 マイペースな奴だ。




 ひと悶着あったものの、エミリーさんから貨幣を受け取り、俺は冒険者協会を後にするのだった

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あとがき

・魔石について

 魔石は高純度のエネルギーを蓄えており、この世界の人間の生活を豊かにしています。

 例えば水やお湯を出したり、火をつけたり、空間を冷やしたりと、現代の人類が家電で行っているようなことを加工した魔石は行うことができます。

 しかし魔物から取り出した魔石のままでは使えず、職人の手で加工しないと上記のことは出来ません。

 石油だけあっても一般人ではそれをガソリンに出来ないし、ガソリンがあっても車がないと移動できない、みたいなイメージです。



それはそれとして今回のAIイラストは仲介に入ってくれたS級冒険者、アルムガルド・エルドラドのイラストです。

恰好いいね。


イラストはこちらのURLから↓

https://kakuyomu.jp/users/nasubi163183/news/16817330665278532053

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