36 参加した
翌日、残念ながら俺は別クラスのやつと前からの予定があった合コンに誘われていた。
元には悪いが予定がある、と言うと問題ないよ、一日二日焦ったってどうにもならないんだから、楽しんで来てと送り出された。
合コンと言っても、所詮は高校生のできるイベントでしかない。
知り合い割引が効くカラオケ行って、適当に飲んで歌う、そんな感じの流れだ。
彼女欲しい、とは常に言っていたし俺を誘ってくれた奴も人数合わせでいてくれるだけでいいから、ただ飯にするからと頼んできたのでOKした、そんな軽い気持ちでの参加だ。
夜まで遊ぶため、昼はのんびりと、俺にしては珍しく夏期休暇の課題何かやりながら時間を潰したり昼寝したりと時間を潰していた。
ちなみに親はリビングでテレビを見ながら課題を解く俺に驚き、また課題自体も全体の八割方終えていることにさらに驚いたようでひとしきり頭大丈夫か?盗んでないか?なんて失礼な質問をされた。
元と一気に終わらせた、今日で数学にとどめを刺したことを言うと、目を潤ませながら母は俺を抱きしめた。
随分と上機嫌になったようで、夕方に友達と遊びに行くことを言うと、何と軍資金として五千円もくれた。
親に勉強をして、その成果を出している姿を見せることは金になるようだ。
「オース筒井、遅れなかったな。」
「おう。」
駅前、のんびりと飯を食う人や遊びに向かう人、色々な方向に歩く人たちの中で、俺はベンチに座って今回の仕掛け人を待っていた。
クラスは五組で、うちのクラスでも詞島さんたちのクラスでもない、一般的なサッカー部の一年生である。
本日の参加者で俺が把握しているのはあと三人。同じ年のサッカー部員もう一人と、先輩サッカー部員一人、そしてバスケ部の先輩一人だ。
約束の時間通りに来たが、周りに戸塚以外誰もいないと言うことは、全員集合よりも先に集合時間を設定していたんだろうか。
「お前一人?
先輩とかは?」
「先輩たちは重役出勤、名瀬はまぁ、普通に遅刻だな。
まぁ大丈夫だ、あいつには九十分前で時間を伝えてたから、結果的には間に合うはずだ。」
「お、おう、大変だな。」
参加予定の人たちの現状を聞くに、やはり想定していた通り先輩の集合時間より早めにくるように連絡してくれていたのだろう。
個人的には出迎えるって言うのもやりすぎな気はするが、後輩として先輩を待たせるような形になってしまうよりはよっぽど良い。
まぁ、一人それ以上に気を使わなければいけないのがいたみたいだが。
「今日だけど、カラオケってのは聞いてたけど、相手どんな人だ?」
「知らね。女の子の情報なんて俺が知るわけないじゃん。」
「なんだ、セッティングお前じゃねえの?」
「俺は一年で誘えそうなやつ誘えって言われただけで、情報なんかもらってねえし。」
「マジかよ。」
地雷処理、そんな言葉が頭に浮かんだ。
いくらなんでも軽々にOK出しすぎたか、そんな後悔が過ぎる。
「まぁ、
「ってーと、やばい噂のある先輩とか?」
「おう、バレー部の二年の、何だったかな、誰かから誘われたら、できるだけ断った方がいいぞ。とことんまで面白いことを要求され続ける地獄みてーな飲み会らしい。」
「うっわ、絶対行きたくねえ。」
「だべ。」
他にも注意すべき相手、いろんな飲み会に顔を出す年齢不詳の女の人とか、彼女持ちの癖に合コンに参加して、毎回場の雰囲気を壊す人だとかの情報をもらいながら、俺と戸塚は集合を待っていた。
話初めて十分ほど、振動音に気づいた戸塚がスマホを取り出すと、そこには画面にメッセージが表示されていた。
『こんどこそついた まじで』
鼻で笑い、俺に画面を見せてくる戸塚。
メッセージ履歴には、二時間前から散発的にメッセージが飛んで来ていたようだ。
『今日五時だよな』
『今出る』
『遅れるなよ』
『もうすぐ着く』
『すぐつく』
『もうすぐつく』
『ちょっともどったけどすぐつく』
『今つく』
最初に投稿されたもうすぐ着く、の時間は一時間以上前だ。
その言葉通りに到着したのならすでにここにいるはずなのだが、その後ろに続く小まめな投稿がその予想、予定を否定しまくっていた。
「『ついた』ってことはあと五分ぐらいでここに来るな。少し予定より遅れたか。
今度は百五分くらい早く言わないとダメだな。」
ぽつりと呟き、戸塚はスマホをポケットに仕舞いこむ。
あぁ、こいつ苦労してんな、なんて思わされる仕草で、ちょっとこいつには優しくしてやろうと思った。
「あ、そうだ、時間早く言ってたってのは秘密でな。
どうせ気付かないとは思うけど、今度は調子乗って更に遅れるようなことはごめん被りたい。」
「おう、絶対言わねえ。早く来て待ってたってことにすればいいんだな?」
「そそ。センパイたちは先に連絡入れて遅く来てもらったってことにすっから。」
「おう。」
戸塚の宣言通りの五分後、一人の男が汗を拭きながら俺たちの前に現れた。
汗をかき、急いで来ているように見える割にはしっかりと髪を整えていて服も決めている。
「ごめんごめん、いやまじ時間通りだったんだぜ、出る前までは。
でもさ。」
「あー、いいよいいよ、今回はもういい、もうすぐ先輩来るから汗引かせとけ。
」
「いやまじごめんって、超謝るから。えっと、何だっけ君、バスケの、」
「筒井シュ」
「そーそー筒井な! 筒井もまじごめん、けどさー、絶対間に合ってたはずなんだぜ。」
軽いやつだ。
一目見たそいつに、俺はそう感じた。
ニコニコというよりはニヤニヤとした目、いきなり俺と戸塚の座るベンチの真ん中に座り込む強引さ。
陽キャ、というにはどうも薄いやつだ。
そう言えば、クラスにはこんなやついなかったな。
そう思うと珍獣を見たような心持ちになってしまう。いや、中学時代にはこんな考えなしを擬人化したような奴も結構いた気がするが。
「おう、まぁ俺はいいよ。
「そーそ、言いにくかったら好きに言っていーぜ。
で、先輩たち遅くね?
最近テレビで見たんだけどよ、後輩待たせるのもセクハラになるらしいぜ!」
「パワハラだろ。」
「ん?そう言ったっしょ。」
「あぁ、はいはい。」
疲れたように返す戸塚、もしかしてこいつ名瀬の面倒押しつけられてんのか?
「お、来た。」
ちょっと居た堪れなくて、早く先輩来ないかな、なんて考えながら人ごみを見ていると知っている顔がいて、つい口から声が出てしまう。
立ち上がり、手を振りながら近づいてくるよく知っている先輩に、頭を下げた。
隣では戸塚も同じく頭を下げている。
「おう、早いな戸塚ぁ。時間ギリギリでいいっつったのによ。」
「中々いい子じゃねーの。先輩待たせないなんて。」
「最近は物わかりいい後輩多くてなー。
俺らの時代なんか、三回怒られてやっと覚えたくれーなのに。」
短くまとめ、刈り上げられた髪と厚い胸板、高い背、薄い服のこれぞ体育会系、という感じの先輩が先に声をかけてきた。
サッカー部の比奈城先輩は噂通り豪快な人のようで、俺にも軽く手をあげて挨拶してくる。
一方、その先輩の隣を歩く毛先だけ金色で根元が黒くなっている先輩が
比奈城先輩に比べると細く見えるが相手が悪いだけだろう。
俺と同じ部活に所属し、エンジョイ勢の高学年として、色々と教えてもらったりサポートしてもらってる先輩だ。
スポーツ系部活の常か、先輩方の声はよく通る。
チラチラとこちらをみられているような気がしたが、一応反応はせずに戸塚と一緒に、少し遅れて名瀬も先輩に頭を下げる。
「今日はよろしくお願いします!」
「おう、任せとけ。良い子多いと思うぞ〜。」
「楽しみっす!先輩まじあざっす!!」
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