28 報告した


「ねえ、元くん、筒井くん。ウチのルカは、変なことに巻き込まれてないかしら?」


 寿司もある程度食い、落ち着いた頃。

 奏恵さんが俺と元に話しかけてきた。

 言葉だけなら子供を心配する親なのだが、その表情が面白いことに巻き込まれてないか期待するようにワクワクしているのが見て取れすぎた。

 

「俺は何の話も聞いてないですね。

 シュウはなんか聞いた?」

「いや、俺も。

 こっちの三国志からは他のクラスには手が伸びてないようなのでそれだけは詞島さんは大丈夫だと思います。

 他は、わかんないですけど。」

 

 クラス内での話や噂を思い返しながら、そう答える。

 男子間での他クラス女子の話や、部活での話でも詞島さんに関する話題は出てきていないと思う。

 話に上がるのはもっぱら派手で目を引く七組の女子組や、うちのクラスの外国人勢だ。

 こう言っては何だが、ただの美人なだけの詞島さんではインパクトが薄いんだろう。

 

「七組も、あれはあれで内側に向かってるっぽいから被害は限定的ですねー。てか、大木さんに聞いた方がいいっすよ。実は俺たちクラス跨いだ交流って男子間限定な上にかなり細っそいし。」

「大丈夫! ちょっと色々あったけど、うちのクラスは今はもう何ともないよ! 

 ね、ルカ!」

「はい、今はもう騒動も起きてないですものね。」


 心配半分ワクワク半分に見えた奏恵さんだったが、俺と元の言葉と、大木さんの太鼓判で安心したのか、手に持っていた湯呑みをテーブルに置き、ほっと息を吐いた。

 詞嶋さんのクラスの男子と話すようになったのは、元と映画を見た後だから結構最近であり、それ以前のクラスの話なんかはあまりしないが、話を聞いているとそれなりに無難にやっているらしい。

 後、これは仲良くなったやつから聞いた話なのだが、実は詞島さん狙いの男子もいたようで、夏休み前に告白のタイミングを玉砕覚悟で何人かが測っていたらしい。

 その話をされた時に丁度元も一緒にいたため、既に彼氏がいると教えてやろうか考えるも、すでに大木さん経由で彼氏持ちだと発表され、告白する前に終わってたよ、と苦笑していた。

 彼氏持ち相手でも告白しようとするあたり本気だったんだろうか。

 因みに、大木さんは最近可愛くなったと言われるようになっているらしいが、狙っている男子は特にいないらしい。

 大木さんの周りには常に仲の良い女子、最近だと詞島さんなどがいると言うのがやはり原因だろうか。


「そう、楽しくやってるとは思っていたけど、実際に他の子からも聞けて本当に安心したわ。」

「奏恵さんは心配性だなぁ。

 言ってたろ、元君が何か言ってこない限りは絶対大丈夫だって。」

「それはもちろんそうだけど、親として同性として、やっぱり心配なんだからしょうがないじゃない。」

 

 微妙にイチャイチャしてるな、この高校生の親。

 詞島さんもそうだが、そのご両親もやっぱりフワッとしている。

 見ていると、どこか落ち着いてくる感じだ。

 お茶を一口のみ、寿司桶に残っている寿司に手を伸ばす。

 イカやタコ、中々食べないネタもかなり美味しく頂かせてもらう。

 

「あ、山上君、そっちの煮穴子食べないんだったらちょーだい。」

「はいはい、ルカ、これそっちに。」

「うん、ありがと、あ、白魚も。ありがとね、元。」

「筒井君は、まだ肉食べるかい?ほらそっち持ってって。」

「え、いいんすか?ありがとうございます!」

 

 桶の中身に好みによる消費の偏りができたあたりで、卓上で寿司が行ったり来たりするようになる。

 俺の前の桶から何個か元が小皿に取り、詞島さんを経由して大木さんの方へ。

 かと思うと、徹さんから奏恵さんを経由して俺の方へ。

 そして、気づけば清子おばあさんの前には元が卵の寿司を置いていた。


「いや、でもほんとありがとうございます、こんな美味い晩飯久しぶりです。俺の寿司って食べ放題の固ったいやつしか最近食ってなくて。」

「あら、ありがとう筒井君。

 ちょっと奮発したんだけど、喜んでくれると嬉しいわ。」

「もう超感激です!」

「うふふ、元気ねぇ。

 ね、筒井くんから見て、元くんってどんな子?」

「え、ちょっと奏恵さん!」


 かちゃり、と元が持っていた急須が音を立てた。

 流石にちょっと恥ずかしいのだろうか。

 そういえば、徹さん相手には普通にお義父さんって言ってたな。

 とすると、親が友達に学校の姿を目の前で聞いている形か。

 うん、自分がやられると考えると、結構辛めなものがある、が、俺はやる側でダメージなし。

 たまには飄々としたその面に焦りを浮かばせるのも面白いと、元に向けてニヤリ、と一つ笑うと奏恵さんに向き直った。

 

「いやもう何つうか、最初見た時なんか優等生かよ! って感じでしか見てなくて、誰かと話すのもあんまり見ないやつだなーとか思ってました。」

「あら、やっぱり? 最初の二ヶ月くらいはお勉強の話しかしないし、部活に入ろうっていう姿勢も見せないもんだからほんと大丈夫かって思ってたんだけど。」

「俺もクラスの男子も誘ったりはしたんですけど、結局断られたらもうそれまでって感じっしたね。

 元々ウチのクラスって男子間での連帯は無理矢理濃くなってたんすけど、その中でもどこのグループに入るでもなく普通にしてるし、逆に声かけづらいんですよね、こいつ。」

「うんうん、わかるわかる。

 泰然としすぎてて、声かけていいのかちょっと迷うのよね。」


 腕を組み、深く頷くその動作に、やはり中学時代から元は変わっていないのだろうかと感じた。

 一応、元から話しかける姿もそれなりにみるし、クラスの別の男子が読んでいた雑誌を切っ掛けに話しかけたりもしていたが、それでもクラスにいる元を思い浮かべると、いつも席について何かを読んでいる姿が一番に思い浮かぶ。

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