09 笑った
「アイテム! アイテムさえ取れば!」
「はぁ!? 壁グリッチぁ!?」
「ちょっと! それ(自動操作のアイテム)使ってなんで逆走してくんのぉ!?」
「あ、あれ? 巻き添え……」
「よっしゃルカ抜かしあ“あ“あ“あ“あ“!!!」
「なんで抜かすんだよ大木さん! 俺の一位落としの秘策がぁ!!!」
「ザマァ。こっちはショートカットすればまだ五位には届きハンドル奪うなあああ!」
一コース三周で一レース。
その間に発生したコースアウトは合計で二十回では足りないだろう。
バトルモードでもしてんのかと思う程にCPUも妨害に巻き込まれ、順位はグチャグチャ。
二周目終了時点で十二人中八位だった詞島さんが最終的に一位を掻っ攫うという訳のわからないレースとなった。
因みに、このレースの動画が開発会社に送られた結果更なるバグの発覚に貢献したということで俺たちのアカウントにお礼のメールが来たりしたのだが、それはまた別の話だ。
で、結局レースゲームは一コインでプレイできる二コースのうち一つは詞島さんが漁夫の利を攫うこととなり、もう一つはNPCが押し出される形で首位を取った。
結果、このゲームは俺の喉と大木さんの腹筋に多大なダメージを与えることで終了とあいなった。
「スッゲェ疲れた。」
「車って怖いなぁ。」
「いやぁ、あれは山上君のキャラとセッティングと運が悪いでしょ。
今ネットで検索したけど、地雷ティアトップに燦然と輝いてたよ。」
「レースというか、立て直しの速さをはかる競技になっちゃってましたね。」
俺と大木さんはともかく、元と詞島さんもどことなく疲れたような、それでいてスッキリしたような顔になっている。
荒唐無稽に笑い、ツッコミあう。
多人数で楽しく遊ぶことの醍醐味だ。
どうでもいいことが楽しくなるのは、やはり楽しい。
「うん、でも楽しかったねぇ。
ね、ルカ。」
「ええ。やっぱりこうやっていっぱいの人と遊ぶのは楽しいです。
桃ちゃんに、もちろん元と筒井君にも、感謝ですね。
ありがとうございます。」
「あ、嫌、えっと、俺はその、なんつうか、 ……っす。」
体を向けて対面されて、目を見られながらの綺麗なおじぎ。
人生で受けたこともないようなそれに、顔がかっと熱くなり、つい吃ってしまう。
下げられた頭が戻り、顔が見えた後に微笑まれると、心臓が強くはねた。
これは、卑怯だろう。
顔を見続けることができなくて目を伏せ、目線をずらすと元の足があった。
スマホを見た時、食事の前に紹介された時、俺は元に嫉妬の念を持ったが、今改めて感じた。
俺は、元が羨ましい。
俺に向けられた笑顔が元の方を向いた時、さらに輝いたのを見た。
全く、羨ましい男だ。
妬ましさと、なんで俺じゃないんだ、なんて気持ちが湧いて来るのを感じ、自分がここまで浅ましい人間だったのかと、軽く自己嫌悪してしまう。
「そろそろシール行こうか。新しいやつだっけ?」
「そうそう。
クラスでも話題になっててさ、化粧盛ったりもできるらしいんだけど、それよりもコラボの植物園の薔薇がさぁ。」
歩き出す元と、それを追う大木さんに、後を歩く詞島さん。
少し疎外感を感じると、大木さんが俺を振り向いて手招きをしてくれた。
「筒井君は何かお化粧の要望とかある?
ガン黒にする?
ラメ入れる?」
「嫌、男でそれはないっしょ。
元だけがやるならいいと思うけど。」
「俺がやるなら一緒にやる、っていう場面だろそれは。
あ、ルカ、前みたいに変に数値いじるなよ。
一人だけ美白効きすぎて仮面みたいになってたし。」
もう、と軽く元の腕を叩く詞島さん。
可愛い。
クラスの女子は全員あの三人のハーレム主の誰かにしか中々笑顔を見せないため、こんなに身近で女子の可愛らしい生態を確認したのが久しぶりのような気がする。
四人でシール機の列に並び、グダグダと喋りながら順番を待つ。
それなりに人気の機体なのか、他の機体は空いているのに前には二組ほどが並んでいた。
ラーメン屋の待ちとは違い回転率は中々早いようで、小動物カフェの話なんかをしていればすぐに順番はやってきた。
女子二人が使うには広めなスペースだが、そこに更に男二人が入れば少しばかり狭さを感じる様な気がした。
「枠これで、効果はこれでー……よし。
サイン入れて、他に何か描きたい人いる?」
「猫耳描きたいです! 桃ちゃんお願いします!」
「おっけおっけ。
山上君何か書く? 筒井君と相合傘とかおすすめだけど。」
「パス。
シュウは?」
「嫌、特には。」
そういえば、こういったシールの撮影は初めてだということに気づく。
男同士でゲームセンターに来たら、こういったシールよりも一回でもゲーム自体に金を使いたがる奴らばかりだったのだから当たり前なのだが。
結局、慣れた女子組にお任せして俺たち男子組は状況に任せる。
「よっし、これでOK!
三回撮られるから、各々ポーズ決めてね。」
大木さんの声に合わせ、案内の音声が流れる。
そして、シャッター。
結局いきなりポーズと言われても何かのポーズをとることも出来ずに元と肩を組んだりしたぐらいだったが、なんとか無事に終えた。
排出されたシールは大木さんがもらい、他の俺を含めた三人はQRコードからデータを取ることにする。
スマホに残る、女の子との遊んだ記録。
女っけゼロだった男子高校生としては、快挙である。
それで浮かれてしまったのか、その後の記憶は結構曖昧だ。
駅に向かう途中、フリーマーケットに寄った記憶はあるがそれぐらいで、後は気づいたらベッドの上に寝ていた。
時計を見れば、夜中の二時。
スマホを見れば、メッセージツールとチャットツールに三人からのメッセージが飛んできていた。
画面をタップし、メッセージを眺めてギャラリーアプリでカメラを開く。
今日一日、嫌、すでに昨日になった休日の記憶が画像として残っていた。
確かに、遊んだんだ。
その事実に嬉しくなり、無言でガッツポーズをした。
思えばこの日から、俺の人生は彩りを増し始めたような気がする。
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