08 追突された

「右から来るよ!」

「右から!」


「上!」

「天井!」


「弾切れたよ!」

「こっちも!」


GAME OVER


 愕然とした。

 まさかここまでダメな方向に意気投合するとは。

 ゲームセンターでのここまでの無様は久し振りである。

 

 一ステージ目にて、あっさりと俺と大木さんのペアは轟沈した。

 こういうゲームの基本として、声かけが大事、と言うことは言うまでもない。

 もちろん俺はその意識も持っていたし、大木さんもゲーム自体の経験はあるので意識の共有はできていた、と思うのだがうまくは行かなかった。

 最初は二人とも注意した方以外を狙い、譲り過ぎてダメージ、次は合わせようと声を出した方を狙ったらまた二人とも同じ対象を狙って二アウト。

 最後には画面半分づつ受け持つことで何とかしようとしたところ、全く同時にリロードタイミングが重なり三アウト。

 合わせようとする性質と何とかしようとする性質、いろんな譲り合い精神が重なってしまい、しかも元の難易度も割と厳し目なことも相まって奇跡のような即落ちとなった。

 黒い画面に赤文字で踊る八文字に、つい大木さんの方を向くとあちらも俺を向いていて、お互いに苦笑いで謝ってしまう。


「うぅ、ルカぁ……奇跡的な息の合い方しちゃったよぅ。」

「はいはい、残念でした。やっぱり開始前に少しだけでも作戦会議は必要ですね。」

「一ステージで落ちて呆然としたところ写真に撮れたけど、これ古賀君に送ろうか。」

「やめろ、というかお前アプリ入れてねーだろ。」


 優しく抱きしめて頭を撫でる女神に比べ、この野郎はキズ口に塩を塗るだなんて。

 何とか今度は蜘蛛映画に誘わなくてはと俺は決心を新たにした。


「じゃぁ、次は俺とルカで。」

「おう、そっちも一ステで落ちたら笑ってやるからな。」

「じゃあ一ステ超えたらそっちを指差して笑うね。」


 元がコインを入れて左側に立ち、詞島さんが右側に。

 チラリと目を合わせたように見えたが、短い時間すぎて俺にはよくわからず、二人のゲームが始まった。


「作戦会議が必要だって言ってたのに、そのまま始めちゃったね。」

「あぁ、恋人同士とかいう関係にあぐらをかいたな。

 すぐ負けたら元だけ指差して笑ってやる。」

「うん、山上君には戦犯の汚名を背負ってもらおうじゃないか。」


 低得点をとってしまった身としては相手にもっと低い点を取ってもらうしかマウントの方法がないので、俺と大木さんはにたりと言った形の笑みを浮かべながら、元と詞島さんの背中を見させてもらった。

 ゲーム開始からしばらく、大きな動きはない。

 俺がミスしたせいでダメージを受けた箇所もあっさりと突破され、軽いブーイングを入れたがその後はもうぼうっと見ていることしかできなかった。

 ステージ一を攻略、二、三、四とまた軽々と突破。

 気づけば最終ステージへ。

 流石にワンコインでは無理だったのか、ギミック型のボスのギミックに気づく頃にはライフも尽きており、先に元が落ち、次に詞島さん。

 画面に踊るGAMEOVERの文字は先ほどの俺と大木さんのものと同じだったが、その下に刻まれたスコアは大きく水を開けられたものだった。


「うっわ、凄。」


 隣から聞こえる大木さんの言葉に、俺はあぁ、と喉から声を漏らしながら首を縦に振る。

 見れば、周りにも見学者が増えていた。

 シューティングゲームにあるまじき静かなプレイに、周りも魅入られていたのだろうか。

 このプレイ中、元と詞島さんが交わした会話はほとんどなかった。

 元が放った言葉は「ルカ」、「リロード」。

 詞島さんは「はい」、「リロード」。

 お互い二種類づつ。

 もちろん、一回づつではなく元は色々なアクセントで詞島さんを呼んでいたが、それでも驚くほどに少ない語彙だ。

 それだけで最終ステージまで進んでいた。

 圧巻だったのは、最後のボスのギミック突破だ。

 弾幕で足止めしながら光る部位を破壊、ある一定数破壊したら特定の色の部位を順番に破壊。

 一応画面内にヒントは出ているものの、明らかな覚えゲーっぽいステージにも関わらず二人は無理矢理食らいつき、ボスの直接対決まで辿り着きそうになっていた。


「負けちゃいました……うん、けどありがとう、元。

 こう言うの、楽しいね!」

「あぁ、ルカも凄い上手だったよ。」


 お互いハイタッチ。

 そして俺をむき、元は指を指すと。


「はっ」


 鼻で笑いやがった。

 ぴしり、と俺の中で怒りのボルテージが上がり、しかし負けたのは事実とブレーキをかける理性もあった。

 結果、握っていたペットボトルの結露水滴を指をはじくことで元にとばして嫌がらせをする程度にとどめてやることにした。


「うっわ、ちょ、地味に嫌。」

「うるさい。お前が悪い。」


 苦笑しながら受けてくれる元、それを大木さんも詞島さんも笑いながら見ている。

 なんか釈然としないまま、俺は次のゲームとしてレースゲームを選ぶことにしてぐるりと

周りを確認する。

 その中で四人同時対戦をできるタイプのゲーム、中々に息の長いシリーズのそれをしてみた。


「コントローラー以外だと、やっぱり新鮮だね。」

「はい、ハンドルって持ったことないです。」

「詞島さん、そこのサイドボードの部分にコントローラーもあるから、やりにくかったらそっちも使えるっすよ。」

「へぇ、知らなかった。最近のゲーム筐体ってそんなこともしてくれてるんだな。

 シュウ、経験者?」

「おう、ちなみに俺はコントローラーよりはハンドルの方が得意だ。」

「マジで!? 後でフレコ交換しようよ!」

「おう。おなシャス。」


 わいわいとしゃべりながら四人で座ってコインを投入する。

 折角だから、と詞島さんもハンドル操作で参加してみるようだ。

 キャラにカートにと細々としたセッティングも各々で好きに決めていいのだが、経験者の俺は全てランダム、元も俺に付き合ってランダムで決めた。

 元のランダムの結果に吹き出しそうになったのだが、必死に顔面を固めることで我慢する。

 スタートまで笑うな、と自分に言い聞かせ、スタートのシグナルが着くまでの間集中する。

 そして、いよいよスタート。

 タイミングよくアクセルを蒸すことでブーストに成功したのは俺と元、そして一秒後、スタートラインより手前に居たのも俺と元だけだった。


「ざっけんなオラァ!」

「ち、ちが! いきなりハンドルが!」

「ぶっは! いきなり!」


 呼吸困難な老いた猫みたいな笑い声を発しながら、ツボに入ったのかふらふらと走る大木さんを尻目に、ブーストの速度のまま俺のキャラクターにぶつかった元のキャラクターはコース縁石に押し付けるようにハンドルを切り続けている。

 元のキャラクターはアーケード限定の二人のキャラクターが一つに車に乗っているキャラクター。

 クレームに対応するためにどちらも雌雄同体のキャラクターなのだが、操作キャラではない方のキャラクターが運転に口と手を出すという、いわゆる車の運転あるあるを極端化させたキャラクターとなっている。

 さらに、元がランダムで選択した車体は加速も速いしグリップも最高、最高速も十分に上位という、スペックだけなら最高の車体なのだ。が、操作性がピーキーな上に路面の影響をモロに受けてハンドル操作の繊細さが変わるというイカれた仕様になっている。

 ちなみに、路面の影響というのは天候、風速、他のキャラクターの走行経路も含むために、この車体、セッティングを使うのはタイムアタック以外では縛りプレイ大好きなeゲーマーでも使わないという筋金入りの地雷セッティングである。

 はい、そういうわけでいきなり操作に割り込んでくるキャラクターと、プロですらまともに扱うのを諦めた車体とセッティング。

 起こる事故は、想定ではなく、確定しているのである。

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