07 喜びを知った

「みんな、そろそろ行こう。」


 いつの間にか席を立っていた元が戻ってきた。

 驚きながらいいのか、と聞くと、男友達と遊ぶの久しぶりだから、今日は俺持ちでいいよとのことだった。

 お言葉に甘え、四者四様のご馳走様を言って店を後にする。

 メニューの金額はかなりの良心設定で、雰囲気もいい。

 惜しいのはマジで立地だけ。

 駅と駅の間でもないから、こういう時でもないと来れないな。

 そう思いながら、元と並んで道を歩く。

 隣の友人と話しながらも意識は自分の後ろを歩く二人の女の子に向いてしまうのは、男故致し方なし。


「元、ありがとう。」

「山上くん、ご馳走様でした。」

「いやー、まじ美味かった。」

「どういたしまして。」

「でもなんでルカも山上君もあんな場所知ってたの?」

「あ、俺もそれ知りたい。」

「あぁ、ルカ関係。な。」

「はい。」

「え? 何か親戚とか?」

「親戚とは違いますね。

 祖母がマスターさんのお父さんとお知り合いのようでして、その伝手で昔紹介されたんです。」

「へぇー、おばあさん顔広いんだ。」

「はい、とても。」


 祖母が誉められるのが嬉しいのか、詞島さんの声は弾んでいた。

 どことなく、元の顔も笑みを浮かべているように見える。

 そこからは、普通のくだらない話だ。

 俺の部活の話や最近のゲームの話、クラス内でのハーレム三組による三国志の話など、いろいろと楽しみながら目的地であるアミューズメント施設に向かった。

 休みだからか、やはり人は多い。

 色とりどりのカラフルなジャージと頭髪をしたヤンキーなのか陽キャなのかわからない奴らをすり抜け、四人で入場する。

 相変わらずうるさいが、どこか安心する雰囲気だ。

 プリは最後にしよう、と言った大木さんがまず向かったのは音ゲー。

 マイカードをかざし、一緒にやろうと詞島さんを誘う。

 詞島さんの右手を両手で掴み、筐体に誘う大木さん。

 何というか、眼福だ。

 改めて、目の前の光景を確認する。

 間違いなく美人な詞島さん、少し毛色は違えど、可愛らしい大木さん。

 中学時代になかった女っけがいきなり降って沸いたようで、溢れ出る幸福感にひたりながら、俺は元とともに後方腕組み待機勢となった。


「やべえ、マジ幸せだわ。

 世のチャラ男や彼女持ちはこんな幸せな気分でゲーセン来てたのか。」

「別にシュウの彼女でもないけどね。」

「いーんだよ。

 女の子と一緒に遊びにいくってだけで俺には一大イベントなんだ。」


 バシバシと丸型の画面を叩く二人の後ろ姿は、俺にとっては人生初の景色なのだ。

 スコアを稼ぐその姿と、ミスした時のあぁっ!とかの軽い悲鳴とか、一コイン使い切り規定数の曲を踊り終えた二人の嬉しそうに抱き合う姿。

 ふわりと舞う黒髪と、ほっそい体。

 ぴょんぴょんと元気よく跳ねる小さな体。

 それら全てを脳内のフォルダに厳重に保管しておく。

 さて、交代だ。


「負けたら次のプレイ奢りな。」

「いいね。」


 軽い返答、元もやる気か。

 まぁ男子たるもの、一度や二度はゲーセンで遊ぶものだ。相手に不足なし、多分。

 俺個人としてこういったどうでもいい場面では負けたくないので、補足鋭く息を吐き、意識を集中する。

 GOの文字がディスプレイに浮かぶと同時に俺は画面に示されるノーツを叩く。

 調子はいい。最高得点、最高コンボには届かないが十分に高得点。

 途中でやはりコンボが途切れたがご愛嬌。

 そんなに高レベルなわけでもないにわか同士のやり合いだったが、やはり一般人としてはこういうのが楽しいのだ。

 そのまま特に見せ場もなく、俺の三ゲーム連取。

 元の好きだという曲も危なかったがきちんと勝てたのは嬉しいところだ。

 熱くなりやすい性質だと自分では思っているのだが、それなりに冷静にプレイを進められた方だと思う。


「あー、二回目はもうちょっとで取れたのに!」

「ウェーイ、次のプレイごち。」

「もう! 少し! だった! のに!」


 悔しそうにする元の姿は、俺と同じ普通のDKだと言うことを改めて教えてくれる。

 話しやすいし、割とバカもやってくれるがこう言った感情を爆発させる姿と言うのを初めて見た気がして、どこか安心させられた。


「ルカ次何やりたい?」

「そうですね、せっかくなのでやったことないシューティングとかやりたいです。」

「あれ? そうなの?

 そう言うのってデートの定番じゃない?」

「その、実は私ってメダル系に元を付き合わせることが多くて……

 しかも時間使って遊ぶ方なので、こう言ったゲームって中々触らなかったんです。」

「へー、どう言うやつ?」

「あちらにあるような競馬のゲームです。」

「ごめん、それは予想してなかったわ。」


 女子二人の会話を聞き、四人でゾンビシューティングに足を進ませながら俺は元に話しかける。

 競馬女子とやらがいるのは知っていたが、まさか身近に、しかも頭の中で紐づかないタイプの子がいるとは。


「詞島さんが競馬とかちょっと驚いたわ。」

「お金をかけるといきなりポンコツになるから絶対生ではやらせないけどね。

 ただ、俺もルカも動物はかなり好きだから。」

「うん、詞島さんは確かに乗馬とかしてそう。」

「流石にそれは体験ぐらいだけどね。」

「絵になりそうだな。」

「なってたねぇ。ま、実際は競馬場で馬券握りしめてる方が近いっていうね。」

「やめろ、夢を壊すな。」


 今度はペアをローテーション。

 相方が固定されない上に男女ペアでの遊びができる幸せを噛みしめながら、俺は元にコインを投入してもらい、大木さんとペアを組んでゲームを開始した、のだが……

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