04 引きずり込んだ

 付き合ってみたところ、元は思った以上に付き合いやすいやつだった。

 適度に話しかけてくるし、適度に放っておいてくれる。

 古賀と時間が会わない時にちょっと放課後遊びに行ったのだが、平日の間下宿しているところは学校から見ると俺の家と方向が同じで、時折帰りに遊びに誘うのにはちょうど良い。

 趣味を共有するでもなく、部活が同じわけでもない。にしてはそれなりに付き合いのある“ちょうどいい”付き合いをしている感じだ。

 時々他の約束があるとは言われることもあるが、それ以外は特に付き合いが悪いわけではないし、埋め合わせで誘ったり遊んだりしてくれるいいやつだ。

 

 そんな付き合いを開始してしばらくした頃のとある週末。

 バスケ部で先輩方だけの強化合宿をするとかで暇になったその週末に、俺は一年で仲の良い古賀に元とで遊ぶ予定を立てた。

 接点の開始箇所となった古賀も含めてぜひ遊んでみたかったのだが、その当人は金曜夜に生レバーの摂食による食中毒で緊急搬送されて残念ながら不参加となった。

 しかし予定していた映画のチケットは電子で予約して席も取っていたので折角だからと参加可能な俺と元だけで決行となったのだ。


 チャットツールを使っていないという元に合わせ、SMSで朝の連絡をする。

 直前状態は予定通り、問題なし。

 集合場所のコンビニには既についていて、イートインで休憩中ということらしい。

 時間通り、いや、少しだけ早目にきちんと現着しているあたり、やはり真面目なのだろう。

 元の今時の若者っぽいところを持ちながらのそういう真面目さは、結構助かるな、なんて思った。

 

 中学時代の先輩なんかは、遊びに行く約束なんぞしよう物なら朝のモーニングコールから、三十分前に集合場所についた旨のチャット、五分前の確認まで要求してくるのだから、溜まった物ではない。

 そんな地獄のようなグルチャ地獄を思い出しながら俺は集合地点のコンビニに到着した。

 駐車場から見えるイートインにはすでに元が座っており、文庫本を読みながら紙カップの何かを飲んでいた。

 黒髪で、色シャツにチノパン。なんというかオタクファッションな感じしかしないのだが、本人が堂々としているせいかむしろノマドっぽい感じに見えてくるのが不思議だ。

 自動ドアを開け、入ってすぐ右のイートイン。

 本に視線を向ける元の座る椅子の背をノックすると、こっちに気づいて振り向いた。

 いつものぼーっとした目でこちらを見る姿に少しばかりの安心を覚え、軽く手を挙げて挨拶をする。


「おっす。」

「おっす、早いね。すぐ行く?」

「いや、なんか買ってから行こうぜ。」


 いつもなら映画館に金を落とすためにしないのだが、今回に限っては物販で散財する予定なので百円菓子を買い込み、持っていくことにする。

 本日観覧予定の映画、それは贔屓にしている配給会社からの二年ぶりの新作となる超大作映画、シャークハザードだ。

 

 シャークハザード だ。


 もう名前からして約束されすぎているクソ映画臭がぷんぷんするその映画は、劇場宣伝もなければ、ウェブにすら公開情報を微かにしか漏らさなかった明らかな地雷映画である。

 やる気があるのかないのかわからない製作陣だが、製作費の高騰に対し、なぜかギリギリペイできるだけの利益を上げ続ける謎監督の最新作。その新作ともなれば見ないわけにはいかない。

 因みに、地方ではきちんと放映されるのだが近場の映画館だとなぜか二週間しか放映されないため、今日を除くともう土日に放映されることはない。

 攻めすぎな映画と、配信体制である。


 ともあれ、クソ映画は金を払って映画館で見てこそ、という俺のポリシーに賛同してくれた元と古賀は今日の苦行に付き合ってくれるはずだったのだが、残念ながら地獄の道連れは一人だけとなってしまった。

 そういうわけで、ぜひ一緒に楽しんでもらおう。

 ようこそ、クソ映画の普通に生きてりゃ関係ない世界へ。


 心の中でそんな外道なことを考える俺に気づいていないのか、楽しそうにだべりながら映画館に向かう元。

 この笑顔が視聴後にどうなるか、それを楽しみにするのもクソ映画ハンターとしての楽しみだ。

 映画館に着き、自動発券機でチケットを出力、物販でグッズを購入し、館内のシアターに入る。

 ポツポツと席は埋まっているが、全ての着席者がお互いの視界に入らないような絶妙な離れ具合で座っている。

 うん、そうそう。紳士たる者こうでなくては。

 席に座り、スマホのモードを機内にする。

 コーラとポップコーンの準備は完璧。


「ねえシュウ、俺らほんとに映画見るんだよな?」

「何言ってんだお前。」

 

 はは、と元の質問を笑い飛ばした。

 

「いや、何か周りの雰囲気変なんだけど。」

「大丈夫大丈夫、食われたりはしないって。」

 

 周りの迷惑にならないようにボソボソと話しかけてくるが、それを流し続ける。

 辺りに居るのはクソ映画愛好家のみんなであり、ある意味友人のようなものだ。

 そう、ただ名前も顔も知らないだけの運命共同体である。

 そうしていつも通り映画泥棒の映像が始まり、俺にとってはお馴染みで、元にとっては初体験の懲役四十七分が始まった。

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