24 15:15 駅

 駅前で待ち合わせ。

 いつもの日常の範囲にある場所なのだが、それでも待ち合わせというイベントを併設すると特別感が出る。

 集まって、少し今回のライブに出る人たちの話をして、軽く何か食べて。

 そしてライブハウスへ。

 そういう計画のため、ライブ時間からして見れば結構早い時間に集まることになっている。


 まぁ、私からしてみれば十分にゆっくりだ。

 ライブ前に物販があるようなそんな規模のやつならそれこそ会場前にいつからいたのかわからないぐらい並ぶような奴らもいる。

 それに比べれば、二、三時間前に集まるようなものなんてちょっと早めに来ましたぐらいだ。

 そんな後方経験者面してる私だが、誰よりも早く駅前に着いてベンチに陣取っていた。


 待ちの間、スマホでソシャゲのデイリーを済ませておく。

 翌々月の推しが主体のイベントのためにしっかりとやっておかなければならないことが多いのだ。

 超速で一連の動作を回し、最低限のことを済ませていると、通知が出てきた。

 送り元は才加。

 裕子とルカと合流したよ、ということで私も近くにいるかの確認がとんできた。

 ゲームを後ろに回し、メッセージに返信、駅外、東口のベンチにいるからゆっくりきていいよ、と返す。


 中学時代、時間通りに人が来るとホッとしていたのを思い出す。

 直前でのキャンセルや集合場所変更は当たり前。

 わがままを飲ませることで自分のランクを確認するような奴もいたなぁ、なんて苦笑しながら脳内の恨み言手帳を再確認する。


 今の学校は幸いにも最低限以上の学力が必要なため、ある程度の常識を持つ人が多くてこういう社会マナーに対してもしっかりしていて、本当に安心する。

 ゲームを最前面に戻し、途中セーブをしっかりとして視線を駅出口に向ける。

 大きく書かれた駅名の下、休みだからか色んな人たちが出てくる。

 すぐに曲がる人、ちょっと歩いて止まり、地図を見る人。

 改札に使った次の瞬間にはスマホをのぞいてそのまま歩き出す人。

 お年寄りから子供まで、グループから一人まで。

 バリエーションに富む人混みは、あまり長い時間でなければ暇つぶしにはぴったりだ。


 小学生低学年ぐらいの女の子と手を繋いだ、明らかに堅気に見えないでかい人が四人ぐらいの警備員に声かけされて、女の子が「うちの息子がヤクザだって言ってるんですか!」なんて言ってるのを視界の端に捉えながら、私は待ち人がホームの階段から降りて来るのを見つけた。

 私がじっと見ていると視線に気付いたのか、三人はまっすぐ私に向けて歩いてきてくれる。

 駅舎下から出ると持っていた日傘をさすルカ。

 その影に入ろうとポジション取りを繰り返す才加と裕子にちょっと笑いながら、手を振って三人を迎えた。


「三人ともおっかれー。

 まだ暑いねぇ。」

「ほんとだよ、すぐ日が暮れるからって日傘持ってこなかったのは失敗だったわ。」

「桃ちゃん、早いね。」

「日傘は私もルカに影響されて持ち始めたからなぁ。

 あと、ゆーちゃんありがと。

 迷わなかった?」

「うん、才加もルカさんもいたし。」

「ホームで会ったのはすごい偶然でしたよね。」

 

 建物の影になる私のいる場所に集まり、みんなで集合できたことをまずは喜んだ。

 ついで、私は改めて三人を眺める。

 才加はパンツルックの活発そうなコーディネートで、本人の性格に合わせた動きやすそうな一式を纏っている。

 一方で裕子の方はあまり動きやすい服装を持っていなかったのか、スキニーではない余裕のあるジーンズにゆったりしたTシャツとサマーカーディガンいう無難な服。

 ルカはというと、ロングワンピースとカーディガン、すそから覗く足を見るに、下に細目なズボンを履いている感じだ。

 才加が一番センスがありそうな服装をしているあたり、ちょっと意外だ。

 裕子の方は何を着ればいいか悩んでいたのは相談されて知ってたし、結局あんまり体のラインも出したくなかったからおとなしい服になったんだな、と考えた。

 おとなしい服装といえば、ルカもか。

 ルカに関しては実は、少しホッとしていたりする。

 あまり着飾ったルカを山上君もいないのに人前に出すのもちょっと気が引けるしね。

 ウエストも絞ってないせいで微妙に太めに見えるのもあって、芋っぽさが出ててヨシ。


「それで、竹田さんの言ってたファミレスってどこでしたっけ。」

「あ、一回行ってきて見たから大丈夫、案内するよー。」

「おぉ、桃ナイス!」

「ありがとう、桃ちゃん。」

 

 才加と裕子からは称賛の褒め言葉が、ルカからは頭頂部の愛撫をもらう。

 身体的にも精神的にも充足されていく感じがたまらない。

 もっと褒めてくれ。私は褒めれば伸びることもあるタイプだ。

 

「それじゃー桃、案内お願い。

 裕子は桃の日傘に一緒に入ったら2:2でちょうどいいよね。」

「えっと、それはどうかな。

 桃ちゃん歩くの早いし、才加と一緒の方がいいんじゃない?」

 

 お、褒めた次の瞬間には押し付け合いか?

 おいおい、上げて落とすなんて中々やるじゃない。

 

「なぁんで私を押じ付げ合うのぉぉぉ!」

 

 ちょっとわざとらしく濁音をつけながら才加にしがみつく。

 肌部分が少し熱を持っているようでぶっちゃけ暑い。

 

「ちょっ! あ、暑いって桃!」

「こっちだって暑いいいいい!」

 

 ぐわんぐわんと揺らされるが、しっかりとしがみついて頬を擦り付ける。

 ふふふ、そっちも暑くなってしまえ。

 ひとしきり騒ぐとスッキリして離れる。

 肌で触れた体温がなくなると、一時的にだが涼しく感じるようになる。

 才加に手で離され、押し除けられる私に裕子が楽しそうに笑う。

 ルカも上品に笑っていた。

 

「あーもうあっつい。

 てか、一回行ったってガチで?」

「そだよ。そんなに遠くなかったしね。」

「桃ちゃん、準備すごいね。」

 

 裕子からの追い褒め言葉が私の中で反響する。

 なんてったって行ったことない場所に地図アプリだけで行った気になって実際の道に迷う、なんてのは昔よくあったことなのだ。

 そんなことにならないように、一度歩くことができるんならしたほうがいいに決まってる。

 余裕があれば足を伸ばすのはやったほうがいいっていうのを実例で何回か学ばせてもらったのだ。

 

「それじゃあお願いね、桃。」

「任された。

 ルカとゆーちゃんはついてきてねー。」

 

 はい、と才加に私の日傘を持たせて二人で先導する。

 日の傾きはもう夕暮れに近くなってきているが、太陽の強さはいまだに健在。

 もうしばらくは日傘の影が必要そうだとそう思わせてくる。


 そのままライブへハウスへ行く前の集合場所、ファミレスに向けて四人でのんびりと道を歩く。

 日傘を持たない人がすごく暑そうにしていることにちょっとした優越感を感じながら、今日のライブについてわちゃわちゃと話しあった。

 怖くないかな、大丈夫かな、コールないって言ってたけど、やっぱり何か叫んだほうがいい?

 竹田さんがきたら改めて聞いてみよう、という程度の本当にどうでもいい話。

 会話の空白をなくすことだけが目的の、特に意味のない話だが四人もいればやっぱり楽しい。

 そのまま会話と歩行が続き、会話内容が英語の先生が最近薬指の指輪を外したことに言及したあたりで目的地に到着した。

 見た目は普通のよくあるファミレスで、全国展開されているチェーン店の一つであるそこは多すぎることもないお客さんが入っていた。

 

「いらっしゃいませ、何名様でしょうか。」

「三十分から予約してた大木です。」

「五名でご予約の大木様ですね。

 六名席、禁煙でお取りしておりますのでご案内いたします。」

 

 ビシッと制服を決めたお兄さんが私たちを席に案内してくれた。

 予約を入れていたことに才加と裕子が驚いているようで、つい得意げになってしまう。

 ルカからは生暖かい視線を受けるが、やっぱり山上君の真似したのわかるのかな。

 そう、こういった休憩場所に予約を入れておくのは山上君の真似だ。

 遊びに行ったりした時、山上君が大抵食事をする場所に予約を入れていてくれたのを覚えていたので、それを参考にしてのことだ。

 私やルカが予定時間を超えて遊び回ったりしてもきちんと予約を取っていたりするあたり、細かな予定時間の変更とかもしていたんだろうなと改めて彼のマメさを感じてしまう。

 案内された席はドリンクバーにほど近い席で、窓からは距離があるため日差しは入ってこない。

 クーラーも直撃はしていないようなので、ちょうどいい席だ。

 壁側にルカと才加、続いて私と裕子が座り、私、ルカに対面する形で裕子、才加が座る感じに席が自然と決まった。

 さて、ほっと一息、というところか。

 よく知る人と、落ち着いた場所で話せる時間。

 これから今までとは違う文化圏に足を踏み入れる前にこういう時間が取れるのはよかったと、私はもう一度水に手を伸ばした。

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