22 15:00 カラオケ

 ルカと山上君がどういう付き合いをしているのかということを知らないことに気づいたタイミングで舞い込んだ、二人がデート中という情報。

 それに一も二もなく飛びつき、二人がデートをしているアウトレットモールに踏み込んだ私たちだが、既に私は結構一杯一杯だった。

 二人の尊さに身を灼かれ、泉のアレっぷりにツッコミ疲れを起こす。

 放っておくわけにもいかず、泉の諸々にツッコミを入れながら私はなんとか軌道修正を試みていた。

 そんなやりとりをしている間に、ルカ達二人は休憩するようでテーブルが置かれたフードコート的なところに向かっていた。

 日除けのパラソルがあるので二階からは見えなくなるな、何て思っていると泉が行くわよ、と移動を促してきた。

 ここで放り出しても面白そうだな、何て思いながらもやたらと頼もしい背に続く。

 心の中ではコソコソと、実際の動作としては割と堂々と動き、私たちもテーブルの群れの端に座る。

 それなりに人が座っているおかげでルカ達への視線のブラインドになってしまうが、その分あちらからも見辛いだろう。

 遠間からちらちらと二人を観察していると、二人は席に座ることなく連れ立ってフードトラックに向かった。

 卒無い山上君ならルカを席に座らせて一人で取りに行きそうなものだが、どうしたのだろう。

 

「ルカにも歩かせてるね、泉的にはマイナスポイント?」

「普通ならね。

 詞島さん相手ならプラスってところかしら、恨めしいけど。」

「え?」

「詞島さん、握った手をちっちゃく揺らしてるわ。

 離したくないみたいね。」

 

 その言葉に弾かれるように泉の首にかけられていた双眼鏡をうばい、二人の手を見る。

 言われた通りだ。

 そして、明らかに山上君の方が手を動かされる側になっている。

 恋人繋ぎじゃないところが逆に、良い。

 

「それと、周りの客層ね。」

「客層、えっと、お年寄りが少ない、と、女の人が少なめかな?」

「そうね、もっと言えばチャラ男率とでもいうのかしら。

 周り見てごらんなさい、明らかに出会い目的のオスが多いでしょ、そいつらに詞島さんが接触する機会を極限まで減らそうとしてるんじゃないかしら。」

「な、なるほど。」

「ここに来るまでも歩いてる場所は人が多かったり店員さんの前を通ってたもの。

 習性になってるかもしれないわね。」

「はー、美人の彼氏ってのも辛いんだねぇ。」

「そのぐらい踏まえてろってところでしょ。

 ところで離して貰ってもいい?

 良い加減背筋がキツイのだけれど。」

 

 泉の言葉に、握っていた双眼鏡を離す。

 首にかけていた紐ごと引っ張ったため、泉がテーブルに叩きつけられそうなほどの前傾姿勢になっていたようだ。

 謝罪の言葉を言いながら傾いていた姿勢を戻すのを手伝うついでに双眼鏡の紐を外し、テーブルに置かせてもらう。

 言われて辺りを見回すと、成程。

 気に求めていなかったが年齢層が低い。

 家族連れなどもいるが、それよりも男女比六対四くらいで男の方が多く感じる。

 さらによく見れば、女に声をかけている姿もちらほらと見受けられた。

 確かに泉の言葉の通り、ここでルカを席に待たせておけば礼儀や遠慮を知らない猿の如き性欲モンスターどもがルカの座る席に勝手に相席で座ること必定。

 山上君はそれを防ぎつつ、ルカの好きにさせているという事か。

 ところで。

 

「ねぇ、私はナンパされてないよ。」

「えぇそうね、私もよ。」

「何でかな。」

「さあ?きっと世の男は自分より強い女には声かけられないのよ。」

「え?私たち赤木さんとおんなじ?」

「馬鹿ね、私達はヒト属でしょ。」

「やっぱり泉って一回きちんとどこか権威あるところに怒られた方が良いよ。」

 

 まぁ、強さを感じているのは確かかもしれない。

 今後ろから近寄ってこようとした雰囲気イケメンのお兄さんが泉の背中を見て引き攣った笑みを浮かべながら離れていったし。

 十人並み、少なくとも見るに耐えないような顔ではない筈だし、今のやつに至っては顔すら見てないのに逃げ出したんだから動物的な何かが働いたんだな。

 アレ?

 それってもしかして私達の存在を強烈に主張してるってことにならない?

 ぶっちゃけ、バレてない?

 

 フードトラックから食事を受けとったルカ達、振り返る山上君の目線が私にぶつかった。

 小さく微笑む山上君、その表情が私に言外に語りかけた。

 逃げるなよ。

 ビシリと固まり、顔を引き攣らせる。

 不思議そうに山上君を覗き込むルカに、彼が私達を指し示すとルカは驚きながら嬉しそうに笑顔を向けてくる。

 あぁ、ルカは気づいてなかったのね。

 席を立つのも何となく失礼な気がして山上君がルカに引っ張られてくるのを眺め続けた。

 

「桃ちゃん、三宅さんこんにちわ!

 奇遇ですね、二人もお買い物ですか?」


 笑顔が眩しい。

 いえ、貴方の彼氏の瑕疵を見つけに来ました、なんていうこともできずチラりと山上君に目線をやると口の形だけで笑いながら小さく首肯された。

 うん、バラす気はないと。了解。

 

「いやー、そうなんだよ本当に偶然。

 たまたま近くで泉に会ってさぁ。」

「そうなの、詞島さんに会えるなんて本当に奇遇ね。

 そちらはデートかしら?」

 

 し、白々しい。

 しかしその表情はものすごく普通だ。

 言いながら私の対面から左隣に移り、泉は二人に席を薦めた。

 それを受け、ルカが座ると山上君もその隣に座る。

 テーブルに置かれたのはキューバサンドにナゲットやポテトフライ、野菜スティックなどのスナック。

 

「種類多いな、って思ってたけど元は桃ちゃん達見つけてたからだったんだね。」

「あぁ、折角だしな。

 大木さんと、三宅さん、で良い?」

「ええ。」

「ありがとう。

 二人も適当に取って食べてくれると嬉しい。

 食べて、くれる、よな?」

 

 微妙にプレッシャーを放ちながら山上君が私たちに問いかける。

 言っていないがわかる。

 食べるよな、と圧をかけて来ていることを全く隠そうとしていない。

 

「っス。」

「ありがと、いただくわ。」

 

 図太いなほんとに。

 ともあれ、山上君がカバンから出したウエットティッシュをテーブルの上に置き、ルカのいただきますの合図で各々目の前に置かれたものに手を伸ばす。

 包装紙や紙食器は特段目を引くようなものには見えないが、味は良い。

 初めて来たが、この食事を目的にきても良いかもと思うくらいには野菜スティックのディップも、フライも美味しい。

 フードトラックのメニュー表を遠目に眺めると、驚くほど安いわけではないが外で食べるにしてはかなりお手頃な値段だ。

 

「美味しいねこれ。

 全然噂とか聞いたことなかったけど、ルカここのお店知ってたの?」

「ううん、ここは何回か来たことあるけどここのキッチンカーは初めて。

 元が良さそうだからって選んでくれたの。」

「おぉ。

 んで山上君は何か前情報とか?」

「いや、店長さんが清潔感あったしなんか良い人そうだったから」

「あー。」

 

 確かに。

 先ほどメニューを見た時にチラッと見た店長さんはオーバーサイズながら清潔感があり、大柄なのに愛くるしさがあるタイプの外人さんだった。

 街の食堂とかにいたら見た目で美味しそうと感じる感じの外見だ。

 鉄板で焼いた肉の切れ端を口にするところとかちょっと可愛い。

 

「わかる。

 あの人絶対賄いのパスタとか美味しそう。」

「それな。」


 美味しいスナックに舌鼓を打ち、ルカから少しだけ切り分けたキューバサンドもいただく。

 その間、泉と私でルカに今日のことを聞いてみた。

 山上君とは朝方からこちらに来ていたようで、運動靴やカバン、ジャケットにカーディガンを買いに来ていたということらしい。

 私達に送られたあの靴を選ぶ写真はこちらに来て何件かウィンドウショッピングなどをした後の買い物だったようだ。

 ルカのお婆さん、清子さんの付き合いで割引が効くお店だったようで、おばあちゃんの話などで盛り上がって結構割引してもらえた、なんて話をしていた。

 後を尾けていたことに関しても聞かれるかな、なんて思っていたが山上君からは特に追及もなく話は弾んでいく。

 気づけばテーブル上の皿は空になり、四人で座ってからの時間が三十分を超えた頃、ふと話が途切れた。

 お腹も膨れ、最初にあった緊張感も緩んだタイミング。

 その隙間のような空白に、泉がテーブルの上で両手を組んだ。

 

「ねえ、山上君。

 少し良いかしら。」

 

 直前までの雑談で発していたものとは違う、どことなく真剣な声。

 それに山上君も少し目を細め、背もたれに預けていた背中を離し、背筋を正した。

 何をいうつもりだ。というか、いきなりこんな圧迫面接みたいな空気感出して大丈夫か、ルカに悪いんじゃ。

 ぐるぐると回る思考に、助けを求めるようにルカを見るとルカは楽しそうに二人を眺めていた。

 

「良いけど、俺に何か?」

「えぇ、クラスメイトとして、貴方に確認しなければいけないことがあるわ。」

 

 いや、ただのクラスメイトが彼氏に何を問いただすってんだよ。

 山上君も、へえ、とか言いながら『面白くなってきやがったぜ』的なその表情やめなって。

 あぁもう、ルカもなんかワクワクして目を輝かせてるし。

 

「詞島さんとは、どれくらいお付き合いしてるの?」

「ん?

 幼稚園ぐらいからだから、十年は超えてるかな。」

「年少の時からだから、十二年ですね。」

「あぁ、そんなもんか。」

 

 さらっと言われたけど、割とすごいこと言ってない?

 

「その間、ずっと詞島さんと?」

「いや、そりゃそうでしょうよ。」

「そう。」

 

 目を瞑り、少し考え込むように俯く泉。

 なんかかっこつけてるけどろくなこと考えてないような気がする。

 

「どっちから、とか色々聞きたいことはあったけど、まぁ置いとくわ。

 一つ最後に聞かせて。

 どんなに辛くても、詞島さんを離すつもりはない?」

「当たり前だろ。」

 

 いや、たかがクラスメイトがまじで何言ってんの。

 山上君が何言ってんだって呆れた顔してるし、ルカは・・・あ、メスの顔してる。

 泉もなんかその言葉が聞きたかった、って顔してるし。

 

「その言葉が聞きたかった。」

 

 あ、言うのね。

 

「私から言うことはもう何もないわ。詞島さん。」

「はい。」

 

 言ってる言ってる。

 舌の根の乾かぬうちに言ってる。

 

「良い彼氏ね、祝福するわ。」

 

 お前誰だよ偉そうに。

 ご馳走様、と言い放って席を立つ泉。

 風に揺れるセミロングの髪が太陽に煌めき、その背中にはどこか哀愁が漂っているように見えた。

 いや、ほんとに見えただけだけど。

 

「なんかすごい子だったな。」

「私、あんな三宅さん初めて見ました。」

「私もだよ。」

 

 気づけば皿もティッシュも片付けられ、テーブルの上は綺麗に元通りになっていた。

 山上君のこういうスキルって割とすごいような気がする。

 

「じゃあ、私たちも行きましょうか。」

「そうだな。もう予定の買い物も済ませたし、大木さんは何かある?」

「ん、私も他に予定はないかな。」

 

 ぶっちゃけ暇すぎてデートのストーキングしてたわけだし。

 その結果過剰供給された尊みで後二週間くらいは消化不良起こしそうだけど。

 

「あ、じゃあこの後一緒にちょっと遊びませんか?」

「良いの?だったら喜んで!」

 

 席をたち、どこに行くかでルカと私のカラオケという要望に山上君が了解をしてくれて、カラオケに行くことにした。

 ちなみに駅向け三個目の信号で足止めくらってる泉に会ったので、一緒に行くことにしました。

 楽しかったです。

 

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