第16話 恋敵



『いらっしゃいませ。』



家から少し遠出してドライブしながら

到着したのは、海に面したオシャレな

レストランで、サンシェードがある

素敵なテラス席にハルと座った。



「素敵な場所だね。潮風が気持ちいい‥」



海ってなかなかこの歳になると

行かなくなるけど、泳がなくても

眺めながらランチなんて贅沢だ‥‥



『奈央、後で知り合いが来るから

 少しだけ一緒に話してもいいか?

 奈央のことも紹介したいし。』



「えっ?‥‥勿論いいけど、

 なんか緊張するかも‥‥」



『大丈夫だよ、安心して居てくれれば

 いいから。』



ハルがそう言うなら大丈夫だと思うけど、

突然のことに変に力が入ってしまう



注文しておいてくれた料理を食べながら

ハルと会話していても美味しいし

勿論楽しいけれど、来る人が女なのか

男なのか気になってしまう



『晴臣、お待たせ。』


えっ?



食後の珈琲を飲んでいると、

聞き慣れた声にぼーっとしていた

私は、目の前の光景に目を疑った



『奏、やめろ。』


『いいじゃない、慎ってばヤキモチ?』


『二人とも外だからやめろ。

 奏さん離してくれませんか?

 彼女が見てるので。』



ハルの背後から抱きついている相手にも

驚いてしまうけど、慎さんがいるのにも

驚いて、三人の空気感についていけずで

口が開いたまま呆気に取られる



『‥‥甲斐田さん、お休みの日にごめんね。

 体調大丈夫?』



「‥‥‥えっと‥‥渡会主任‥ですよね?」



相変わらずハルの首に抱きついたまま

ニヤリと笑う姿は、倉庫内で見る顔とは

180度真逆な人だ



一昨日のことを思い出すと、

かなりまだ警戒してしまいそうなのに、

あまりにも雰囲気が違いすぎて

どういうことなのか分からない‥‥



『二人とも目立つから座れ。

 慎、仕事前に悪いな。』



『いいよ、奈央ちゃんの為なんだろ?

 奈央ちゃん奏が怖がらせたんじゃない?

 ごめんね。』



ハルの隣に移動したあと、

向かい側に二人が座ると、

ハルが私の手を握ってニコっと笑ってくれた。



『奈央、渡会 奏さんは、慎の恋人だよ。』



えっ!?



こ‥‥こいびと?



突然のカミングアウトに、

落雷が落ちるほど驚き、

もう一度正面の二人を真顔で見てしまう



『フフ‥‥甲斐田さん、会社では

 秘密にしてね。』



慎さんの手に指を絡めた後、

甘えるように慎さんの手にキスをすると

怖いくらいにニコリと笑ってきた



ちょっと待って‥‥

色々と頭がついて行かないけど、

ハルは落ち着いて珈琲飲んでるし、

目の前の二人も私のことなんて気にもせず

イチャイチャしている



『奈央ちゃんごめんね。多分、奏は、

 俺が奈央ちゃんに料理教えたり臣と

 三人で仲良くしてるのにヤキモチ

 妬いてるだけだから。』



えっ?

‥‥‥ヤキモチ?



『だって‥晴臣と付き合ってるのに、

 慎にも最近連絡してきて二人で

 料理なんてしちゃってさ‥‥。』



少し拗ねたような表情の主任の頭を

愛しそうに撫でる慎さんが、

私に小さくウィンクをしてきた



あ‥‥‥ハルのために

料理を覚えたいからって、

慎さんの時間を私が奪ってたから?



てっきりハルと付き合ってることを

みんなにバラされるんじゃないかとか、

目が笑ってなさすぎて怖かったけど、

キャラが違いすぎる主任に、

全身の力が抜けていく



「‥‥あ、あの主任‥すみません。

 ハルのために料理覚えたくて‥‥その

 慎さんに甘えてしまって‥‥」



付き合ってるなんてこと知らなかったし、

主任じゃなかったとしても、慎さんの

恋人のことなんて考えもしなかった。



もし私が慎さんの恋人だったら、

しょっちゅう恋人を差し置いて

違う女性に会いにいく慎さんに

ヤキモチ妬くはずだから申し訳なくなる



『へぇ‥‥晴臣のためね。

 今日も仕事中とは別人なくらい

 綺麗にして‥‥好きなのね、晴臣のこと。』



ドクン



「‥‥‥はい、とても好きです。」



うわ‥‥‥


こんな外で色んな人がいる中で、

慎さんや主任に堂々と言ってしまった‥‥



『甲斐田さん、デート中にごめんね。

 俺たちもデート中だからそろそろいくね。

 月曜日からまた仕事場でよろしく。』



『奈央ちゃん、臣それじゃあな。』



『慎、時間作ってくれてサンキュ、

 助かったよ。邪魔して悪かったな。』



最後にハルに思いっきり抱きついた主任を

慎さんがべりっと剥がすと、仲良く

腕を組んで行ってしまった。



‥‥‥なんか一瞬のことなのに、

嵐のように私の心は乱されたいる



でもそっか‥‥‥

良かった‥‥。

月曜日から安心して仕事に行ける‥‥



「ハル!もしかしてこのために

 二人を呼んでくれたの!?」



今更だけど気がついた‥‥‥



私が不安になって

あんなことハルに聞いたから

絶対連れてきてくれたって‥‥



『ね?大丈夫だっただろ?』



あー‥‥‥

本当になんでこんなに私のこと

考えてくれるんだろう‥‥



今までそういう人が一人もいなかったのが

おかしいのかもしれないけど、

目の前の恋人が本当に愛しい‥



『奈央?』



ここが外じゃなかったら

思い切り抱きついてしまいたい



もうきっと今後これ以上の人は

いない気がする‥‥



「ハル‥‥いつもありがとう。

 私本当に幸せ過ぎて‥‥」



もっと早く出会いたかった‥‥



一度きりの人生なのに、

こんな恋愛があるのなら

もっと早くしたかったよ‥‥



泣くつもりはなかったのに、

頬を伝う涙を優しい指が拭ってくれ

そっと肩を抱き寄せてくれた




『奈央に奏さんのこと言っておけば

 良かったけど、みんな初めましての方が

 やりやすいかと思ってたからごめん。』



「ううん、大丈夫。

 私のために本当にいつもありがとう‥」



流石にここで抱きつくわけにもいかず、

車に乗った後、深いキスをして抱き合った




「それにしても‥‥なんかお似合いの

 二人だったね。」



慎さんは顔立ちも綺麗で中性的な

魅力もあるけど、よく考えたら主任も

カッコいいし背も高いからお似合いだ



性別とか気にしないから、

好きになった人が異性じゃなく

同性なだけで幸せそうだし素敵だった‥



『そうだな。慎と付き合う前に俺は

 奏さんに狙われたことあるけどな』



「えっ!!?」



さっきハルに抱きついて居た時も

ベタベタはしてたけど、まさかハルを

狙ってたなんて‥‥



『クッ‥‥ハハッ!!なんて顔してるの?』



「だって‥‥職場一緒だから‥‥

 そ、そのハルのことまだ狙ってたら

 ライバルになるかなって‥‥」



『ライバルって‥‥

 俺の好きな人誰か知ってるだろ?』



ドキン



信号待ちになった時、ハンドルに

両腕を置いて私を見る視線が

色っぽくて、その後きっと

顔が真っ赤になったと思う



サラッと真顔でストレートに

想いを伝えてくれるけど、いまだに

慣れる気配がない



『奈央、』


「な、なに?」


『‥今日の奈央すごく綺麗だよ。』

 

「‥‥ほんと‥‥ハルどうしたの?」



言われ慣れてないのもあるけど、

頑張っておしゃれした自分に向けて

言ってもらえるのって嬉しくて仕方ない



友達からでも、家族からでも嬉しいけど、

好きな人からの言葉ってとんでもなく

恥ずかしくて胸が締め付けられる



「‥‥‥ハルといる時しか見せないから」



普段から毎日キープできたらいいけれど、

本当に特別な時にだけ、普段着を脱いで

違う私になるのも悪くない



そう思わせてくれるほどの人に

こうして出会えたことが嬉しいから



『奈央、好きだよ。』



「ん‥‥‥‥私も好き。」




END


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