第15話 愛しい時間


『‥‥少しでも食べれるか?』



「ん‥‥‥‥ハル、ごめんね。」



あの日、帰宅した私は、

高熱を出し寝込んでしまった。



ハルは疲れが溜まってだんだろうとか、

環境が変わって奈央も頑張りすぎたから

ゆっくり休んで欲しいと、次の日仕事を

休みにしてくれたのだ。



あそこに勤めて初めての欠勤‥‥



自分でも体は丈夫だと思ってたのに、

風邪でもなく熱が出るなんて驚いてしまう



ハルには仕事に行ってもらい、

その日は夕方までゴロゴロと寝させてもらい、

ハルが帰宅する頃には熱も下がっていた



『このまま週末入るから来週からまた

 頑張ればいいさ。』



「うん‥‥‥‥あのハルって渡会主任と

 仲って‥そのいいの?」



私の頭を撫でていた手が一瞬止まったけど、

すぐにまた撫でてくれ、そのままベッドに

上がって来たハルも横になった



ハルのことは信じてる‥‥。

私のこと考えて働きやすいように

ここまでしてくれたし、大切な人だから‥‥



でも‥‥じゃあなんで主任は

私たちのこと知ってたのだろう‥‥



考えたくなくても、一人になると

そんなことばかり考えてしまっていた



『どうした?‥‥主任と何かあったのか?』



ドクン



自然に聞いたつもりだったけど、

あからさまに人物特定だと変だったかな‥



横になったまま、

優しい瞳がこちらに向けられ、

頭を撫でていた手が頬に触れてきた



「‥‥‥私とハルが付き合ってること

 を主任が知ってたから‥‥」



『はっ?』



えっ?



予想と違う反応に、ハルも驚いていて、

私もその反応に驚いてしまい、お互い

固まってしまう



優しく触れていた手も止まってしまい、

起き上がったハルは俯いて何かを

考えているようだ



「‥‥ハル?」



私の声にチラッとこちらに視線を落とすと、

そのまま覆い被さるハルの唇が

おでこにそっと触れた



『‥‥大丈夫、心配しないでいいから。

 不安にさせたな‥‥。

 今日はそばにいるからゆっくりしよう。』



遠慮がちに唇に触れてきたハルのことが

とても愛しくて、自分から首に腕を伸ばし

唇を重ねる



どうしてだろう‥‥


ハルが大丈夫って言うと、大丈夫な気がする。



『奈央‥‥体調悪いだろ?』


「‥‥大丈夫‥‥抱いて‥‥」



疲れてたのか、不安なのか、ましてや

ハルの言葉に安心して嬉しいのかわからない。



引っ越ししてバタバタしてたから、

なんとなくそういうこともしてなかったから、

久しぶりに触れ合う肌と肌の感触と

生温かい温度を確かめ合う



『奈央‥‥』



キスの合間にハルから呼ばれる名前も好き‥‥



ちゃんと私のこと見てて大切にしてるって

思わせてくれる手も、吐息も好きだ‥



「ンッ‥‥」



『‥‥可愛い‥‥もっと聞きたい‥』



甘いリップ音と共に胸に走る電流を受け、

体が思い切りのけ反ってゆく



体調悪いなんて嘘くらい、

触れ合うことで元気になっていく気がする



こんな行為なんて好きじゃなかったのに、

いつから私はこんなに好きになったのだろう‥



『奈央‥‥今日すごいね‥‥溢れてる』


「‥言わな‥‥っで‥‥アアッ‥ヤッ‥ハル!」



こんな私になるのはハルのせいだよ‥‥



そう言いたかったけど、愛しい行為が

終わるまでは、しがみつき息をするのも

忘れるくらいにのぼせた。



「‥‥‥ハル」


『ん?‥‥ツラい?‥大丈夫?』



繋がって動くハルが、頬に手を寄せ

愛しそうな人まで見下ろし、

コクンと頷くと、嬉しそうに笑い

また甘い律動に溺れた




あの後軽くお腹に

ハルの手作りご飯を入れて、

一緒にお風呂に入り、

リビングで久しぶりに映画を見ていた。



おうちは変わったけど、

ハルとこうしてくっついている時間が

一番好きだ‥‥



相変わらず感情をむき出しにするのは

得意じゃないから、ハルへの気持ちが

伝わってて不安にさせてないか心配になる



過去の恋愛のトラウマで、

どこまで気持ちを曝け出しても大丈夫なのか

よく分からなくなっていたから‥‥



でも不思議‥‥‥

ハルは何も言わなくても先に気づいてくれる



出会ってまだそんなに時間がたってないのに、

言葉足らずの私のそばでただ静かに

見守ってくれはと思うと寄りかかれた



『明日ちょっと用事で少し午前中出るから、

 お昼食べれそうなら出掛けようか。』



「うん、行きたい。

 ‥‥‥‥晴臣といたい。」



何故だか急にハルオミって呼びたくなった



後ろに座るハルに向きを変えて

恥ずかしさを隠すためにそっと抱きつくと、

温かい腕の中で優しく包まれる



『‥クス‥‥奈央、ベッドに行こうか。』



「‥‥‥ん‥もう寝るの?」



私の耳朶にハルの唇が触れるだけで、

体が熱くなる



『奈央は?‥‥もう寝たい?』



「‥‥まだ寝ない‥ンッ‥晴臣は?」



薄暗い部屋の中で、

見上げた先にあったのは、

嬉しそうに優しく笑う大好きな人



『奈央が煽ったから責任とってね、これ。』



持ち上げられそのまま抱き抱えられ、

私たちはもう一度今度は顔を見合わせて

笑ってキスをし、体を重ねた。




次の日



体が怠くて起き上がれない私を

寝かせてくれたまま、ハルは出かけて行った



‥‥‥昨日‥気持ちよかったな



体を気遣ってくれながらも、

私が気持ちよくなる場所を愛してくれて

恥ずかしいくらいこえが出てしまった。



流石に体が重いし軽い筋肉痛‥‥



ジムに行ったり走ってるハルとの体力の

違いに、本格的に運動しようとも思える



ハルに心配かけて甘えてばっかりだから、

掃除してお家綺麗にしよう‥‥



天気も良くてよく乾きそうだから

シーツも全部洗えそうだしね。



渡会主任のことは少しまだ怖いけど、

休日は仕事のこと考えたくない。

ハルの言葉を信じよう‥‥



起き上がってうーんと伸びをすると、

体中に付けられた赤い痕に顔が熱くなった。



している最中は何故だか大胆になれるのか

終わってからこうしていつも恥ずかしくなる



シャワーをしてから目を覚まして、

家中を掃除していると、ハルから

もうすぐ家に着くと連絡があり、

ランチに行くことになった。



毎日一緒に過ごしていても、

外に出かけるのとはまた違った気分になる



最近オシャレしてないから

急いで着替えてちゃんと整えよう!



ハルに甘えてほぼすっぴん状態で

過ごしているから、やる時は頑張りたい。



清香にサボってたこと知られたら

絶対怒られそう‥‥‥



滅多に履かない細身のスカートに、

七分袖のシンプルなカットソーをインして

化粧と髪の毛を巻いて整えていると

玄関が開く音がしたので、慌てて

部屋から飛び出した



「おかえりなさい!ハル。」



オフのハルは髪の毛もおろしていて、

服もシンプルなのにスタイルがいいから

何着ても似合ってしまう。



スーツのハルも好きだけど、

オフのハルはもっと好きだ‥‥



『ただいま‥‥クス‥そんなにオシャレして

 俺に早く見せたかった?』



ドクン



そ、そうだよ‥‥って言いたいのに、

口がパクパクするだけで恥ずかしくなる



ご主人様が帰ってきたのが嬉しくて

飛びつくような可愛い愛犬のように、

確かに走ってきてしまった‥‥



『待ってるから用意できたらおいで。』


「‥‥う、うん、分かった。」




普段が頑張らなさすぎてるから、

これでもかっていうオシャレを

ハルはわかっててからかってくる。



だって‥こんな姿見せたいな

ハルだけだから仕方ないじゃん‥‥



アクセサリーを付けてから

忘れ物がないかチェックして

リビングにいるハルの元に向かった。



「お待たせ、ハル。」



『ん、用意出来た?じゃあ出かけようか。』



「うん!何処に行くの?」



久しぶりのハルとのお出かけで

なんだか年甲斐もなくワクワクしてしまう



近づいてきたハルが、上から私を見下ろすと

そっと優しく抱きしめてくれた



‥‥一緒に住むと洗濯物の香りも

同じだけでこんなにも嬉しいなんて思える



『奈央は着替えると別人になるな‥。

 頼むから仕事はいつものまま

 行ってくれると助かる。』



「‥‥そんなに変わる?」



上を向くと、ゆっくりと近づいてきた

顔に瞳を閉じると、唇が軽く触れ、

目を開けてから優しく笑うハルが

今度は深いキスを落とした。



『変わりすぎて困るくらいだよ。

 どんな奈央でも好きだけどね。』



ハル‥‥‥‥



とろけるようなキスに、

本音を言えば出掛けるのも

どうでも良くなるくらいだけど、

せっかくオシャレしたから、

ランチに行くことにした。

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