第11話 甘い時間


「‥‥‥何これ」



頭がボサボサで眠気が取れないまま

シャワーを促され向かえば、

体中につけられた痕に顔が一気に

熱くなった。



確かに昨日はすごかったけど、

ハル‥‥つけ過ぎだよ。

更衣室で着替える時見えそうで不安。





ダメだ、今日仕事なのに切り替えなきゃ。



急いでシャワーを浴びてから着替えて

リビングに行くと、コーヒーのいい香りが

鼻を掠めた。



『目、覚めた?』


「‥‥覚めすぎた。」


『なんだそれ。

 じゃ、簡単で悪いけどトーストと

 サラダ食べて仕事行くぞ。』



あの痕をつけた本人を目の前にすると、

なんだか直視出来なくて恥ずかしくなる



普段は冷静で大人なのに、

私に対してはとことん甘い‥‥



そんな東井晴臣を知ってるのは

私だけだと思うと嬉しいけど、

甘えすぎないようにしたいって

昨日のことも含めて実感した



『今日帰り送ってく。

 これからのこと決めて

 話さないといけないことあるから

 このまま週末まで泊まってほしい。』



「ん、分かった。」



一緒に住むということは、

住所が変わるわけで、

そうなると会社にも同棲がバレることになる。



社内恋愛がダメというわけではないけど、

流石に同じ部署だと周りはやりにくいはず



ハルとは一緒にいたいけど、

公表してどちらかが異動になるのか、

どうしていくべきなのかを

話さないといけない



ハルはまっすぐに私といたいと言ってくれた。



だから私もちゃんと前を向かないと‥‥



そんな思いでいつも通り出勤をして、

午前中働いていると、

ピッキングをしている私の元に

今朝別れたばかりの東井さんが顔を出した。



『お疲れ様です。』


「‥‥あ、お疲れ様です。」



普段よっぽどのことがないと、

業務中に話しかけられることなどないので、

この状況に、周りのパートさんや大倉さんの

視線も向けられてしまうのだ



『甲斐田さん、明日本社の会議に一緒に

 行ってほしいので、スーツで出勤お願い

 出来ますか?』


えっ?


本社って‥‥本社!!?



なんでそこに呼ばれたのかわからないけど、

笑顔で伝えて来た東井さんや周りに

変に思われないようにしないと‥



「わかりました。」


『ではよろしくお願いします。

 明日はそのまま本社に向かい、向こうで

 一日出勤扱いになるそうです。

 作業中にすみません。』


「あ、いえ‥‥お疲れ様です」



ペコリと私や周りに頭を下げると

そのまま荷下ろしの方へ向かっていく

後ろ姿を眺めてしまう



もしかして今朝話していたことが

こんなにもすぐやってきた?



本社なんて入社式と研修でしか

行ったことないのに‥‥



『甲斐田さん、手止まってますよ。』


ウッ!


いつも止まってる大倉さんには

絶対言われたくない‥‥



でも、びっくりしすぎて、

何個どこまでやってたのか飛んだ。



また帰ってからちゃんとハルに聞こう。

それまでは変に考えても仕方ない。



わざわざ家で伝えれることを、

みんなの前で伝えて来たことには

きっと意味があると思うから。



会社からハルの車に乗るには

退勤者がまだ少なく勇気がいったので、

近くのカフェの前で待ち、そのままスーツと

何日か分の着替えなどを詰め込んだ。



スーツなんて久しぶりで

サイズ変わってないと思うけど入る?



ハルと過ごすようになってから、

食事をしっかり食べてるので

太った気もする‥‥



毎週末あんな美味しいご飯とお酒を

夜遅くに食べてるから、今後は

別日にちゃんと調整していこう



『本社のことすぐ聞いてくると思ったけど、

 気にならない?』



「気になってるけど、ハルがあまり

 不安そうにしてないから大丈夫かなって。」



全く不安がないわけではないけど、

不思議なくらい落ち着いてるハルの

顔を見てると安心してしまう



「それより、倉庫内で

 話しかけられた時の方が緊張したかも‥」



ただでさえ目立つの苦手なのに、

東井さんという存在はみんなが

注目せざるを得ない人なんだと感じる



ククッと喉を鳴らしながら笑うハルは

不貞腐れる私の頭を撫でると、

不意打ちでこめかみに唇を寄せてきた



「それに‥‥あ、痕つけ過ぎ‥。」



言おうか迷ったけど、

やっぱり作業着から着替える時に

変に周りを意識し過ぎて疲れた



夏だったら絶対見えちゃうし、

春だからインナー長袖で隠れてたけど、

首元ギリギリまでつけられた痕は

かなりヒヤヒヤしてしまう



『ククッ‥‥確かにやり過ぎたな。

 今後気をつけます。

 ‥‥もしかして昨日のこと思い出してる?』


ドキン



何度も見慣れてる東井晴臣の顔なのに、

時々意地悪するかのような表情は

とてつもなく色気を纏っている



職場でこの顔されたら

みんな落ちるだろうな‥‥‥



「‥‥そんなの一日中思い出してたし!」



ソファでくつろぐハルに

そう言い捨てると、立ち上がりかけた

私はそのままソファに押し倒された



「な、なに?」


『明日早いけどしよっか。』


ドキン



「‥‥‥ん、したい。」



こんな恥ずかしいことを言わせる相手も

すごいけど、それを言ってしまう自分も

ずいぶん変わってしまったようだ‥‥



でもこれが本音なのだから仕方なかった。



深く唇が落とされたらもう逃げられない。

そう思わせる相手はこれからもハルだけで

いさせて‥‥



ほんとは明日本社で何が起こるか

不安でたまらない。



ハルと離れ離れになるのも、

正直怖い‥‥



『奈央、こっち見て‥』



向かい合わせのまま抱かれながら、

目の前に大好きなハルの視線を感じ、

私は自分から唇を重ね深く深く

突き上げられる衝動に身を委ねた



お願いします‥‥

‥‥‥この人のそばに

ずっといられますように‥‥



「ん‥‥‥」



スマホのアラームを止めようと手探りで

探していると、ハルの手が視界に見えて

それをスヌーズにして止めていた



「ハル‥‥起きないと」


『ん‥‥あと10分』



裸のまま眠ってしまったのか、

抱きしめられてることにも今気づく。



うわ‥‥‥体がダルい‥



昨日も一回じゃ終わらなかったから

流石に2日連続は30を迎える私には

少しツラいかも‥‥



アラームを止めたまま伸びたハルの

引き締まった腕と綺麗だけど男の人を

感じる手や指に触れる



この手に抱かれてるんだと思うだけで

心臓が締め付けられてしまう



ビクッ!!


「ツッッ‥‥ハル‥やめ」


『いつもより遅く本社行けばいいから』


違う違う!


そういうことじゃなくて‥‥



背中に舌を這わせる熱に

体が反応してしまう



「もうほんとにダメってば!!

 先に起きるから!!」


シャワーを浴びたかったので

強引に腕から抜け出すと

裸のまま部屋を飛び出した



最近のハルは前よりもベッタリだ‥



もちろん嬉しいし嫌じゃないけど、

会社で今まで隠し通せていた仮面が

簡単に見破られそうで怖い



それくらい意識して見てしまっている

前とは明らかに変わって来ている私自身を

上手くコントロール出来るのか?



シャワーを浴びてから、

メイクをいつもよりしっかりして

着慣れないスーツに身を通していると、

背後から視線を感じた



「‥‥もう起きないと。」



『なんかスーツの奈央新鮮でいいね。』



今だに上半身裸のままシーツから顔を出し

こちらを見ていたハルが笑っている



「昔のだけど変?

 どうしよう、これしかないから」



サイズはなんとか入ったけど、

本当にシンプルなセットアップの

グレーのスーツだから、

似合っているのかさえ分からない



それなりに歳とったから

もう一着買い足さないといけないな‥



『大丈夫だよ‥‥

 スタイルいいから似合ってる。』



チュッっと私のこめかみに唇を

落としたハルは、下着姿のまま

シャワーに行くらしく部屋を出て行った



もう‥ほんとそういうところが

自然すぎてまだまだ慣れない‥‥



それにしても私スタイルいいのか?

昔より明らかに体重増えてるけど‥‥



ハルがおかしくないっていうなら

ま、大丈夫かな。



『よし、じゃあ行くか。忘れ物ない?』



「ん、大丈夫。」




私が大好きなハルのスーツ姿を間近に見れて

嬉しい気持ちとやっぱりどこか緊張しながら

私たちは本社へ向かうことにした。


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