第8話 初めての


「おはよう、ハル」


『奈央おはよう、荷物乗せるから貸して』



天気は快晴

朝はまだ寒いけど、

昼間は温かくなる予報の中、

ハルとこれからグランピングへ行くのだ



『今日、また

 俺のために頑張って準備したの?』



サングラスをかけて運転するハルが、

チラッと私を見ると嬉しそうに笑っている


そうだよ‥‥



清香にグランピング行くこと伝えたら、

仕事終わりに買い物連れて行かれて

今月自己投資に

お金費やしすぎてるんだけどね。



今までもそれなりに

コツコツお金貯めてきたし、

物欲もそれほどなく生きてきたから、

たまには稼いだお金を自分のために

使うのも大事って思えてきた。



清香はある意味東井さんとは別の

面倒見のいい姉のような存在なのかも‥‥



カジュアルだけど、絶対着ない

ファッションスタイルも最近は

時々ならしてもいいかなって。



「私この服おかしくない?」


『ん、可愛いよ。』


ハルが可愛いと思ってくれたならよしとしよう


この年齢って本当に服を何着ていいか

分からないから、選んでもらえると

ありがたい‥



「‥ハルもカッコいいよ。」



本当はスーツが一番好きだけど‥‥



背も高くてスタイルいいと、

基本的になんでも似合うけど、

休みの日におろしてる髪型は特別好きだ。



照れくさそうに笑うハルに私も

おかしくなり笑う


こんな些細なことが楽しくてしょうがない


年齢はともかく、

まともな恋愛経験がないから、

清香からしたら学生の恋愛みたいだって

言われちゃうけどね



途中休憩もしながら、

昼過ぎにグランピング施設に到着し、

事前に送られてきていた暗証番号を

指定された場所の入り口で入力すると

自動でドアが開いた



「なんかすごい時代だね、無人って‥」



初めての人と接するのとか

いまだに苦手なところがあるけど、

こういうのってこれからどんどん増えそう。



ガチャ


ドーム型の建物に足を踏み入れると、

予想以上の広さに二人で驚いた。



グランピングいいじゃん‥‥

ホテルより明るくて開放感あるし。



『すごいな‥この景色』



ドームの正面一面から外が見えて、

雪がまだ溶けてない山々や、綺麗な

湖が見えて遠くまで開けた景色に

またまた感動する



「ほんとだ‥最高だね‥‥」



張り付いて見ていた私を

後ろからすっぽり包み込むハルが

大きく欠伸をして私の肩に顔を擦り寄せる



「運転疲れたよね。ちょっと寝ていいよ。」



いつもより朝早く起きて運転させたから、

ハルは少し眠そうだ



まだ時間も早いし、明日もあるから

少し休んでほしい。




『じゃあ奈央と寝ようかな。』


「えっ?‥‥ちょっ!!」



大きめのダブルベッドが二つも置かれた

場所にそのまま倒れ込むと、

ハルがクスクスと笑い始めた



「ハル!もう離して‥‥ンッ」


顎を捉えられると塞がれた唇に驚く間も無く、

侵入してきた甘い舌が私の弱い部分を

攻めてくる



「ハル‥‥待っ‥‥ンッ」



最後に唇を啄むと、

眠そうな顔でもう一度笑い耳元で囁いてきた



『ごめん、可愛くて。ちょっと寝させて。』



ハルの腕の中から抜け出すと、

本当に疲れていたのか、

そのまま本当に眠ってしまったので、

置いてあったブランケットをかけてあげた



はぁ‥‥

唇に甘い余韻だけ残されて

私だけ不満みたいじゃん‥‥



改めて部屋を見渡すと、

エアコンもあるし本当に家みたい。



テーブルに置かれた○パッドに、

置かれていたメモを見ながらチェックインの

手続きを完了し、ドームの外にある

食事するスペースやお風呂を見に来ていた。



すごい‥‥

冷蔵庫にしっかり食材入ってて、

作り方や手順も書かれてる。



バーベキューとか北海道にいた時は

よくやってたけど、就職してからは

やってないかも‥‥



冷蔵庫に入ってる飲み物も飲み放題だし、

お風呂もジャグジーついてて広いし、

疲れすごい取れそう。



後で二人で晩御飯作るの楽しみだな‥‥



『おかえり‥‥ごめん寝てた。』


「起きてたの?

 ちょっと色々見てきちゃった。

 後でご飯一緒に作ろう。」



まだ少し眠そうな表情をして横になっていた

ハルの元に向かうと差し出された手を

力の限り引いて起こす



『よし、湖の辺りまで散歩行くか。』


「うん。」



ここには私たちを知ってる人が誰もいない。

それだけで視線を気にすることなく

好きな人に触れられる



街には沢山当たり前だけど

人で溢れているのに、

ここには数組の限られた人たち

がそれぞれの時間を楽しんでいて

時間の流れもゆったりだ



「あ、ハル、ボートがあるよ。」



やったことのないボート漕ぎを二人で苦戦し、

レンタルサイクリングで湖を一周したり

普段では出来ないことを沢山ハルと出来る



普段運動しない私は、

明日の筋肉痛が確定しているけど、

こんなに体動かすの久しぶり‥‥‥



あーこんな恋愛もっとしてきたら

楽しかったんだろうね。


でも‥‥

ハルとの初めてが増えたから

それはそれでよしかな‥‥



『奈央、お風呂行く前に、

 ファイヤーピット囲んで一杯やらないか?』



「ん、いいね。」



冷蔵庫からお酒を取り出して

ウッドデッキに出れば、

空一面に星が出始めて

空気の綺麗さが伝わってくる



だんだん温かくなるファイヤーピット

のそばのウッドチェアに靴を脱いで

座ると、部屋からブランケットを持ってきた

ハルがいつものように私の後ろに座り

小さく乾杯をした。



ハルの家も居心地は抜群だけど、

こんな自然の中で同じように過ごすのは

また違った良さがあるんだね



「ハル、ハルって‥いつから私のこと

 その‥‥好きになったの?」



こんな時しかゆっくり聞けないから、

ハルのこともっと知りたかった。



付き合う時に、友達なら一緒にいられるって

言ってたからやっぱり私がフラれた時?



それまでは同じ職場なのに、

挨拶くらいしかしなかった人なのに

不思議だったんだよね‥


『聞きたい?』


「‥うん、聞きたい。」


『‥俺は割と異動してきたときから

 奈央のこと見てたよ。

 綺麗な子いるんだなって‥‥』


えっ?


クスクスと笑いながらお酒を飲み、

片方の手が腰に回されたので、

私もハルの指をさすったあと手を絡める



あんなに女気がなく、愛想もなく悪い態度で

仕事してたのに見られてたことすら

知らなかった。



「髪ボサボサで繋ぎの作業着なのに?」


『まぁそれも気になった。

 なんでこんな男所帯にこんな子がって。

 でもきっかけはやっぱりあの日だろうな』


やっぱりそうなんだ‥‥



「すごいよね‥‥目パンパンになるまで

 泣いてシャッターの前に座り込む女って。」



我ながら思い返しても、

美しくない思い出に苦笑いが出てしまう



『ハハっ‥‥あの後バーで話聞いてたら、

 どんどん興味湧いて、この子をもっと

 自然に笑わせれたらなって‥‥。

 気付いたらいい歳して

 友達宣言なんかしてたけどな。

 ところで奈央は教えてくれないの?』


「ん?わたし?」


『ん、奈央はさ、

 俺のこと友達じゃなくなったのっていつ?』



えっ!?



まさかのしっぺ返しに、

絡めていた手を離そうとすると、

腰を強く抱かれてしまった


ハルのことが知りたいから聞いたのに‥‥



「‥‥‥ハルが異動するかもって

 聞いた時、この関係も生活も

 終わるんだって思ったら寂しくなった。

 ロクな恋愛してきてないでしょ?

 だから自分から好きになるって

 なかったって気付いた相手がハルで

 すごい嬉しかったんだよね‥‥。

 だから‥‥その‥

 ありがとう、好きになってくれて」



改めてこういう話したことなかったから

かなり恥ずかしいけれど、

ハルが大事にしてくれるから、

私も言える時に伝えれて良かった‥‥



今までみたいに言いたいこと言えないままの

向き合い方はもうしたくなかったから。



『ここに飛び込んできてくれて

 ありがとう。聞けてよかった。』


「‥‥うん、私も。」



月明かりが差し込む中で、

裸のまま、また二人で抱き合い、熱に溺れた。



「ンッ‥‥あ‥‥はるおみ!!」



『ハッ‥‥名前初めて呼んだな‥‥』



初めての時よりも、

更に優しく包み込まれ、

お互いの肌の温もりに安心する時間が

愛しくて仕方ない‥‥



どんどんハルのことが好きになる。

学生の時のような甘えはもうできないけど、

これからもずっと素の私でいたい。


そう思えた時間だった‥‥

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