第3章 僕の居場所
「もう出ていけ!」
玄関先に放り出された僕は住む場所がここ以外にない。本当は僕の家なのに。
いらいらした足どりであるところへ向かう。
もう居場所はここにしかない。
いつも目の前の景色をじっと見つめ、心を落ち着かせる。彼のルーティンのようなものだ。
海が一面に広がる景色が彼にとっては必ず愛すべきものだった。
それだけ素晴らしいものだと感じていた。
もっと間近で景色を見たいとガードレールまで足を運ぶとそこには先着がいるようで僕はなぜかその人と無性に話がしたくなった。
「ここの景色、あなたもお好きなんですか?」
その人は驚いたのか肩をぴくりとあげた。
話の内容を理解したのか安心した顔つきでこう言う。
「はい!小さい頃から大好きで…」
僕は嬉しさで溢れたまらなかった。
「僕もです!まさか同じような人がいたなんて…!なんだか嬉しいです。」
心做しか顔が熱い。顔もにやけてしまう。
僕の顔色を疑い、続けて言う。
「こ、ここから聴こえる船の汽笛もいいですよね!運がいい時しか聴けないのも良くて…」
彼は驚いた。ここまでここの景色をわかってくれる人は彼の身内に殆どいなかった。
「僕も、それ大好きです。」
精一杯の想いを込め、言った言葉。
彼女は顔を明るくさせてどんどん話題をあげていく。話をするうちに僕まで夢中になってしまった。
「うわっ!もうこんな時間…
今日は楽しかったです。またの機会に!」
別れの時が来る。何故か離れるのが嫌になる。
僕は思い切って後ろを向いた彼女に言った。
「あの…もしかしたらもう会えないかもしれません。僕も今日たまたま来たもので…
よかったら、連絡先交換しませんか??」
混乱した頭で踏み切ったことを言うのはこれ以上ないと感じた瞬間だった。
思いの外、彼女は快く受け入れてくれた。
プロフィール画面を開く。
“つぼみ”
そういえば名前を聞いていなかったなと思い返し、彼は微笑む。
ふと頭に小さい頃の思い出がよぎる。彼女のことを知っているような気がした。
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