第10話

 その事件は、単なる傷害事件として処理されることとなった。


 滝月市警察も、ここ一、二年で似たような事件が頻発していることは当然把握していたが、その原因はとんと見当がつかない。


 何やら自分たちのあずかり知らぬ力が働いていることを理解している人間もないこともなかったが、だからといって逮捕できるわけではない。呪い等と同じく不能犯として処理されるだろうし、そもそも誰を検挙するのか、という話である。


 現場に立ちあうことになってしまったシキとジュリは、市の警官といくつか話をした。先の事件と街で起きている異常な現象。警察官は誰もが溜息をもらし、憂鬱そうに隅っこでタバコをふかしていた。


 最後に、市長や稲藤そらみに何か嫌疑や怪しいうわさはないのかと聞いたところ、誰しもが首を横に振るのだった。




「滝月市警でも把握できてないってことはシロなのか……?」


 シキとジュリは滝月市警察署から出てすぐの道を歩いていた。すでに日は下りて、滝月市は夜の瞬きに包まれている。取り囲むような大自然のおかげで、街は闇夜に浮かんでいるようだ。


「わからない。でも、無関係とも思えない」


「さっきのは出来すぎなくらい、ドンピシャなタイミングでしたもんね」


 悲鳴が上がったのはメロディが流れ終わってからすぐのこと。あの天使が弾いているかのような曲によって誘導されたと考えるのが自然だ。


 しかし、どうやって?


 音声データはすでにこなたへと転送されている。こなたは「分析が終わり次第連絡するからねー」と言っていたが、実際にこの目で耳にしたシキは気になってしょうがなかった。


 曲に何らかのメッセージでも込められているというのだろうか。そうだとしたら、聞いたものを自殺や犯罪行動に駆り立てるようなメッセージとは一体……。


 吹き下ろすような風が、二人へぶつかる。冷たく乾燥した風にシキは腕をさすった。


「今日はどうします?」


「聞き込みしてもいいけど、情報は得られないかもしれない」


「じゃあホテルに」


「もしくは、相手が動いてくる可能性もある」


「相手って誰です?」


 その問いかけには答えずに、ジュリは歩き始めた。シキはその背中を慌てて追いかける。

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