第2話
少女に続いてエレベーターに乗り込む。多くの人々が乗り込んでいるエレベーターとは真逆の方向で、人気は少ない。
シキはいたたまれない気持ちで少女を見る。少女は大の大人と二人きりでエレベーターに乗り込むことは、さほど気にしていないようであった。
少女はボタンの前に陣取り、R3のボタンを押した。
扉が閉まっていくその直前、手がにゅっと伸びてきたかと思えば、扉が開いていく。
「やあやあ、すまないね」
そう言いながらいそいそ入ってきたのは、警視庁にいなさそうな人パート1のスキンヘッド男である。
シキは奥へと移動しながら、油断なく男の方を見た。外見からは想像できない物腰柔らかな声だった。もしかして、警察官なのだろうか。
考え込むシキをよそに、今度こそ扉は閉まりきり、エレベーターは下降していく。
まもなく、チンっという音ともに扉が開いた。見えた先には地下三階の文字。
まず少女が降り、その後にシキが、そして最後に男が降りた。
背後に感じる気配を意識しながら、シキは戸惑っていた。どうして、男はついてくるのだろう。
三人分の足音が、薄暗い蛍光灯に照らされた通路に響く。
通路にはいくつかの部屋があるらしく、扉の上には部屋の名前が書かれたタグがあった。三課、四課、五課……。五課の部分の扉には超能力担当、と書きなぐられた紙が貼られており、その上からさらに赤のバツがつけられていた。シキはぎょっとしたようにそちらを見た。
少女はそんなものには気を留めることなく、先へと進んでいく。
ほのかに暗い通路のつきあたりの扉の前で、少女は立ち止まった。
「ここ」
言うなり、少女は扉を開けて、中へと入っていく。シキは顔を上げてタグに目を走らせた。ピカピカのネームタグには公安六課の文字。
扉の向こうには、煌々と輝く蛍光灯に照らされた小さな部屋が広がっていた。闇に慣れていた目を伏せがちに、シキは足を踏み入れる。
「失礼します」
真っ白な光に照らされたその部屋は、事務机やホワイトボードやらがあった。案外普通の部屋である。ここまでの道中が道中であったために、どんな部屋がやってくるのかとシキは身構えていただけに、意外だった。
「もっとこう、倉庫みたいな部屋かと思っちゃったなあ」
「倉庫がよかったら、下の階に行けばいい」
「あ、別にそういうわけじゃないんだけど」
事務机の一つの前までやってきたと、少女は椅子に座る。まるで、そこが自分の席だというかのように。
と。
シキは背後から肩を叩かれた。振り向けば、スキンヘッド男。いきなりのことに、シキの心臓はきゅっと縮みあがった。
「な、なんですか」
「君がシキ君かい?」
「そうですけど……」
「私はここの課長だ」
「はあ」
シキはよくわからずにそう呟いて、驚きの声を上げた。
目の前に立っている男を上から下まで見る。ストライプのきつい真っ黒なスーツと太陽のように真っ赤なネクタイ。先のとがった革靴。いかにも高そうな腕時計……。どこからどう見ても、堅気の人間のようではないとシキは思った。
だが、その男は自らを課長だと名乗った。それはつまり、公安六課の課長ということでもある。
「信じてないようだな。ふむ、そこのジュリに聞いてみてみるといい」
「ジュリ?」
「そこにいる女の子のことだ」
男が指さす先にいるのは、席に腰をおろし背筋をピンと伸ばした少女。ジュリと呼ばれた彼女は自らの名が呼ばれたことに気がついたようで、男二人の方へ仏頂面を向けた。
「あの人がホントに課長なの?」
「はい。あの方は古室蔵山課長です」
「うそお。ってことは君も」
「私もこの六課所属です」
「マジ?」
「本当だとも。そして、君も今日から六課の人間になる。よろしくな」
シキの両肩が、蔵山にぽんぽんと叩かれる。よろしくお願いします、と返しながら、ジュリの方を見た。自分よりも年下の女の子は、澄ました表情で前を見つめている。
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