鍛えすぎた悪役令嬢は、レベル100になり世界を救ってしまう

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 乙女ゲーム世界に転生した私は、悪役令嬢アメリ・キャンディだった。

 衝撃を受けた。

 受けない方がおかしい。

 自室で、高飛車ツンツン令嬢アメリ・キャンディであると知った時は。

 アメリの特徴である縦ロールを二度見して確認したくらい。


 のばして、ひっぱってもなかなかほどけない見事な縦ロール。

 それは私の気持ちをどん底に突き落とした。


 まるで縦ロールが「お前はアメリだ。その事実からは逃げられない」と訴えかけているかのようだった。


 それで「悪役なんていやああああ!」と、


 思わず奇声をあげて両親や使用人に心配をかけてしまった。


 そんな悪役令嬢アメリである私は、エンディングで断罪される存在だ。


 エンディングは悲惨なものばかり。

 だから、断罪フラグをへし折るために、色々奔走することにした。


 とにもかくにも必須なのはレベル上げ。


 ステータスをあげて、断罪されて竜の巣に放り込まれても、魔物の森に放置されても即死しないようにしなくては。







 この乙女ゲームには、特殊な成長システムが採用されている。


 レベルアップするためには、教会に向かって自分が信じる神の信徒となり、結晶石という特別な石に神の力を受け取らなければならない。

 しかし、人としての格が低いと、信徒にはなれず、神の力をもらえないため、レベルアップができないのだ。


 善人に優しい良い世界である。


 そのため、悪人が悪事を働く事は少なく、治安は結構いい方だ(まあ、悪賢い悪人はその分、知恵を働かせて悪事を行うのだけど)


 それはおいといて。


「だから、とりあえず教会で信徒にならなくちゃね」


 私は自分が何の神様を信じるか、決める事にした。


 この世界には色々な神様がいるが、目を付けたのは成長の神。


「これしかないでしょ」


 ゾーンアップという神様の信徒になる事を決めた。






 そういうわけで、ちゃちゃっと神殿に赴き、レベルアップできるようにした。


 途中で結晶石を手に入れるのも忘れずに行ったわ。


 信徒になれなかったらどうしようかと思ったが、ちゃんと結晶石に力がこめられてステータスプレートが見れるようになったからよかった。


 よし、最初の地点でつまずく事はなかった。


 なら、後は自分を存分に鍛えなくちゃ。







 レベルアップに適するエリアは三つある。


 カイゼルグラードの森。


 リーンアイシャの花畑。


 ミコトコの隠れ里。


 この三つは、他の地点よりも経験値の入りがおいしい。


 たくさんの魔物がいるし、レアな個体もいるため、修行するならできるだけこの三つのエリアでするのがいいだろう。


 しかし私はまだ、レベルが低い。


 雑魚狩りをおこなって、レベリングをしているが、まだ一桁のレベルだ。


 だから必然的に候補地は絞られてくる。


「まず向かうのはカイゼルグラードの森ね」


 それで、ちゃっちゃと森へ行って、お金にまかせて整えた高品質装備&防具&武器の力を借りてレベルアップ。


 ステータスを強化していった。


 これを後のリーンアイシャの花畑や、ミコトコの隠れ里でも繰り返していき、着実にレベルをあげていく。


「とっ、盗賊だ! あいつらこの馬車を狙っているぞ、他の馬車に乗って、こいつは捨てて逃げろ!」

「あら、大丈夫よ。だって私がいるもの」


 たまに出てくる悪賢いならずものを力でねじふせながら。


 おかげで、野盗退治する貴族令嬢がいる、なんて噂が出たけど。







 レベル50を超えたあたりになると、それらのアプローチが有効ではなくなるので、また違ったやり方が必要になる。


 限界突破だ。


 レベル上限が設けられていて、普通の鍛え方だとここから先は上がらない。


 だから、レベル50以上になるためには、聖水をもらわなければならなかった。


 しかし、聖水をもらうには条件がある。


 国に貢献するとか、多くの人を助けるとか、何らかの功績が必要になってくるのだ。


 地道に何らかの国の為になる研究していたり、人助けの活動をしているわけでもないので、普通だったらここで詰むだろう。


 けれど、私には前世の記憶がある。


「もうだめだ! 誰も俺達をたすけてなんてくれないんだ!」

「このまま魔物に蹂躙されて、この村は滅亡してしまうんだ!」


 ゲームの設定資料に書いてあった事件を思い出し、魔物の襲撃で滅ぶはずだった村を救って、なんとか功績を立てた。


 おかげで聖水を手に入れる事ができて、無事レベル50以上になる事ができた。


 その過程で攻略対象の一人と出会ったが、私は特に恋愛には興味がなかったのでスルー。


「貴方は命の恩人です、どうか俺を弟子にしてください」

「要らないわ。他にもっとかわいい子があらわれるでしょうから、その子の弟子になってあげなさい」


 私とフラグが立っちゃったら、ヒロインに悪いしね。






 その後も、地道に修練を積んで、魔物を倒し、レベルアップ。


 この世界では達人と言われる領域に達した。


 それでもまだレベル90。


 上限である100まではきっちり目指したい所である。


 だから新たな修行方法としてダンジョンに目を付けた。


 運の要素が強いが、ダンジョンには低確率でレアな素材やアイテムが得られる。


 それらを手に入れる事ができれば、レベルアップの助けになるだろうから。


 あと、ダンジョンボスも経験値が多い。


 ラストアタック、とどめをさした人間には特別なアイテムを与えられる事もあるため、レベル100を望むなら挑戦した方が良いだろう。


 そういうわけで、私はそれからはダンジョンに入り浸る事に。






 そんなダンジョン内ではたびたび、借金を返すためにヒロインが魔物と戦っている所に出くわした。


 ゲームと変わらず、ヒロインらしく美女で、目を引く存在だったので一目でわかった。


 けれど自分から関りに行くほど関心があるわけではないので、放置しておいたのだが。


 一度危ない目に遭っていたので、思わず助けてしまった。


「あっ、ありがとうございます。このご恩は必ず返しますので!」


 それ以来、妙になつかれてなぜか一緒に行動する事が多くなってしまった。






 そんなこんなをしているうちに、レベル100に到達。


 感慨深かった。


 達成感、はんぱない。


 もう断罪されても怖くない。


 運命の修正力もはねのけられる。


 と思って一安心していたのだが。


 心の平穏は長く続かない。


 乙女ゲームの原作時期になって、あれこれイベントが開始。


 世界の状況も変わっていって、一年後にラスボスが降臨した。


 ほっといてもヒロイン達が勝手に倒すでしょ。


 と思っていたら、なぜか声がかかってしまった。


「あなたの力を借りたいんです。お願いします」


 そして、ヒロイン達のパーティーにインしてしまう事に。


 どうしてこうなった。


 あれだろうか。登場人物二人と関りをもってしまったせいだろうか。


 私はただ、自分が死ななければそれでよかったのに。


 こんな事になるなんて思わなかった。


 だって。


 ラスボス討伐隊のパーティーによばれて大勢の前で頭をさげられたら、普通断れないでしょ!


 だからパーティーインした後、あれこれ理由をつけて何度かラスボス戦を断ろうとしたんだけど、ヒロイン達があまりにも助けて下さいオーラを出すモノだから。


「お願いです! あなたしか頼れる人がいないんです。あなたが味方になってくれればどんなに心強いか!」


 つい断れずに、そのままラストダンジョンへ向かってしまった。


 それで、あれこれレベル100のステータスを活かして、ヒロイン達をアシスト。


 決戦では、敵の前で囮をこなして、撃破をお手伝い。


 しぶといラスボスの2戦目、3戦目も主力としてしっかり戦闘に参加してしまった。






 そして、無事に撃破できてから一か月後。


 国王から勲章をうけとって、大勢の国民達の前でパレードまですることになった。


 尊敬のまなざしをおくる民達。


「なんてすばらしい人なんだ」


「普段から人の為に動いているんですって」


「まま、ぼく大きくなったらあの人みたいに、大勢の人をたすけるんだ!」


 もうやめて!


 キラキラした目をしないで。


 ただ断れなかっただけなの!


 こんな私をみないで!


 パレードの輝かしい馬車。


 そこにヒロイン達にまじりながら手をふる悪役令嬢が一人。


 しかしその心はどんよりまっくら。


 こんなはずではなかったのに。


 ほんとどうしてこうなった。


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