第5話 塩マグロ丼

 冒険者ギルドから初めての依頼を受けることになった俺たち一行。最初依頼は猫を探すというものであった。


 いなくなった三毛猫を確保する仕事だが、危険さからはほど遠い。


 のんびりまったりと町中で猫を探すが、三毛猫のみーちゃんは結構あっさり見つかった。酒場の裏に隠れていたのだ。


「うぉー! 早速捕まえよう!」


 はやるイシュタルだが、押さえさせる。見れば三毛猫のみーちゃんは俊敏そうだった。


「あれは追っかけると逃げるタイプの猫だ。だからこっちに近寄るのを待つのが上策だと思う」


「うーん、そうそう簡単に近寄ってくれるかな」


「そこで役に立つのが俺の能力、通販だ。通販でマグロを注文する」


「マグロ?」


「巨大な回遊魚だ。猫も大好きで猫まっしぐらさ!」


 ちょうどマグロの安い切り身が売られていたので注文すると、それをさらに乗せる。


「あ、知ってる。それ、猫またぎだ」


「こちらの世界では猫またぎっていうのか」


「猫もまたぐほどまずいんだよね」


「そりゃあ、こちらの世界では冷凍庫はないからな。だが新鮮なマグロは肉よりも美味しいんだぜ」


 そう言うとそれを照明するため、マグロ丼を作る。


「猫がやってくる間に腹ごなしだ。マグロの塩丼を作る」


「マグロの塩丼?」


「ああ、余ったマグロの切り身を軽く湯引きする」


「ふむふむ」


「それに塩、油、ニンニクをすり込んだタレに浸す。――三〇分くらいかな」


「ほおほお」


「それを熱々のご飯の上に掛けたら完成だ。ノリを散らすのが好ましい」


 そう言うとノリを刻んで散らす。


「本当に美味いのかな。これって猫またぎでしょう」


「猫またぎから猫まっしぐらになってるさ」


 そのように言うとイシュタルが一口目を放り込む。


「な、なにこれ、まいうー!」


 それが彼女の感想だった。


「全然臭みがないよ」


「ちゃんと冷凍された刺身だしな。それに塩だれが完璧に臭みを取っている」


「この塩だれがいい仕事している。湯引きした部分に絡んでまいうー」


「こうやってちょっと手間を掛けてやるだけで料理は何倍も美味くなるんだ」


「料理は愛情! だね」


 イシュタルはそのように言うと塩だれマグロ丼を食し終えた。さて、その間、素のマグロを餌に誘き出していたミーちゃんはというと彼女もマグロの虜になっていた。

野性味を捨て去ってマグロにかぶりついている。俺は彼女を優しく抱きかけると言った。


「ミーちゃんゲットだぜ!」


「ミッション達成だね」


「ああ、異世界で初めてのミッションだ。まあ、異世界ぽくないけど、危険な目に遭わなくてよかった」


「血踊り肉が沸き立つ冒険は今後に期待だね。さて、この猫をギルドに連れて行って報酬を貰おう」


 みーちゃんの報酬は銀貨七枚だ。日給7000円だと考えれば悪いものではない。まあ、マグロ代1000円の経費が掛かってしまっているが。


「猫探し系は楽だから積極的に受けよう。マグロは無敵だ。この時期は鰹も美味いしな」


「残念ながら猫探し系はこれだけだったよ。次は採取ミッションを受けよう」


「そうか。まあ、この異世界を旅立ちながらなにかを探すってのもおつだな」


 そのように纏めると俺はイシュタルおすすめのニトロダケ納品というクエストを受けた。


 なんでも可燃性の茸を集めて納品する仕事だそうな。


「へえ、こっちの世界にはそんなのがあるんだな」


 素直に感心すると、俺とイシュタルは街を出た。


 ニトロダケは街の外に生えているのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る