第3話 豚キムチ
ラグランジュ・オンラインの世界に降り立った俺たち一行、スライムを倒すとそのまま街を探す。
幸いとこの森を出たすぐのところに街があるらしい。
そこには冒険者ギルドもあるらしく、そこで冒険者として登録するのが俺の第一の任務となった。
「魔物を狩って素材を集めるのもいいけど、先立つものがないしな」
イシュタルから貰った銀貨三枚はすでに消費してしまったので俺の財産はゼロだった。
「てゆうか、イシュタル、おまえは金を持ってないのか?」
「君にあげた銀貨三枚がボクの全財産だよ」
「むむう、異世界に着たばかりだというのに心許ないな」
「大丈夫、君はスーツを着ているだろう。それを売ればいいお金になる」
「そうか、スーツを売ればいいのか」
さっそくアドバイスに従い街の仕立屋に入る。店に入ると店主が驚きながらやってきた。
「なんと珍しい生地で仕立てられた服だ。その服、是非、譲ってください!」
揉み手をしながら提示してきた金額は金貨三枚だった。日本円にすると三万円ほどだ。
「三万円あればこっちの服も買えるな」
裸で過ごすわけにも行かないから金貨で冒険者風の衣服を買い揃えるとそれでも金貨二枚ほど余った。
「よし、それで美味いものを食べよう!」
イシュタルはそのように提案してくるが、こちとら冒険者を目指すもの、腰に剣がないのは寂しかった。金貨一枚でショートソードを買う。
「よし、これでスライムも一撃だ」
「まだ金貨余ってるよね。それで美味いもの!」
イシュタルが「通販~、通販~!」と叫ぶので仕方なく俺は通販の画面を開いた。
「まったく、さっき牛乳ラーメンを食べたばかりだろう」
「もう三時間と二五分ほど経過してますぅ」
そのように口を尖らせる女神様。どうやらこの女神様は大食漢のようだ。
「それじゃあ、余ったお金で夕飯を作るか」
俺は「通販」のスキルで包丁とまな板とガスコンロをクリックすると、タマネギと豚肉とキムチとご飯も注文した。
「なになに、なにを作るの?」
「豚キムチだ」
「美味そうな名前」
「美味いぞ。まずはタマネギを切ってそれを鍋で炒める」
本当はフライパンがほしいところだが、お金が足りないので鍋で代用する。
「タマネギに火が通ってきたら豚肉を投入。みりんと酒、醤油を入れる」
「すごい、いい匂い!」
「食欲をそそるだろう? 豚肉に火が通ったらキムチをぶち込む!」
「赤い色って食欲をそそるよね」
「ああ、キムチと肉が絡まったら完成だ。これをご飯に掛ける」
「おお、ワイルド」
「まだまだ食器も足りないからな。ここはどんぶり形式だ」
「大丈夫、ボクはお上品さとか気にしないから。それよりも早く食べさせて!」
イシュタルはそのようにせがむとどんぶりをかすめ取る。
「箸、使えるか?」
「東洋のナイフとフォークだね。任せて、ボクは器用なんだ」
そのように断言すると彼女は宣言通り器用に箸を使う。役に立たない女神様だがこういうところは妙に器用だ。
「はふはふ、辛いけど美味い! この辛みが食欲をそそる!」
「西洋にはない食べ物だろう」
「そうだね。パンとスープばかり食べてたから新鮮だ!」
「熱々の米を口に駆け込むのは東洋人に許された特権だ。『通販』のスキルを持つもののだけに許される」
「君に通販を付与させて正解だったよ、剣聖や賢者だとこうはいかない」
「異世界でも日本食が食べれるのは幸せだ」
そのように締めくくると俺はステータスを見る。残金は綺麗にゼロだった。まったく、人間というやつは生きているだけで金が掛かる。さっさと冒険者ギルドに登録して金を稼がねば。
そう思った俺は最後の一粒まで残さずどんぶりに食らいついている女神様の襟首を掴んで冒険者ギルドへと向かった。
「冒険者ギルドはどこにあるんだ?」
どんぶりを舐めるように離さない女神様は「あっち!」と指をさす。ナビゲーターとしては優秀なようだ。たしかに冒険者ギルドはそこにあった。
立派な建物の冒険者ギルドを見上げると、感慨深げにその中に入った。
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