第2話 スライム

 俺が転生した世界がかつて俺がやりこんでいたゲーム、ラグランジュ・オンラインに似通っている、と気が付いたのはステータス画面を開いたときだった。ウィンドウの配列、文字列などがゲームに酷似していた。



 ヨシダ・ユウタ 男 26歳 無職


 レベル1


 HP 20

 MP 0


 筋力 3

 体力 4

 敏捷 3

 知力 5

 魔力 0

 精神 1

 幸運 3


 装備 スーツ

 スキル 通販



「すげえ、スキルが見えるってまるでネット小説みたいだ」


 そのように感嘆していると女神は軽く咳払いをする。


「こほん、ここは君の想像した通りラグランジュ・オンラインの世界だよ」


「やっぱりそうなのか」


「うん、この宇宙には三〇〇〇の異世界があるんだけど、君ならばこの世界に転生したいだろうな、って思ってチョイスしてみました」


「ベストなチョイスだよ。ラグランジュ・オンラインは数千時間はやりこんだからな」


「君の人生は会社とラグランジュ・オンラインに捧げたようなものだね」


「ああ、異世界に転生するならばラグランジュ・オンラインがいいと思っていた。


――てゆか、転生でいいんだよな?」


「見た目や年齢はそのままだけど転生でいいよ。君は生まれ変わったんだ」


「なるほど。まあ、転移と転生って限りなく曖昧だしな」


「君はこの世界で冒険者として生計を立てるんだ」


「まあ、そりゃあ、この世界は剣と魔法の世界だしな。それに俺は手に職は付けていないし」


「そうそう、生産職系にはなれない」


「ちまちまと低ランクの冒険をこなして日銭を稼ぐよ」


「それがいい、ボクの分の食費も稼いでよ」


「イシュタルは働かないのか」


「ボクは女神だよ? 箸よりも重いものを持ったことがないもの」


「役に立たない女神だな」


「回復魔法ならば女神級だけどね。戦闘力は皆無だと思って」


「チート級の戦力を期待したんだが」


「ご期待に添えずに申し訳ない。――てゆうか、さっそく、戦闘の匂いがしてきたよ」


 イシュタルがそのように言うと前方の草むらががさがさと動く。


 そこから現れたのは水色の物体だった。


「お、RPGの定番の雑魚だ」


「スライムの登場だね」


 ぷるるんと震える不特定で不確定な物体。


「スライムならば武器がなくても倒せそうだ」


「そうだね。むしろ、打撃のほうが効果的だ」


 イシュタルがそのように言うとスライムが襲いかかってきた。


 ぷるるん! と跳びかかってきたスライムの攻撃をかわすと水色の本体めがけ拳を振り下ろす。


 ぶしゃ!


 と飛び散るスライムの肉片。一撃では四散できなかったが確実にダメージは入っていた。


「よしこれならば戦える」


 そのように漏らすと俺は打撃を加え続ける。


 ぐしゃ! ぐしゃ! と音が鳴り続け、体液を飛び散らし続けるスライム、五回ほど攻撃を加えると動かなくなった。


「……勝った、のか?」


「そうだよ、君の勝利だ」


 イシュタルはにこりと微笑む。


「君はラグランジュの世界で初めての戦闘に勝利したんだ。おめでとう!」


「そうか、俺は勝ったのか」


 実感はまだ湧かないが、スライムの死体が消え去り、そこに素材のようなものが残されると実感が湧き始める。


「おお、これがスライムの素材」


「それを街に持って行けばお金になるよ。ま、スライムの素材だから安いけど」


「それでも初めての素材だ。大事にしないとな」


 俺は丁重に素材に手を添えるとそれをアイテムボックスに収納した。


「素材が消えた。でも、ステータス画面にはちゃんとある。まさしくラグランジュの世界だ」


「無限ではないけどかなりの数の素材を持てるからね」


 女神イシュタルはそのように説明すると俺の初めての勝利を祝してくれた。


 改めてステータス画面を見つめるが、レベルはまだ1のままだった。どうやらスライム一匹だけではレベルが上がらないようだ。


 このまま魔物を討伐し続けようか迷ったが、それよりもまずは生活を安定させることが重要だと思った。


「ただ漠然と魔物を倒すよりも冒険者ギルドに登録して依頼を達成しながらレベルを上げたほうが効率的だよな」


「よく気が付いたね。たしかにその通りだ」


 イシュタルは俺の提案を認めるとまずは街へ赴くべきだ、と提案した。


「ギルドから依頼を受けてお金を稼いで、それでボクに美味しいものを食べさせて」


「こっちの世界でも生活費は必要だしな。そうしよう」


 意見が纏まると俺たちは街を目指すことにした。


 ちなみに最初の街はイシュタルが教えてくれた。戦闘では役に立たないが、このようなサポートはしてくれるらしい。右も左も分からない俺にとっては有り難い存在だった。


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