4-2 盗られた!うめぼしの謎 事件概要

 私は、おじいさんが梅干しのパックをどのように盗んでいったかを話し始めた。


「私は普段、このスーパーでお菓子売り場の品出しとレジ打ちをしています。私が今回のおじいさんの犯行を目撃したのは品出しをしていたときでした。おじいさんが梅干しのパックを持ちながら、私の背後をすたこらさっさと通り過ぎ、出入口の方までスイスイと歩いていったんです」

「なるほど。あのおじいさんは常連ですか?」

「私、月から土まで毎日働いていますが、あのおじいさんは、たまに見る程度の方でしたね…いつも、1人で来られていたような。ご家族さんは多分一緒に住んでいないんでしょうね…」

「うーん…」

 間口さんは頭をかき始めた。眉をひそめてもいる。何か引っかかることがあるのだろうか。

「ちょっと、待っててください。知り合いに電話します」

 間口さんはそう言いながら、私とちょっと距離を取り、スマホで電話をかけ始めた。数秒後、電話の相手が出たらしい。音が結構漏れているが、ものすごい早口でしゃべっているようだった。しばらくすると、少し顔をしかめながら、間口さんは通話中のスマホを私のもとに持ってきた。


「ちょっと、知り合いがあなたと話したいみたいなんです。うるさい奴ですが、今回の事件において役立つと思うんで…俺もあいつとのやりとりを聞きたいんで、スピーカーはONにしていてくださいね」

 こんな強面こわもての男が怖がる相手とはどんな人なのだと思い、私は恐る恐るスマホを受け取った。


「こんにちは。はじめまして。畑内小夜子はたけうち さよこと申します。スーパーの店員をやってて…歳は26歳・どく…」

『そういう要らない情報は別に言わなくて良いです!間口の払う通話料が高くなっちゃうし。どうも初めまして、神細寺経太しんさいじ きょうたと申します!30歳・探偵をやっています!!』


 その男の声はやけにハイテンションで不気味だった。まるで、パチンコでボーナスステージに入ったとき興奮する人のようだった。


『いきなりですが、盗っている時のおじいさんの表情ってどんな感じでしたか?』

「はあ、無表情でしたね…まるで、盗ることが当たり前という感じで」

『おじいさんの年齢は?』

「あんまり、言っちゃダメなんですけど、数日前スーパーの会員カードを通したとき、年齢を見た際は60代だったような…見た目的に80歳くらいかなと思ってたので、レジに表示された年齢を見て”若っ!”って思って印象に残ってたんですよね。あれ、そういや…あのときも梅干しのパックを持ってたような…受け取ってレジに通しましたが」


 私は、昔から記憶力が人より少し秀でている。まあ、それを活かす機会は、今までの人生でほぼ無かったのだが。


『なるほどね。レジ打ちしてる時って、おじいさんは何か言ってました?』

「うーん…無言でしたね。会員カードも無言でクイって突き出すように渡していました。そういや、あの時も表情は無表情でした。私に対してなんか怒ってるのかな、と疑いましたもん」 

 

 あの時の記憶が蘇る。おじいさんの表情はひどく無表情だった。それはまるで、人形のよう…


『うーん、<自発話の減少>…<感情鈍麻>がみられるのか…やっぱり…』

 男は小声で専門用語を呟いており、私にはチンプンカンプンだった。

 暫しの沈黙の後、男はこう叫んだ。


『謎は解けました!』


 私はひどく驚いた。もう解けたのか…

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