1-7 スラッシャー山本殺人事件 エピローグ

「結局、日比谷さんはどんな罪に問われたんだ?」

 魚や肉やらの匂いの立ち込める場末の居酒屋で向かいの席に座っている神細寺が俺に聞いてきた。

「日比谷か…日比谷は結局何の罪にも問われなかったよ。」

 日比谷は証拠不十分で不起訴となった。日比谷は包丁を置き忘れそれが原因で事故で山本は亡くなったと結論が出たらしい。

「そうなんだ…」

 そう言いながら、神細寺はチーズ餅をリスのように両頬を膨らましながらパクパクと2個頬張った。

「あのな…お前いくら俺の奢りだからと言って―――」

 今回の事件の報酬で俺は神細寺に居酒屋で奢ることになったのだ。

 しかし、奴は冬眠前のクマのようにむしゃむしゃと食いまくる。下手したら会計が5万近くなるのではなかろうか。

 俺が、その事実に気づき脳内で悲鳴をあげていると、電話の音が鳴った。

 電話の発する声を聞いて動揺した俺は火をつけようとくわえていた煙草を机の上に落とした。

「神細寺、お前…日比谷が…」

「日比谷さんがどうしたんだ?」

「死んだよ」

「え」

 珍しく神細寺が本気で困惑している様子だった。

「自殺だよ…」

 先程の電話は日比谷が自宅アパートで首吊り自殺をしたという旨の電話だったのだ。日比谷は最後の贖罪として死を選んだのだろうか。俺にはわからない。

 煙草をくわえ直して火をつける。

 死を知ったからか煙草の煙が線香の煙に見える。

 居酒屋の窓から夜空を見上げて考える。

 ―――推理というものは時にこうやって誰かの不幸を孕むものなのだ。


【参考文献】

石合純夫(2022)『高次脳機能障害 第3版』医歯薬出版株式会社

山鳥重(1985)『神経心理学入門』医歯薬出版株式会社

医療情報科学研究所(2017)『病気が見える vol.7 脳・神経第2版』メディックメディア

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