1-4 スラッシャー山本殺人事件 解決編①

 俺はとある部屋に来た。いかにも応接間という部屋で、向かい合ったソファ、その間に木でできた四脚の上に大きなガラス板が載った机がある。そして、その横にはいわゆる社長机が佇んでいる。社長机の上には脳のフィギュアが置いてあった。

 部屋の四方には、所狭しと本棚が置かれている。本棚には神経心理学の本がずらりと並んでいる。PT向けの本、OT向けの本、ST向けの本を本棚1つずつに分け当てているらしい。そして、三療法士の本棚の横の本棚は神経心理学全般の本棚であるらしく『病気がみえる脳・神経』初版が5冊、第2版が5冊、山鳥重の『神経心理学入門』が10冊以上等が置かれていた。そういや、中学の修学旅行で東京に行ったとき、新幹線で周りがはしゃぐ中でずっと無言で『神経心理学入門』を読んでいたなあいつ…と思い出す。その他の本棚は仕事の資料やらで溢れかえっていた。

 

 言わずもがな、ここは神細寺しんさいじの自宅兼事務所の一室だ。

 

 俺こと間口宏まぐち ひろしは、神細寺に呼ばれてここに来た。他にも、スラッシャー山本の友人である日比谷恭介ひびや きょうすけ、マンションの大家である大元家次おおもと いえつぐも奴に呼ばれてこの場に来ていた。

 どうやら、奴の推理が始まるらしい。


 ギーっとドアが開く音がする。

 神妙な面持ちを浮かべた奴が入ってきた。手元にはノートパソコンと覆面マスクのようなものがあった。

「どうも神細寺探偵事務所へようこそ!」

 急に明るい声色で歓迎の声を出す神細寺に周りの人間は皆ハの字眉になった。

「お前!!俺の友達が死んでいるんだぞ!!」

 日比谷が勢いよく立ち上がってそう叫んだ。その表情は非常に険しかった。

「まあまあ、リラックスしてください。リラックス」

 神細寺はからかっているかのように微笑を浮かべながら返す。長年の友人であり奴の性格をよーく理解している俺でも少し腹が立った。

「日比谷さん、友達って言ってますけど…本当に友達だったんでしょうか」

 神細寺はまた相手の神経を逆撫でするような話し方でそう続けた。

「友達だよ。毎日、残った料理届けたりしてたよ」

 そう言う日比谷の声は語尾に怒りが込められていた感じだった。

「本当ですか?」

 ニヤリと笑みを浮かべながらそう言ったやいなや、神細寺は日比谷に先程手元にあった覆面マスクを無理やり付けスマホで写真を撮った。

 無論、日比谷はその不躾な行動に非常に怒った。

「何するんだよ!!ふざけんな!!帰る!!」

 そう叫んでマスクを取って投げ捨て、すぐに踵を返そうとした。が…

「昨日、スラッシャー山本さんの動画を見てあることに気づいたんですよ」

 神細寺がそう言うと足を止めて日比谷は神細寺の方に首を向けた。

「相手のヒール役なんですが、もしかしたらあなたじゃないかって」

 神細寺はノートパソコンを開いてとあるpdfファイルを見せた。

 それは、スラッシャー山本VSパイプマン狂介と書かれたポスターだった。そこには、プロレスラー2人が鬼のような形相でにらみ合っている様子の写真があった。

 神細寺は続けて、先程撮った覆面姿の日比谷の写真も見せた。

 そこには、表情は違うものの全く同じ顔をしたプロレスラーがいた…

「いや~このポスターと覆面手に入れるの苦労しましたよ。知人の知人の知人に頼みまして漸く手に入れました。最初は狂介って人がいると思ったんですがこれは本名の漢字を変えただけだったんですね。」

 日比谷は今出ていくと犯人と疑われると思ったのか無言でソファに戻ってきた。

「で、何だ?俺が殺したとでも??」

 心なしか先程より日比谷の声に威勢が無くなっている。

「いやいや、あなたは殺してないですよ」

「へ?」

 俺は驚いて思わずへんてこな声を出した。

「じゃあ、誰が犯人なんだよ神細寺…」

 俺がそう聞くと、神細寺は隣の部屋からホワイトボードを取り出してきた。

 そして、ホワイトボード用のペンを持ちキャップを外して、まるで講義を開始する際の教授のように抑揚をつけた声でこう言い放った。

「じゃあ、犯人は誰なのか?それは今から僕が丁寧に教えていきますよ!」

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