第5話 この妹ありて、この姉に


 宴が終わり、騒がしかった夜も静寂を取り戻す。空を見上げれば無数の星が私達を見つめていた。

 毎日そこにいる星達はいつもより輝いて見える。

 星達も妹の誕生日を祝ってくれている……かもしれない。我ながらメルヘンチックな考えだ。酔っているのかな?


 手でお月様を隠して、指の隙間から覗く。

 意味はないけど、久しぶりにお月様で遊びたくなった。満月の日なんかは特に……よく見たら満月じゃないな。

 バカな自分に失笑する。


「じゃあ、お姉ちゃん。そろそろ家に案内するよ」

「ん……え?今から?」


 眠りに入ろうとしていた脳に水をぶっかけられたようだ。

 何故このタイミングで?と頭は理由を模索するするが、すぐに諦めた。

 普通はお昼の明るい時間に見せた方が良いはず。でも、彼女はそれを気にする様子はなく、私を手招きする。


 まあ案内するって言うのだから断る理由などなく、ラフィの後ろに着いて行く。

 村のどこにあるのだろう?とキョロキョロ見渡す。

 気づけば村を囲う柵から出てしまった。


「え?もしかして、今から山の中に入るの?」


 私達の住む村の四方には木々が生い茂る山々が連なり、村はその麓にある。

 それ故、村を出るってことは山の中に入ることと同義。辺境も辺境の土地だ。


「そうだけど、この道を真っ直ぐ進めば大丈夫だよ」


 しかし、ラフィの指差す方向には木々はなく、山の傾斜には人工的に作られた階段のようなものがあった。

 えー何コレ?と唖然とする。

 半年前は絶対になかった道を何の説明もなく、ラフィは黙々と進んで行く。


「そろそろ着くよ、お姉ちゃん」


 およそ山の中央付近で階段は終わり、抜けた先には花が生い茂る広場が現れる。

 外敵から守るように柵が並び、お花畑の中央には1つの家が建てられていた。


「アレが私達のお家だよ。どう?素敵でしょ?」


 この山の木を使った2階建ての木造建築。これがお父さん達のプレゼント。

 花畑と言い、お家のデザインと言い、メチャクチャ神秘的で素敵……素敵なんだけど……プレゼントの規模が大きすぎる!

 この階段も絶対お父さん達が作ってくれたよね!

 どうしてウチの家族はラフィに甘いんだ!


 しかし……この場所……どこかで見たことがあるような。

 昔……そうそうアレはラフィともう1人…。


「しかも、家のレイアウトとか私が考えたの。褒めて!」

「へぇー……ってええ!ラフィが?!」


 この服のデザインと言い、妹の隠された才能がドンドン開花されている。

 逆に何が出来ないのか試したくなる。


「でも、流石に2階建てはやりすぎなんじゃない?」

「お姉ちゃんと住むって考えたら、どんどん想像が膨らんじゃって、気づいたら2階建てになってました」


 可愛く舌を出す。

 そんな可愛い顔しても許す!仕方ないよね!想像しちゃったんだから!

 私もラフィと過ごすことを考えて設計するなら、同じ感じになりそうだ。


「それにここなら村からも近いし、王都からも近いからね」

「うーん、あんまり変わらないんじゃない?」


 四方に連なる山の向こうには、国や街、王都が存在し、山を越えるだけで1日と経たずに到着する素晴らしい土地なのだ。

 まあ山を越えれたらの話だけど。

 ここに住む人ですら、目標がないと迷うのだから、普通の人が入ったらまず山の中で遭難するだろう。

 それを踏まえるとここからではあまり意味がないと思う。


「ふふ、そこは考えてあるよ。あっちに山頂までの階段も作ってもらったから、遭難の心配はなし!」


 そんな物も作ったのか……お疲れ様です。お父さん。

 作ったは良いが、そもそも、階段があっても王都に行く頻度は増えるだろうか?

 年に1回行くか行かないかぐらい頻度だ。でも、アレかな?前は家族旅行的な感じだったから、ラフィと2人きりになったから行くことも増えるかもしれない。

 そう考えると、無駄ではないよね。


「それよりもお姉ちゃん、旅で疲れてるでしょ?家具はもう配置済みだから、すぐにでも寝れるよ」

「あ、うん。でも、その前にお風呂に入りたいな」


 朝からずっと村まで走って帰って来たから汗でベトベトだ。この状態でベッドインは絶対にヤダ。


「お風呂ってそんな……もう気が早いんだから//」

「んん?」


 何をそんなに照れているのだろうか?

 そう言えば、昔は良く一緒にお風呂に入ってたな。ここ1、2年ほど入ってないけど。

 あの時は良く胸を触られてたな……今思えば、メッチャ恥ずかしい。もしかしてあの時から既に?いやいや流石に…。


 とりあえず、ラファにお風呂場まで案内させてもらった。

 お風呂場の中はそこそこ広く、2人で入っても全然余裕そうだった。

 と言うか、広すぎる。実家よりも明らかに。


「ラフィ、こんなに広くする必要あったの?」

「もちろん!どこでもヤレるように……ね?」

「え?」


 何を言っているかわからないけど、とりあえず頷いておく。

 ラフィは先に寝室に向かうと言って、2階の方に上がった。

 一緒に……と思ったけど、今の関係を考えるとちょっと……いやかなり恥ずかしい。


 お風呂に入り、今日の出来事を思い返した。

 まだ現実味を帯びていない自分がいる。夢なんじゃないかとほっぺをつねる。

 コレからのラフィとの生活を考えるだけで、体の奥から熱が込み上げてくるのがわかる。

 お風呂の熱なのか、自身の体温なのかわからなくなる。体にマグマが流れているようだ。

 これ以上入っていると、逆にお風呂を沸騰させそうになるのでお風呂から上がる。


「えぇーっと寝室は……多分ここ……のはず」


 『2人の愛の巣❤️』と書かれたネームプレート?があったのですぐにわかった。コレでわかってしまう私は自惚れているのだろうか?

 ネームプレートのアレはさておき、一緒に寝ること自体は前からだったので、何の疑問にも思わない。

 もう寝ているかもしれないので、ゆっくりと音を立てずに扉を開く。


「あ、お姉ちゃん」

「まだ起きて……たんだ」


 部屋に入って真っ先に目にしたのは、スッケスケのランジェリーを着たラフィだった。えぇー。

 そして、幅の広いベット……ダブルベットと言う物が部屋の中央にドンっと置いてあった。どうやって入れたんだろう?


 ベッドに腰を掛けているラフィは、私を手招きをする。

 その様はどこか艶かしくて、湯冷めしたはずの体は再び熱を帯びる。

 ずっと目を逸らして来たけど、恋人って……恋人なんだなーって思った。


 目のやり場に困りながら、ラフィのすぐ横に座る。

 頭が沸騰した水のように煮えたぎり、熱さで脳が溶けてしまいそうになる。


「お姉ちゃん」

「は、はい」

「ふふ、何を恥ずかしがっているの?」

「だって……」

「安心して、今・日・は・何もしないから」


 そう言って、手を握ってくる。

 いつもと変わらないスキンシップに、どうしてこんなにも心が慌ただしく動くのだろうか?

 脳がショート寸前の状態だが、さらにラフィは私を押し倒した。


「ち、ちょっとラフィ?」

「今日はただ一緒に寝たいの。久しぶりにお姉ちゃんがそばにいるから」


 そう言って、彼女は私の胸に顔を埋める。

 私も嬉しいけど、今はそれどころではない!


「ああ、お姉ちゃんの心音が聞こえる……ふふ、早くなってるよ」

「そ、それは……久しぶりに一緒に寝るから緊張してるのかなー……なんて、アハハ」


 違います!何かを期待していただけです!卑しい姉でごめんさない!

 理性と本能がレディーファイト中で寝るに寝れない状態だ。

 最初っからこんな状態で大丈夫だろうか?


 今の私は、恋人らしいことをやろうと思えば思うほど、何も出来ずにその場で足踏みをしてしまうだろう。

 『好き』の言葉も喉で突っかかり、窒息して、自分を見失いそうになる。

 コレから先、私はラフィに何をしてあげられるのだろうか?

 胸元にいる彼女を見る。


 私の葛藤を知らないラフィは眠りについていた。

 スゥスゥと寝息を立てながら、私を抱きしめる。

 半年前もこんな感じに私を拘束していた。身も心も。見てるだけで癒され、嫌なことは全て吹き飛び、明日が来るのを待ち遠しくなる。

 

「おやすみ、ラフィ」


 頭を撫でると懐かしい気持ちと愛しい気持ちが溢れてくる。

 何が出来るかなんて、コレから考えれば良い。これからも一緒なのだから。

 今はこのひと時を久しぶりに噛み締めよう。

 ラフィの体温は毛布を被るよりも気持ちよくて、眠気が急に襲ってくる。

 明日は何をしようかな?

 散らばった意識を集めて最後に思う。

 楽しみだな。

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妹におねだりされたので魔王を討伐したが、次に結婚してとおねだりされたら修羅場になりました @teki-rasyu

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